偽造品とのいたちごっこに終止符、真贋見抜く“技術の眼”たち
人と技術の両眼で真贋(しんがん)を見抜く。商品の売買手段が多様化する中で、各社が偽造品対策に力を入れている。偽造品の流通は消費者が不利益を被るだけではない。低品質で粗悪な偽造品が出回ることは企業のブランドやイメージを低下させる。近年は偽造する側の手口も巧妙化している。いたちごっこに終止符を打つため、各社は人工知能(AI)や画像認識、クラウドなどの技術を活用し、対策を高度化する。
AIが常時監視 米アマゾン、世界50億件チェック
米アマゾンは、世界中で毎日更新されるインターネット通販「アマゾン」の商品情報約50億件超を自動でAIに読み込ませ、機械学習により偽造品の疑いがある商品を検知する「プロジェクト・ゼロ」を実施している。これにより偽造品の疑いがある9000万点以上の出品を消費者が閲覧する前に排除した。
同プロジェクトは2019年から米国とフランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国で開始し、登録企業は6000を超える。企業はアマゾンに連絡することなく、偽造品の疑いがある商品をアマゾンのサイト上から削除できる権限を持つ。削除された商品情報は機械学習に反映され、偽造品検出精度の向上につながる。日本では10月に運用を始めた。試験運用ではパナソニックやアイリスオーヤマ、任天堂などが協力した。
メルカリ、データの“穴”見つける
メルカリもAIなどを活用して24時間体制で不正商品対策を進める。フリーマーケットアプリケーション(応用ソフト)の「メルカリ」に出品された商品画像などを基に、AIが偽造品の疑いのある商品を抽出している。
出品者が記載する商品説明文も不正出品を防ぐヒントとなる。例えば出品されたブランド品の説明文に、購入時期・場所の記載、保証書・レシートの画像がない場合、不正出品の可能性があるとシステムが判断するという。
こうして抽出された商品は、最終的に目視で偽造品かどうかを確認。偽造品だった場合、商品の削除や出品者へ警告する。同社は「同じユーザーが何度も偽造品を出品すると悪質行為と見なし、アカウントを停止することもある」という。
フリマアプリ内での偽造品対策と並行し、国内での偽造品流通を防ぐ啓発活動も進める。3月には特許庁と連携し、海外旅行先での偽造品の購入や日本に持ち帰って販売することを抑止するため、ポスターを制作した。
コメ兵、「AI真贋」鑑定士サポート
コメ兵の強みは、中古ブランド品の真贋判定を行う「鑑定士」。同社従業員の6割を占める。鑑定士は各店舗と、品質・相場・流通機能を有する「商品センター」に所属。「偽物を一切市場に出さない」(担当者)ために、買い取った中古ブランド品の真贋を市場投入するまで5回行う。
鑑定士は「一人前になるまで3年、熟練は10年」(同)と言われ、育成には多くの時間とコストがかかる。今後の海外展開を含めた規模拡大を見据え、同社もAIを用いて真贋を判断する「AI真贋」の開発に着手。19年度内の導入を目標に、使用時のマニュアルづくりや教育を急ぐ。
AI真贋はカメラで撮ったブランド品の画像を、AIが同社の蓄積したデータを参考に真贋を判断する。判定時間の短縮や鑑定士育成カリキュラムの短縮につながると期待している。まずは取り扱いの品数が多い名古屋本店本館(名古屋市中区)や新宿店(東京都新宿区)など大型店での導入を計画する。
今後各社はさらに取り組みを拡大する。アマゾンはメーカー自身が自社製品の製造・発送時に固有のコード(シリアルコード)を発行することで真贋を確認できるサービスを日本で20年上期に始める予定。メルカリはAIを活用した偽造品検知や商品検索などの高度化に向け、AI人材の採用を強化している。現在約50人のAI人材を抱えるが今後さらに増員する計画だ。
キヤノンITソリューションズ、判別用2次元コード貼付
越境電子商取引(EC)やCツーC(消費者間)アプリの利用によって、さまざまなルートで商品が行き交うようになった。当然、偽造品が出回る確率も高まっていく。
キヤノンITソリューションズ(東京都港区)の正規品判定クラウドサービス「C2Vコネクティッド」は化粧品や日用品メーカーなどで活用が進む。企業は自社製品に2次元コードを貼り付けて出荷する。消費者がコードをスマートフォンなどで読み込むことで正規品か否かを判別できる。2月には中国IT大手の騰訊(テンセント)が提供する会員制交流サイト(SNS)「ウィーチャット」と連携。消費者は同アプリの公式アカウントから商品判定ができる。
財務省によると、18年の税関における偽ブランド品などの知的財産侵害物品の輸入差し止め点数は、前年比83・5%増の92万9675点と過去5年間で最高水準となった。
18年4月には函館税関が1着に4本の偽造ファスナーが付いた衣類400着を発見し、知的財産侵害物品として輸入を差し止めた。
YKK、微細紋様で個体識別
ファスナー世界首位のYKKは税関に対する啓発活動やブランド保護組織活動など多様な対策を取っている。同社はNECの画像認識サービス「GAZIRU」も導入。素材や部材の表面に自然発生する微細な紋様を認識して個体識別するため、製造工程における調達素材などの情報を個体管理できる。
安く作る衣服や財布などの偽ブランド品は、使用する部材も本物が少ない。「YRR」「VKK」などの偽造ロゴだけではなく、YKKの文字を入れた悪質な偽造品まであるという。
凸版、酒類にNFCタグ活用
ブランド品とともに酒類も偽造が多い。ワインや蒸留酒などの高級酒で中身を入れ替えた偽造品が出回る。そこで凸版印刷は、NFC(近距離無線通信)タグを活用して偽造防止に取り組む。ボトル上部を覆うキャップシールに開封検知機能付きのNFCタグを組み込んだ「インタクト」を仏アムコアカプセルズと開発。9月に提供を本格的に始めた。
キャップシールの開封や穴を開けたことを検知して履歴を残すことで被害を防ぐ。凸版印刷が独自設計したタグは、通信回路と断線を検知する回路を持つ。断線後も機能するICチップを採用しているため、不正の検知だけではなくマーケティングにも役立つ。
高級酒などに使われるため、インタクトは高級感のある見た目も特徴の一つ。金属と非金属のフィルムを組み合わせたキャップシールを採用している。一般的な金属製シールはICタグが干渉を受けやすいため一体化が難しかったが、意匠性と機能性を両立した。