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世界最高水準の工作機械メーカー、会社の危機救った現状に甘んじない開発精神

牧野フライス精機 第二の創業へ
世界最高水準の工作機械メーカー、会社の危機救った現状に甘んじない開発精神

ユーザー企業の課題解決に貢献するソリューションセンター

 牧野フライス精機は世界最高水準の工具研削盤を提供する工作機械メーカー。1965年に神奈川県愛川町で創業して以来、この地から製品を提供し続ける。工具研削盤で国内トップシェアを誇る同社が掲げるのは「10年、20年後に、お客さまから買って良かったと言われる商売を」という理念だ。2019年3月に第3工場が竣工(しゅんこう)したことを契機に目下、第2の創業期と位置づけ、経営改革に邁進している。

高い加工精度 専業の強み


 工具研削盤とは、金属を削る、穴を開けるといった加工で使う各種工具を砥石(といし)で削って製造する装置。金属加工を中心とするモノづくりの世界では欠かせない機械だ。

 牧野フライス精機は、工具メーカーやコンピューター関連を母体とするケースが多いライバルと異なり、工具研削盤専業として事業を続けてきた。そのため、研削盤の精度を高める際にメカ的な要素からアプローチできることが技術の根底にある。他メーカーはソフトウエアの制御など周辺的な部分から手をつけることが多く「かなりの違いが出る」と清水大介社長は胸を張る。

 一例が、同社だけが保有する「U軸」。工具を研削する際、一般的な機械は複数軸で砥石を動かし、加工対象物(ワーク)に当てて加工する。

 これに対し、U軸は工作主軸台が前後に動くためのもので、ワーク先端にカーブを与える加工をする際に、ワークの長さに関係なく常にカーブの中心に砥石を当てることができる。U軸の動きだけでワークの先端にカーブを与えられて高い精度の加工ができるほか、動く軸が少なく機械の寿命も長くなる。

 カーブを示すR精度は約2マイクロメートル(マイクロは100万分の1)で、一般的な精度は約5マイクロメートル。凹凸がなく工具の品質が高まる。

 もう一つの特徴は、手厚いサービス体制。本社のある神奈川に加え、群馬県、愛知県、大阪府に営業所を構え、国内なら翌日には修理できる体制を構築。日本で最も迅速にサービス提供できる仕組みを備えている。

危機乗り越え生まれた自信作


 新工場を整備して工具研削盤の増産に乗り出すなど順調に成長する牧野フライス精機。だが、2008年に清水社長が実父の清水哲氏から社長業を継いだ直後の経営は、リーマン・ショックを受けて危機的状況に陥っていた。

 工作機械業界は受注が大幅に落ち込み、「入社して顧客回りをしていた最中に市場の異変を感じた」と振り返る。頼りとなる実父の急逝に伴う社長就任でもあったことからも、当時の厳しい胸の内が推察される。

 業績のV字回復の原動力となったのは、「厳しい状況だからこそ実現できた」(清水社長)新製品開発である。同社は万能工具研削盤「C-40」をはじめとするロングセラー機に長く支えられ、ある種、保守的な社風が蔓延しつつあった。

 そんな中、目先の受注確保へ低価格路線を主張する声を押し切り、あえて主力機の倍の価格で外観や構造、製品名のすべてを刷新した高精度機種「AGE30」を2009年、市場投入したのである。

 中里俊彦技術部設計課マネージャによると、「全自動機で、性能も世界最高のもの」であり、「中途半端はダメだと考えた。持ちうる技術を結集した」(清水社長)自信作であった。

清水大介社長

 一連の開発姿勢の成果は、ユーザーからの高評価が証明している。着実に売り上げを伸ばし、直近の2018年度下期は売上高の8割をAGE30以降の新機種が占めるまでに成長を遂げた。

 多くの企業が直面する技能伝承の問題にも早くから対処してきたことが奏功し、70代、80代の技能者が今も残り、長年培った技術を若手に伝えている。海外に生産拠点を移さず国内でのものづくりを貫いてきたことも広い世代が働きやすい環境につながっている。

 製品生産にあたり、愛川町を中心とした神奈川県内に取引先を多く抱え、地域によって成長を支えられている点も多い。今後はより積極的に地域と関わりたいと考えている。

さらなる顧客満足度の向上を


 2016年には第1工場、翌年には第2工場、さらには2019年に第3工場をと新工場を矢継ぎ早に竣工し、生産増強を図ってきた。「前工場で残っているのは看板だけ」(清水社長)で、今後、生産能力が前工場時代の1・5倍に引き上げられる見通しだ。こうしたハード面での充実も契機に、顧客満足度を一層高める取り組みに力を入れる。

 工具研削の前後工程の機器の開発はそのひとつ。棒状の材料を大まかな工具の形にする段研工程で使う、省スペースの立形研削盤「TAD」と、工具測定装置「procam(プロキャム)」は、工具の刃を削る前工程、後工程を担う製品だ。これら製品を開発したことで工具製造に必要な製品をそろえる世界唯一の工具研削盤メーカーとしての姿が鮮明となった。

 将来は、前後工程と複数の研削盤をつなぎ、一貫したラインとしての提供を目指すという。システムインテグレーターとしての力量が問われるため、搬送に使うロボット技術などを含め、先端技術の開発を積極化する構えだ。

 また、工具加工のノウハウを持つ企業として、ユーザーの困り事に対応する「ソリューションサービスプロバイダー」としての役割も発揮していく。

 本社内に開設したソリューションセンターでは、ユーザーが求める加工を実際に行うほか、砥石メーカーとの連携を通じ加工に必要なノウハウを蓄積。少子高齢化に伴う労働人口減少を受けてユーザー企業は自動化やIoT(モノのインターネット)への対応を迫られている。

 牧野フライス精機はカメラの画像から加工を自動補正する技術などを保有することから、これらを生かしユーザー企業が直面する構造的な課題解決に貢献する狙いだ。

 清水社長の目に映る同社は、「外部の声に素直に耳を傾ける柔軟な職人が多く、現場が強い」。歴史とともに育まれてきたこれら良き伝統は継承しつつ、時代の変化を機敏に捉え、現状に甘んじない開発精神を今後も発揮する構えだ。

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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
【企業概要】 ▽所在地=神奈川県愛川町中津4029▽社長=清水大介氏▽設立=1965年▽売上高=45億円(2019年3月期)

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