市民団体「プラモ尼崎城」がまず「シャチホコ」を製品化したワケ

市内の4町工場が連携

 日本有数の産業都市、兵庫県尼崎市。その下支えを果たしてきた中小製造事業者には、高い技術力を誇りながら、自社製品を創る機会が乏しい企業も存在した。3月に再建した尼崎城を核に、観光都市も志向する同市では、4社の町工場が結集し新たな名物を生み出そうと奮起する動きも。事業所数の減少も際立つ中、産官金が一体となって地域や産業を変革する機運が高まっている。(文=大阪・福原潤)

減少する事業所


 尼崎市はJR尼崎駅前、塚口駅前の工場跡地再開発などを背景に2018年、9年ぶりに人口増加に転じた。一方で、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、15年の同市の人口45万人に対し、40年には40万人を割り込むことが予想される。他自治体と同様、中長期的には人口減少が進むことが見込まれる。総務省の経済センサスによると、事業所数は81年の2万7003をピークに、16年には1万7405カ所と3分の2にまで減少。尼崎地域産業活性化機構が18年11月に実施したアンケートでは、自分の代で廃業を予定していると回答した企業が3割に上った。次代を担う人材の確保や円滑な世代交代が急務とされる。

 18年4月、同市は地元の産業支援機関、信用金庫と中小企業の事業承継を目的とした連携協定を締結した。セミナーの共同開催や専門家による企業診断の紹介などを実施した。

                      
 
 17年、経済産業省・中小企業庁は事業継承問題を放置すると、25年頃までに累計650万人の雇用と国内総生産約22兆円が失われる可能性を指摘。喫緊の課題とされる事業承継に対し、産官金が一丸となり「オール尼崎」の体制で取り組む。

 尼崎発のオリジナル製品を志向する動きも活発化している。「尼崎は最終製品が少ないと評される。町工場の技術を結集させ、『メイドインアマガサキ』と呼べる製品がついに完成した」と誇らしげなのは、18年1月に結成した市民団体「プラモ尼崎城」の発起人、綱本武雄さん。

 阪神電気鉄道尼崎駅の南東部に19年3月、尼崎城が再建されたことを記念し、天守の「シャチホコ」を24分の1スケールで再現したプラモデルを7月25日に発売した。金型の製作から量産までの工程を、樹脂やプラスチック加工を行う同市内の町工場4社が手がけた。

 「自分たちで土産物を作れないか」と、4社の関係者の一部を含む仲間内と酒場で盛り上がったのが開発への第1段階。全国各地に、城をモチーフにしたプラモデルが存在すること、そして「プラモに親しんできた世代」であったことから「尼崎城のプラモ」製作を計画した。

 ところが、長野県にある、城のプラモデル製作を手がける企業に見積もりを取ると「設計、金型製造で計約1500万円が必要」と判明。城に関連するものでありながら、少ない部品で済むことから、「まずは天守のシャチホコ」で製品化を目指した。

 17世紀前半に築城された尼崎城。正確な図面など残されていない中、写真などから形を推測。「見よう見まね」ながら、金型の成形や3Dプリンターを用いた形状加工など、4社が持ち寄った強みを生かし、うろこや尾の曲がり具合など細部に至るまで再現した。接着剤不要のはめ込み式で部品の数もできる限り減らしたのは「子どもが組み立てやすいように」との思いからだ。

 開発資金は、インターネットのクラウドファンディングを使い、調達した。目標額100万円に対し、約110万円が集まった。

 「尼崎城そのもののプラモデルの制作が当初からの思い。シャチホコ3000個の販売達成で、尼崎城の設計費を捻出できる」と綱本さんは前を見据える。


平成製作所のペット向け骨壺


 一方、金属加工を手がける平成製作所は、令和の時代を迎える中、「(景気など)外部要因に左右されにくい町工場」を志向し祖業に次ぐ、新たなビジネスに挑戦している。

平成製作所のペット向け骨壺

 「保健所で殺処分される捨て犬、捨て猫を少しでも減らす。そんな一助になれれば」との思いから、自社製品としてペット用骨壺(こつつぼ)を19年4月に開発。捨て犬・猫の里親に、併せて購入してもらうことで「『飼い主としての自覚と責任』を再認識する役割を果たしたい」との思いを込め開発した。

インタビュー/産業技術短期大学学長・小島彰氏 「起業家マインド」醸成


 産業技術短期大学では16年に尼崎市と、17年に尼崎経営者協会と連携協定を締結。同市のモノづくり企業の経営者や市職員による講義「地域産業学」を開講している。小島彰学長に産学官が連携して取り組む、次代の産業人材育成の現状や課題を聞いた。

 ―尼崎市の特色は。
 「明治維新以降、紡績業や鉄鋼業などが勃興した。大資本と中小企業が混在し、共存してきた街。高度成長期の重化学工業化とともに、同市の事業所数は増加してきた」

 ―同市の課題は。
 「『重厚長大から軽薄短小』へと産業構造が変化したことなどにより、事業所数が下降している。同市に限らず全国的な課題だが、円滑な事業承継を支援する必要がある。また名だたる起業家を輩出した静岡県の遠州地域の『やらまいか』の考え方のように、『起業家マインド』を醸成していくべきだ」

 ―全国的にも珍しい工科系の短期大学です。産業人材育成の方針は。
 「入学後いち早く、社会とのつながりを持たせることを図るため、1年次の一般教養科目として『地域産業学』を開設した。大学、高校、中学の学歴別離職率を指す言葉として『七五三現象』と評されるが、卒業後の不本意な離職を低減するためにも、産業界との連携を重視してきた」

産業技術短期大学学長・小島彰氏

日刊工業新聞2019年9月2日

  

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