ノーベル賞受賞に必要な「時代の空気」 日本人が今後も続くには?

元ストックホルム研究連絡センター長、阿久津秀雄氏に聞く

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image by Isaac Fryxelius from Pixabay
 7日からノーベル賞の発表が始まる。2018年には京都大学高等研究院の本庶佑特別教授が生理学医学賞を受賞したが、日本の科学技術分野の研究力低下を心配する声は年々高まっている。14年から約2年間、スウェーデンにある日本学術振興会のストックホルム研究連絡センター長を務めた大阪大学の阿久津秀雄名誉教授に、日本の研究開発の現状や、日本人の今後のノーベル賞受賞に向けた課題などについて聞いた。(聞き手・飯田真美子)

―学術振の海外研究連絡センターの役割は。

 「日本と世界各国との学術交流と連携を深めるのが目的。ストックホルムのセンターは北欧5カ国やバルト3国との交流を推進している。シンポジウムの開催に加え、日本人の学生や博士研究員(ポスドク)を現地に派遣したり、現地の人を日本に受け入れたりしている」

―欧州と日本の科学技術の違いは。

 「科学技術のレベルを上げるには国際的な共同研究が重要だという意識が欧州は強い。日本はその意識が低く単独研究が多い。欧米はコミュニケーション能力が総じて高く、特に欧州連合(EU)は共同研究を積極的に推進している」

―スウェーデンにとってノーベル賞はどう位置付けられていますか。

 「賞によって現在の最先端の科学技術情報が世界から集まる。スウェーデンはもともと科学技術が強い。だが国としてより強化するための重要な情報源と位置付けている」

―日本人がノーベル賞を受賞した時は現地でどう感じましたか。

 「率直にうれしかった。ストックホルムに在住していた間に、物理学賞の中村修二さんら5人が受賞した。スタッフが会場で発表を聞いて結果をメールで知らせてくれた」

中村修二氏


―現地で受賞が注目されていた日本人はいましたか。

 「東京工業大学の大隅良典栄誉教授は、16年に私が帰国した後に生理学医学賞を受賞したが、周囲の人は『いつ受賞するのか』とよく話題にしていた」

大隅良典氏

―これからも日本人のノーベル賞受賞は続くでしょうか。

 「これまでの受賞は、積み上げが必要な基礎研究での受賞が多かった。だが日本の科学技術政策は、基礎研究からアウトプットしやすい応用研究へシフトしているように感じる。それがどう結果に表れるか」

―具体的には。
 「青色発光ダイオード(LED)の研究でノーベル賞を受賞した名古屋大学の赤崎勇特別教授の場合、研究に集中して長年仕事をしてきた末の物理学賞受賞だった。だが、今は息の長い仕事をするのは難しい。研究費を集める必要もあるし、結果が出る研究に偏りがちになる。そのような分野でノーベル賞が今までのように出るかは疑問だ」

赤崎勇氏


―ノーベル賞に傾向はありますか。

 「受賞できるかはチャンス次第。優れた研究でないと話にならないが、それに加えてチャンスがあるかどうかが重要だ。青色LEDの研究では基礎的な部分はコツコツ積み上げた結果だが、実用化できたことが受賞につながった。ある程度は社会の役に立っていることも重視される。本庶京大特別教授も免疫の基礎研究を突き詰めてきたが、注目されたのは医薬品として成功したことだ」

本庶佑氏


―実用化が期待できる研究ばかりではないですが。

 「東京大学の梶田隆章卓越教授による素粒子の一種『ニュートリノ』の研究は、基礎的ですぐ実用化できるものではない。国の支援なしにはできない研究だ。大隅東工大栄誉教授の研究も基礎を積み上げてきた。常識を覆すような発見がある基礎研究には、ノーベル賞受賞のチャンスが巡ってくる。ただ、優秀な研究がノーベル賞を取れるわけではない。『時代の空気』が反映される」

梶田隆章氏


―日本の研究者に伝えたいことは。

 「若手研究者には海外で研究してほしい。同質の人と仕事をするのではなく、全く違う環境で仕事をするとモノの見方が変わる。見方の違いは海外に出ないと分からない。さらに国際的な共同研究と国際的なコミュニケーションが、今後の科学技術の発展につながる。研究は普通と異なる考えをしないと違った展開は生まれない。ヘテロ(異質)な環境が必要だ」

大阪大学の阿久津秀雄名誉教授


【記者の目/環境改善が研究力底上げ】

ノーベル賞の受賞には優れた研究以外に「時代の空気」が反映され、運が良いと受賞のチャンスがある。近年、過去の研究成果で日本人の受賞者が増えているが、研究力が低下し今後の受賞が危ぶまれる。就職難などで大学院博士課程への進学が減少している。研究環境の改善がノーベル賞受賞への研究力の向上につながるかもしれない。

【略歴】あくつ・ひでお 72年(昭47)東大院理学系研究科生物化学専攻博士課程単位修得退学。73年東大院理学系研究科生物化学専攻博士課程修了。91年横浜国大教授。00年阪大蛋白質研究所教授。06年横浜市大客員教授、07年阪大名誉教授。14年学術振ストックホルム研究連絡センター長。16年京大小委員会副委員長。理学博士。東京都出身、75歳。

日刊工業新聞2019年10月2日(科学技術)

COMMENT

小川淳
デジタルメディア局
編集部部長

10月7日から始まるノーベル賞週間。例年、この時期は1年間の取材の総決算とすべく、科学記者はお祭りとなります。日本人受賞に一喜一憂するだけでなく、日本ひいては世界の科学技術のあり方に多くの日本人が思いをはせる重要な時期であり、日刊工業新聞社としても盛り上げていきます。       

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