不正相次ぐ産業界…なぜ企業のリスク管理は機能しないのかの答え

【なぜ?なに?失敗】#3 元芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科教授 安岡孝司氏インタビュー

 日本を代表する企業で会計不正やデータ偽装などの不祥事が相次ぐ。なぜ企業のリスクマネジメント(RM)は機能せず、失敗に陥るのか。企業の不正問題に詳しい元芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科教授の安岡孝司氏に聞いた。(取材・葭本隆太)

経営者による圧力で現場にしわ寄せ


 ―なぜ企業による不正が後を絶たないのでしょうか。
 品質不正は企業の経営者による現場への圧力によって起きやすい。利益の最大化を目的にギリギリの生産計画を立てたり、人員を減らしたりすることのしわ寄せが生じるからだ。特にこれまでの品質不正は製造部署とは独立な第三者のチェックが働かずに見逃されたというパターンがほとんどだ。一方、経営者の利欲による(報酬などに関する)不正も現場の経理や財務担当者が関わっているはずだが、それをチェックする機能が働いていない。

 ―品質不正に関して多くのメーカーは製造部署とは別に検査部署を持っていますが、それは機能しないのでしょうか。
 検査部署があっても同じ事業部の中に製造部署と横並びで設けている企業が多い。(品質データの改ざんが17年に発覚した)神戸製鋼所では品質保証部署が製造部署と同じ事業部内にあり、独立していなかった。そのような体制の企業では検査部署も事業部全体の収益責任を負う形になり、事業部長から部の計画達成のために検査不正を指示・黙認されると機能しなくなる。一般的に検査部署は製造部署と比べて発言力が弱い人が配属される傾向も影響する。

 ―不正を抑止するためにどんな組織を構築すべきでしょうか。
 事業部門の収益責任と独立した立場で、検査方法の正しさや検査結果の改ざんなどを監視する「第二のディフェンスライン」としてRM部門が必要だ。全国に工場を持つ企業などでは、各工場内の検査部署を工場長の配下ではなく、本部のRM部門の分室としておく手法が有効だ。

安岡氏の著書『企業不正の研究―リスクマネジメントがなぜ機能しないのか?』

 ―組織の整備には経営者の判断が求められますね。
 組織体制は経営者が設計するが、経営者自身による不正を指示しやすくするためや、コスト削減のために組織整備を怠るかもしれない。そうならないためにも、組織体制の適切性や経営の怠慢がないかを監視する社外取締役や監査役が非常に重要だ。ただ、社外取締役なども数合わせのためや名前だけで選ばれている人が少なくない。例えば有名企業の社長は本業だけでも大変と想像できるが、社外取締役を複数兼職するケースがある。これで社外取締役の役割を本当に果たせるだろうか。こうしたことを踏まえると、企業のRMには限界がある。株主などの外部のステークホルダーには企業の組織体制を評価し、企業の不正を社会的に抑止する投資行動などを期待したい。

投資家に求められる責任


 ―投資家はどのような動機でそうした行動を取るでしょうか。
 投資家にとっては企業の不正が発覚すると株が下がる大きなリスクがある。それに家計の資金を預かって運用している機関投資家には投資パフォーマンスだけでなく、社会をよくするという視点での投資行動が求められ始めている。環境や社会に悪影響を及ぼし得る企業を投資先として避けることは投資家責任になってきた。私は企業のガバナンス(G)やRMを評価するツール(GRMスコアリングモデル)を提案しており、それを活用して投資行動してほしい。しっかりしたガバナンスとRM体制を持つ企業には評価結果を開示して投資家などにアピールしてほしい。

 ―GRMスコアリングモデルでは不正発覚後の第三者委員会の報告書を評価するツールも提案されていますが、企業の再発防止策はどう評価すればよいでしょうか。
 第三者委員会の委員が企業と独立しているかどうかはもちろんだが、報告書に書かれていないことに問題があることが多い。たとえば第三者委員会の調査が任意か強制力を持つものかが明記されていないことが多い。報告書の中には現場の問題だけを調査し、取締役や監査役の責任に触れていないものもある。また、品質不正の場合は不正が発覚した製品とは別の製品まで調査したかも重要だろう。神戸製鋼所はそれを実施した結果、複数の製品で不正が見つかった。糾弾される結果ではあるが、再発防止に向けた調査活動としては立派だ。

 ―企業の不正を抑制する機能としては「内部通報制度」も重要な役割を担います。
 内部通報制度は経営陣を監視する立場にある社外取締役などに直接つながるラインがあってこそ生きる。社内経営陣につながるだけではもみ消される可能性があるからだ。内部通報の通報件数を公表しているか否かでも、その組織の企業の状況を評価できる。誤解されやすいが、通報回数は多い方がよい。社員が気軽に相談できる窓口として機能している証拠だからだ。

                      

【略歴】1985年みずほ情報総研(旧富士総合研究所)入社。金融技術開発部部長などを経て、09年芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科教授。19年退職。主な著書に『企業不正の研究―リスクマネジメントがなぜ機能しないのか?』

連載・なぜ?なに?失敗(全6回)


【01】動物ライター 丸山貴史氏(8月19日配信)
【02】元JAL機長 小林宏之氏(8月20日配信)
【03】元芝浦工業大学大学院教授 安岡孝司氏(8月21日配信)
【04】離婚式プランナー 寺井広樹氏(8月22日配信)
【05】恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表 清田隆之氏(8月23日配信)
【06】感性リサーチ社長 黒川伊保子氏(8月24日配信)

日刊工業新聞2019年8月16日記事に加筆

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COMMENT

葭本隆太
デジタルメディア局
ニュースイッチ編集長

内部通報制度に関連して「通報回数は多い方がよい」という指摘は一瞬「?」となりましたが、その理由を聞き納得させられました。また、内部通報制度の有無や組織体制などについて多くの企業が公開していない点も問題視されていたことも印象的でした。

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