リチウムイオン二次電池の基礎知識と歴史をちゃんとおさえる【ややムズ】

おすすめ本の本文抜粋「リチウムイオン二次電池の性能評価」

 リチウムイオン二次電池(LIB)に関する用途と市場は、最近大きく変貌し飛躍的に拡大しつつあります。特に、車載用としてハイブリット車、電気自動車での拡大、再生可能エネルギーの大規模導入による電力貯蔵や家庭・ビル用電源としての使用、携帯用電子機器の関係では、映像の記録再生機能を持つ携帯電話やワイヤレスのインターネット接続など、コードレスの電子機器があたりまえの時代になりました。また、電動アシスト自転車、ドローンやバイクなどでの用途も広がり、ここでは、二次電池に対し従来の2~3倍のパワーが要求されています。さらには、鉄道、航空宇宙、船舶などの運輸産業用、ロボット用などの電源として、軽量で高出力容量、かつ長寿命の新しい二次電池の出現が強く求められています。電源開発では、燃料電池、太陽電池、ニッケル水素電池、キャパシタなども注目を浴びています。二次電池の中でエネルギー密度の向上が今後も期待されるものは、やはりリチウム系電池であります。性能、価格、安全性など、全ての条件を満たす電池材料の開発、およびその作製プロセスの革新が求められています。

 最初のリチウム二次電池は、正極にポリアニリン、負極にLi-Al合金を用いたコイン型のものが、ブリジストン・セイコー電子部品のグループにより1984年に市販されました(基礎研究は筆者の研究室がサポートしました)*1。次に、リチウムイオンのみが移動する型の原理に基づく、サイズの大きなソニーエナジーテック製のリチウムイオン二次電池(LIB)が1991年に市場に現れました*2。ここでは、正極にはコバルト酸リチウム(LiCoO2*3の無機層状化合物が、負極にはリチウムイオンをインターカレーションするソフト・カーボン材料が、電解質には支持塩を含む非水有機液体が、セパレータにはポリオレフィン系の材料が用いられました。パッケージも、薄い鋼材やフィルム状ラミネートアルミニウム材が用いられて軽量化が図られました。

*1:この電池の充放電過程では、負極ではリチウムイオンおよび正極では陰イオンの移動反応が起っており、この場合には多くの電解質の量が必要となります。
*2:作動原理の確立は、1985年に旭化成の吉野彰氏によって行われました。
*3:1980年にJ. G. Goodenoughと水島公一氏が開発したイオン伝導体です。
 この間、先端材料を用いた高性能のLIBは、主にノートパソコンや携帯電話の電源として市販化されて進展してきました。一般に、金属酸化物正極材料の持つ重量容量密度は150~200Ah kg-1であり、負極材料は300~350Ah kg-1であります。

 図1には、小型円筒形LIBのメーカー製の高エネルギー密度の一例を示しました。

図 1 各種二次電池のエネルギー密度(体積および重量当たり)

 最新商品(2018年5月10日発表)では、「エネルギー密度;電池全体のグラム重量単位で73.9mAh g-1(重量エネルギー密度;273.3Wh kg-1)、容量3400mAh、電圧4.2V~2.65V(標準電圧3.7V)、出力Max-OutPut/6.2A(2C出力)」と表記されており、私たちの計測でも表記どおりの特性が得られています。LIBに代表されるリチウムイオンのrocking-chair型のトポケミカル反応*4に基づく蓄電池では、正極および負極の活物質にホスト格子の存在が必須であることから、そのエネルギー密度は限られ、300Wh kg-1程度が限界と考えられてきました。現状では、すでにその限界値の90%を満たす電池が市販されていることになります(図2)

図2 円筒型電池内でロール状に巻かれる各部材の配置[*5]

*4:トポケミカル反応(Topochemical Reaction)は結晶構造の基本骨格を保ちつつ一部の原子を置換、挿入、脱離させる反応で、層状化合物へのインターカレーション反応などを示します。Kohlschutterにより191 年にトポケミカル反応と名づけられました(クリスタット,日本結晶学会誌,55,260(2013).)。
*5:小山昇「リチウムイオン二次電池の化学的原理と越えるべき課題」現代化学,2009年10月号,20(2009).
 電池全体のエネルギー密度の飛躍的な向上を図るためには、電池の容量を大きくする方向と起電力を高くする方向とがあり、容量の大きい新しい正極および負極材料を開発するか、起電力の高い正極材料を開発するかです。4V近い高電圧のLIBはすでに商品化されていますが、それ以上の高い起電力を求めるには電解質の分解に関する解決すべき課題があります。安全性の点からもこれ以上の高電圧化には困難がともないます。高容量化には多電子移動反応をともなう金属・金属化合物を正極に用いる方向がありますが、ホスト格子が安定に存在しないために、充放電のサイクル特性が悪いなど、いまなお課題が多く、その実現には時間がかかると推定されます。

 LIBの安全性については、何度か発熱・発火事故が相次いだことから、構成材料、電池構造、製造工程などの見直しが行われています。自動車への適用では、低価格化も重要となっています。

書籍紹介
書名:リチウムイオン二次電池の性能評価 長く安全に使うための基礎知識

著者名:小山 昇 監修、小山 昇・幸 琢寛 編著
判型:A5判
総頁数:218頁
税込み価格:2,860円

リチウムイオン二次電池は、今や自動車用や蓄電用など大容量のものが求められている。その分、性能や劣化度合いを正しく把握し、効率よく長く安全に電池を使うことが必要になる。そこで本書は、性能や劣化を決めるメカニズム、評価手法を実務向けに解説する。

著者紹介
小山 昇(おやま のぼる)
エンネット株式会社 代表取締役社長
1977~1980年東京工業大学助手、米国カリフォルニア工科大学博士研究員、高分子機能電極の新分野を開拓。1981年東京農工大学助教授、リチウムイオン二次電池の研究開発を開始。1989年同大学教授。2012年3月同大学大学院教授を定年退職(この間、米国カリフォルニア工科大学、九州大学・院総理工、米国コーネル大学で客員教授など)。2012年4月現職(この間、産総研で客員研究員など)。学位:工学博士:東京工業大学(1977)、茨城大学学卒&院修士。専門:電気化学、エネルギー電子化学。受賞歴:日本化学会学術賞(「分子機能電極の基礎および応用」、1989年)など

幸 琢寛(みゆき たくひろ)
技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)外部連携室室長、第2研究部主幹研究員、委託事業推進室主幹研究員
2002年エスティ・エルシーディ株式会社(現在の株式会社ジャパンディスプレイ)にて、中小型液晶パネル量産用のプロセス開発に従事。2007年産業技術総合研究所関西センターにて、次世代LIBとその新規評価法の研究開発に従事。2012年神戸大学大学院工学研究科応用化学専攻博士後期課程修了、博士(工学)。2013年より現職。受賞歴:電池技術委員会賞(2016)

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目次抜粋
第1章 電池反応の原理
リチウムイオン二次電池/動作メカニズム/エネルギー密度

第2章 電池の構成材料
負極材料/正極材料/電解質および電解液/その他の構成材料

第3章 充放電特性
充放電曲線/出力電位のヒステリシス現象/汎用電池の充放電特性の特徴

第4章 電池特性の評価
電気化学的測定法の基礎/評価モデルとなる等価回路/直流評価法

第5章 性能の劣化
劣化の諸因子/電極表面SEI被膜の構造解析・組成分析/汎用電池の劣化評価と管理手法の特徴

第6章 劣化および寿命の評価
電池特性変化のシミュレーション評価/劣化判定/機械学習法による劣化診断

第7章 電池の性能改善
電極活物質層内評価(充放電下の電極のオペランド評価)/界面の化学修飾と制御/添加物による対策

第8章 新しい全固体リチウムイオン二次電池の開発
全固体電池の特徴と分析評価技術/全固体電池の材料開発と作製プロセスにおける分析評価技術

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2019年10月13日

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