「どう死ぬか」、電子情報に残しておく重要性を英国に学ぶ

終末期ケアにおける情報共有とQOD(下)

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CMCの拠点となるロイヤルマースデン病院
**どう死ぬか
 高齢化による多死社会の到来により、「どのように死ぬか」をきちんと考え、家族を含む医療・介護関係者にその意思を事前に伝え、共有していくことの重要性が高まっている。しかし、その共有方法は、書面への記録が中心であることに大きな課題がある。

 終末期にどのようなケアを受けたいか、延命治療を実施したいのか、意思決定が難しい場面には誰に代行してもらいたいのか、自分の葬儀はどのように形にしてもらいたいのかなどをアドバンス・ケア・プランニング(ACP)やリビングウイルとして書面に記録し保管したとしても、例えば、自宅で急に倒れた救急搬送時には、救急隊員にその意思は伝わらない。普段通院しているクリニックの医師には伝えていても、搬送された病院ではその意思は分からない。離れて暮らしている子どもは、親がACPやリビングウイルを作成したという話は聞いていたとしても、その内容や保管場所までは聞いていないかもしれない。書き残した自分の意思が実際には関係者間で共有できない可能性が高いのだ。

 このような課題の解決に取り組んでいるのが英国である。英国では、個人が希望の「死」を迎えられることを目的として、2008年に終末期ケアに関する国家戦略を策定、発行した。また、患者が希望の死を迎えられたかは、国民への医療サービス提供組織「NHS」の主要な業績評価指標になったことで終末期ケアの導入が進んだ。

先行する英国


 しかし、多くの関係者が関わる終末期ケアにおいて、患者の希望する死を実現することは容易ではない。そのためにNHSイングランドで導入されたのが、電子的情報共有システム「電子緩和ケアコーディネーションシステムEPaCCS」だ。ガイドラインには共有すべき情報が規定されており、本人同意の下に専門家や組織がその情報にアクセスできる。

 ロンドン地域では、2次医療を担うロイヤルマースデン病院で終末期ケアを専門とするライリー教授が中心となり「コーディネート・マイ・ケア(CMC)」が10年に立ち上げられた。CMCはEPaCCS準拠だが、終末期ケアだけでなく、救急車サービス、NHS111、かかりつけ医(ジェネラル・プラクティショナー、GP)の時間外サービスを含めた情報連携が可能で、他地域のEPaCCSに比べても非常に先進的な取り組みである。

家族と情報共有


 CMC上に登録された情報の共有機能は、GP、病院、救急車、ホスピスなどの業務システムと連携可能にするインターフェース(API)で提供され、普段利用しているシステムから1回のログインでCMC上の情報にアクセスできる。治療中の患者だけでなく一般の市民も登録でき、家族と共有できる「マイCMC」という機能もある。18年10月現在で登録者数は約6万人に達している。
 終末期のケアの希望を電子的に記録し、関係者間で共有することは「QOD」(死の質)を向上させる。日本では、20年から段階的に新しいヘルスケアICTシステム構築を目指しているが、このような視点を含めた設計が望まれる。

著者:国際社会経済研究所(NECグループ)主幹研究員 遊間和子

日刊工業新聞2019年8月23日

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