ロボットSI、仕事量は歴史的な高水準なのに危機感のワケ

「低予算市場」開拓へ難題

 ロボットシステムインテグレーター(SI)業界が構造的な課題に悩んでいる。足元の仕事量は歴史的な高水準でSI各社は人手が足りないとうれしい悲鳴を上げる。一方で技術領域は人工知能(AI)などの情報領域に広がるほか、食品工場など開拓する市場は製造業に比べ自動化への投資額が少ない。人手不足の中で先端技術を取り込み、低予算市場を切り開くという難問が立ちはだかる。足元が好況な間にどう課題に対応し、何を仕込むかで5―10年後の業界の浮沈が決まる。(取材・小寺貴之)

経験が重要


 「SIの大半が従業員100人以下の中小企業。海外に流れた仕事を追いかけていけるかというと、それは難しい」―。FA・ロボットシステムインテグレータ協会(SIer協会、東京都港区)の会長を務める久保田和雄三明機工(静岡市清水区)社長は指摘する。日本の産業用ロボットは受注額と出荷額ともに歴史的な高水準にある。その約7割は海外に輸出されている。産ロボのシステム構築はサービス業に近い。現場での細かな調整や保守改善などの経験が重要で、仕事が人材を育てる。

 国内の仕事が大量にあり、手が回らない状況では、海外に流れる仕事や競合の成長に気を回す余裕はない。リンクウィズ(浜松市東区)の吹野豪社長は「いま暇なSIはいない。これ以上仕事が増えてもさばけないだろう」と指摘する。

                

 国内SIのキャパシティーを超えているのは仕事量だけではない。IoT(モノのインターネット)やAI技術など、情報技術にもインテグレーションの領域が広がっている。IoTは機械が生み出すデータを集めて分析し、稼働や保守を最適化する。画像認識AIは把持対象の認識や画像検査などに広がった。

知識量に限度


 従来の機械と電気、制御技術に加え、情報やデータ科学の重みが増している。そのため産業界はより幅広い技術を学んだ学生を求める。ただ、1人の学生の頭に詰め込める知識量には限度がある。

 東京大学の淺間一教授は「大学のカリキュラムはすでに目いっぱい詰め込まれている。1人の頭に詰め込む量を増やすより、分業と協力を教える方が現実的だ」と指摘する。技術のすり合わせの妙味は座学だけで教えることは難しく、実践と経験がものいう。AI人材はデータとアルゴリズムで一定の経験を積めるが、ロボットのインテグレーションは経験を積むためには実機が必要だ。人材育成の面でもハードウエアの制約があった。


トラウマ


 一つのシステムを構築するために必要な技術領域と技術者数は増えている。例えば食品産業は自動化予算が製造業に比べ1ケタも2ケタも小さい。SIは技術者の人数を抑えて、1人が幅広い技術をカバーする必要がある。国内型の食品産業は輸出型の製造業が不振に陥った時に仕事を補う柱としてSI各社が開拓してきた。食品は軟らかく、形のバラつきも大きい。定形部品を扱ってきたFA技術だけでは扱えず、AI活用が期待されてきた。小さな予算で最先端技術を求める市場だ。

 SIer協会の久保田会長は「安易に請け負いトラウマになっているSIも少なくない」と明かす。

予算を分担


 足元が好況な間は人材を引き抜くことができ、仕事は高いものを選べる。現状では大きな問題にはならず、SI各社の経営努力に委ねられている。ただ構造的な課題は業界を挙げて解決しないと市況が暗転した時に問題が深刻化する。オフィスエフエイ・コム(栃木県小山市)の飯野英城社長は「同じ危機感はほとんどのSIが持っている」と説明する。

              

 試みはある。オフィスエフエイ・コムは新市場の低予算の問題に対して「課題シェア」を提案する。複数社で共通課題をまとめて開発予算を分担しあう構想だ。1社で2000万円かかる開発費を5社で分担する。各社の負担は開発費400万円と現場適用費100万円の計500万円という具合だ。

 SIはユーザー負担で開発したシステムをパッケージ化し、他の同業に提案するビジネスモデルが多い。だが飯野社長は「ケタ違いのコスト要求に応えるには抜本的にビジネスモデルを変える必要がある」と力説する。難しいのは共通課題の取りまとめだ。同業に手の内をさらす可能性がある。飯野社長は「肉まん屋さんはおいしい肉まんを、まんじゅう屋さんはおいしいまんじゅうを作る部分で競争し、包装や搬送など競争と関係ない部分は協力した方がいい」と指摘する。共同開発後も運用保守の知見をシェアすれば長期的にコストを抑えられる。

割り切りも


 最先端技術は使わないという割り切りも大切だ。iCOM技研(兵庫県小野市)は縫製工場の自動化に乗り出した。縫製の現場はミシンや刺しゅう機などの人が操作する専用機が多い。人手不足を受け、ロボットへのニーズは強い。iCOM技研の山口知彦社長は「(縫製業と製造業を比べると)単価の安さに打ちのめされた」と苦笑いする。そこでAIなどの新技術を使わなくても自動化できる作業を探す。山口社長は「現場の工程分析から始める。生地の貼り合わせなど、シンプルだが手間のかかる作業を自動化していきたい」と力を込める。

食品製造ラインや縫製の現場は自動化の余地が多く残されている(イメージ)

 こうした新市場開拓は現場に精通した専用機メーカーの協力がカギになる。iCOM技研は革加工機の老舗のニッピ機械(兵庫県加西市)が協力している。革産業は量産分野は海外にシフトされ、国内は人手が必要な高級品が中心だ。ニッピ機械の青田崇社長は「職人の手仕事に支えられてきたが高齢化で限界が来ている」と指摘する。

 一方で欧州では「高級ブランドはバッグの生産を自動化して、高い利益率を実現している」(山口iCOM技研社長)。ニッピ機械の青田社長は「国内に縫製産業を残すためにもロボ活用は避けて通れない。これが最後のチャンスかもしれない」と話す。専用機と汎用的なロボットの両者のタッグで突破口を開く構えだ。

日刊工業新聞2019年11月4日

小寺 貴之

小寺 貴之
11月09日
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ロボットシステムインテグレーターの仕事は、ロボットに命を吹き込む仕事といわれます。産業用ロボットは半完成品で、ロボットだけで仕事ができるわけではありません。治具などの周辺装置とシステムの設計などが必要で、その費用は産ロボは3割、付帯装置や設計が約7割を占めるとされます。産ロボとシステムインテグレーターは、プレス機や射出成形機と金型の関係に似ています。システムインテグレーターも金型も、その製造ラインの生産効率を決める重要なプレーヤーですが、中小企業が多く、産業のヒエラルキーに隠れてなかなか光が当たりませんでした。システムインテグレーターはもともと専用機メーカーだった会社が多いそうです。専用機の周辺のシステムを産ロボで作り、生産ラインの構築に広げていきました。工場の作業工程に明るく、業界の自動化を推進してきました。計測機器メーカーが自社の検査機を売るために搬送などの周辺システムも含めて検査ラインを設計する例もあります。専用機に近い工程の現場課題を集約してシステムをパッケージ化する役割を担います。最近はAIや情報レイヤーからロボットに降りてくる会社もあります。会社の成り立ちによって得意分野や稼ぐ部分が違ったりします。そんなシステムインテグレーターが協会を立ち上げ、業界の持続的な成長を目指します。課題として挙げた5つはもう何年も指摘されてきました。なかなか解決は難しいですが、次の恐慌までに対応を進めたい所です。

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