「私の研究は科研費に支えられた」(大隅氏) ノーベル賞に導いた総額18億円

全面改革へ注目度高まる。研究者の一世一代の挑戦を支援へ

 2016年のノーベル生理学医学賞の受賞が決まった東京工業大学の大隅良典栄誉教授の研究は、生命の本質に迫る基礎的なものだけに、文部科学省の科学研究費助成事業(科研費)の支え抜きに進展は難しかっただろう。総額約18億円の支援を受け、細胞内リサイクルであるオートファジー(自食作用)の分野を確立してきた。科研費は全面改革の一環として、大型助成の採択機会の拡大などが挙がる。その方向性と重ねて注目されそうだ。

 大隅栄誉教授の最初の科研費採択は1982年度の「一般研究C」。ノーベル賞の契機となったオートファジー観察の88年に先立つもので、課題は「酵母液胞の生理・生化学的研究」だった。「研究の裾野を広く支援するのが科研費の一番の特徴」(文科省研究振興局)だ。

 その後、応用向きのテーマなら別の研究助成や産学共同研究に進むが、基礎研究では科研費の他種目にステップアップする。運営費交付金由来の「個人研究費」は年数十万円と決して多くはない。そのため「私の研究のほぼ全てが科研費に支えられてきた」と、大隅栄誉教授は日本学術振興会発行の「科研費ニュース」で振り返る。

 大隅栄誉教授への支援が急増したのは、科研費最大の種目「特別推進研究(特推)」に3度採択されたためだ。03―15年度の13年間で年1億円を確保した。

 ライフサイエンス系は博士研究員(ポスドク)など研究室スタッフを多く抱え、それにより論文成果を積み上げる。ポスドクらの人件費を出せる高額研究費は大きな力となる。大学が受け取る科研費の間接経費も多くなり、優れた研究者は退職年齢を越えて雇用され、現場で活躍し続ける仕組みだ。

 ただ、特推は新規採択が年15件ほどと少ない。著名研究者への支援へ偏りがちな現状を修正すべく、18年度に完全移行する全面改革では、「採択は原則1回」に変更する予定。「研究者の一世一代の挑戦を支援する」(同)ものとして、次のノーベル賞候補者の飛躍を後押しする。
(文=山本佳世子)


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日刊工業新聞2016年10月10日

明 豊

明 豊
10月12日
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個人的に政府のひもつきのお金はあまり好きではないが(いろいろ面倒)、独創的な学術研究、基礎研究はイノベーションの源泉であり、国別の論文量や引用率の低下を考えると、政府は「第5期科学技術基本計画」の中でしっかり手当していくべきだろう。科研費の件での大隅栄誉教授の言葉は本心であろうし、一方で以前から多くの課題も指摘されてきた。量の充実、質的な改革(審査システムを含め)は欠かせない。ただ公的資金をただただ増やすだけでなく、大学と産業界との連携も深化させないといけない。

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