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候補約10人、日産の次期トップに求められる資質

2つの重大課題、業績回復・ルノーと関係改善
候補約10人、日産の次期トップに求められる資質

会見中に水をこぼし、濡れた書類を手に持つ西川社長兼CEO

 役員報酬問題が直接的な引き金となり、日産自動車の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)が16日付で辞任する。取締役会が辞任を要請し、西川社長が受け入れた。元会長のカルロス・ゴーン被告の不正を受け日産はガバナンスを強化した。経営者の責任問題を早期に決着させ、“新生”日産の姿を示した格好だ。ただ業績回復や提携先の仏ルノーとの関係改善など課題が山積する。スムーズにバトンタッチできるか、正念場は続く。

取締役会が要請、タイミング早めた不正報酬


 タイミング―。9日に横浜市内の本社で開いた記者会見で西川社長は、この言葉を繰り返した。

 ゴーン被告の不正を見逃してきた西川社長の責任を問う声は根強い。以前から西川社長は責任を一部認めながらも、「今までやってきたことは私が対処し、次を担っていく部分は次世代にお願いしたい」と時期を明示しない形で辞意を表明し求心力を保ってきた。

 そうした中で発覚したのが、株価連動型報酬「ストック・アプリシエーション・ライト(SAR)」をめぐる問題だ。社内調査の結果、西川社長が社内規定を破り、約4700万円かさ上げされた報酬を受け取っていたことが明らかになった。

 西川社長は余計に得た額を返納する。ゴーン被告に続くトップをめぐる不祥事となったが、西川社長は意図的な指示はしておらず法律違反ではないと取締役会は判断し、一部には即座の辞任は不要との意見もあった。

 しかし日産は、6月に指名委員会等設置会社に移行し新体制を始動したばかり。問題が長引けばガバナンス改革の実効性に疑問符が付きかねない。「

 社内外の求心力を考えるとこのタイミングでのトップ交代が適切」(取締役会議長の木村康氏)と判断。最終的に取締役会が全会一致で辞任を要請し、西川社長が受け入れた。ガバナンスに詳しい八田進二青山学院大学名誉教授は「西川社長の辞任は遅きに失したが、続投という最悪の事態は免れた」と指摘する。

 西川社長は9日の会見で「果たすべき“宿題”にある程度は道筋を付けられた。今のタイミングなら会社に迷惑をかけないと思って辞任を決めた」と語った。一方、「全てを整理し次世代に渡すべきだったが、やり切れず申し訳ない」「来年度の準備をする時など辞任のタイミングは複数想定していたが、一番早くなった」などと述べ、未練ものぞかせた。

 日産は足元で二つの重大課題を抱える。一つは業績回復。米国や欧州、新興国事業の不振で2020年3月期の連結当期利益は2期連続の大幅減益になる見込み。建て直すため、22年度までに1万2500人の人員削減などのリストラ策をベースに電気自動車(EV)など次世代製品を軸とした成長戦略を組み合わせた改革を進める。

 二つ目はルノーとの関係再構築だ。ルノー優位の出資比率の見直しを含め議論を始めた。日産は「できるだけ平等な出資比率に再調整したい。急がず対処する」(幹部)との姿勢で交渉に臨む。一方、ルノーは早期決着を求めているとされ、今後、議論が加速する可能性がある。

来月末まで山内COOが代行、そのまま就任?


 こうした重大局面で、まずは代行の社長兼CEOとして山内康裕最高執行責任者(COO)が16日付でバトンを引き継ぐ。その後、指名委が後任トップを10月末に選定する計画。指名委委員長の豊田正和氏は基準について「今は成長期ではなく回復期。車産業に詳しく、ルノーと三菱自動車との企業連合に深い理解と大きな関心を持つ人」と説明した。

 すでに候補者を約10人に絞り込んだ。日産勤務経験者やルノー出身者、女性や外国人もいるという。部品サプライヤー幹部からは「IT化などで車業界では新しい発想が必要になる。異業種からトップを招くのも一つの手だ」との声も挙がる。

 日産社内からの候補者として、山内COOが代行から、そのまま引き継ぐ可能性はある。山内COOは購買畑が長い。「口数は少ないが、モノづくりへの理解が深い。コストカット要請は厳しいが、狙いなどを丁寧に説明する」(別のサプライヤー幹部)という。総じてサプライヤーからの信頼は厚い。またルノー取締役を兼務し企業連合に精通する。

 関潤専務執行役員も注目株だ。中国事業トップなどを務め、5月に「パフォーマンスリカバリー担当」に就いた。事業の立て直しを担うポストで、業績回復を最優先する今の局面に合う。同担当の前は仏駐在で企業連合の事業を担当しルノーとのパイプもある。また日商岩井(現双日)出身で現在、中国事業を率いる内田誠専務執行役員も有力視される。

 日産は指名委等設置会社に移行する際の役員人事でルノーの介入を許した。今回のトップ人事でも同様の事態に陥る懸念がある。また人選の時間的な制約も大きい。業績回復、ルノーとの関係改善を加速できるかは、日産の経営の行方を左右する。難しい局面でも最適な人物を選び出しスムーズにバトンを渡せるか、新体制の力が試される局面が続く。
(取材・後藤信之)
日刊工業新聞2019年9月11日

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