産業用のトラストデータはクーポン券のように使おう
法政大学デザイン工学部・西岡靖之教授が語る、価値正しく配分を
データは新たな時代の石油と言われている。石油を資源として、エネルギー産業、石油化学産業が存在し、私たちの暮らしを豊かにする多くの製品は石油がなければ作れない。超スマート社会「ソサエティー5・0」の世界ではデータを資源としてさまざまな情報産業、サービス産業、さらには従来の製造業や農林水産業も含めたあらゆる産業が価値を生み出す。つまり、データがあらゆる産業における新たな“資源”というわけである。
GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)など米国のメガプラットフォーマー企業群が、ビッグデータ(大量データ)から巨大な利益を生み出しているのは周知のとおりである。ここでいうビッグデータは、個人情報を含むパーソナルデータを指している。言い換えればビッグデータとは、巨大な消費者行動データベースである。これが極めて重要な資源であることは間違いない。
一方、企業内、あるいは特定の企業間で利用されるデータは産業データと呼ばれる。産業データをビッグデータに含める場合もあるが、ここでは企業内のデータをディープデータ、企業間のデータをトラストデータと呼び区別する。ビッグデータ、ディープデータ、トラストデータ、そして公的機関が提供するオープンデータの4種類が、新たな時代のイネーブラー(変革技術)である。
ところで、データには、所有権が認めらていないのをご存じだろうか。「このデータは私のもの」という主張は、法律的に認められない。従って、私だけが持っているはずのデータを、第三者が使っていることが分かったとしても、それを返してもらうことはできない。製造業が、工場のデータを完全にクローズとするのは、この自衛手段である。新たな時代の石油は、その取り扱いが石油以上に難しい。
カイゼンが得意な日本の製造業は、組織間、企業間の連携が不得手である。これは、企業間の信頼関係(トラスト)の構築プロセスがアナログであることによるところが大きい。クローズ体質と合わせて、こうした状況を打破するには、産業データの中でも、特に企業間でやりとりされるトラストデータの役割に注目する必要がある。
筆者が代表理事を務める一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)では、製造現場のカイゼン活動を、企業を超えて外部とつなげるための「ものづくりデータ取引」の仕組みを開発中だ。データ取引というと、データの売買をイメージするが、これは取引市場ではない。
では、ビッグデータと並んで、新たな時代の石油となりうる産業データについて、特に企業間で流通するトラストデータとはどのようなものなのか。
分かりやすい例は期限付きの入場券、またはクーポン券だ。入場券、クーポン券は価値があるが、特定のイベント、特定の商品にしか使えない。これらと同様に産業データは、それを利用する仕組みとセットでしか価値を生まない場合が多い。しかし一方で、それを利用する仕組みがあらかじめ準備されているため、いつ、誰が利用したかという事実を知り、後日代金を請求することもできる。
そのために、新たな「ものづくりデータ取引」の仕組みでは、企業間でのデータの移動を、すべて取引として定義する。ここでの取引とは、データから派生する権利と義務を契約によって明示し、双方が合意したものをいう。
こうして、新たな産業の基盤となるデータ取引は、データを提供する仕組みと、そのデータを利用する仕組みをつなぎ、それを中立的な立場で監視することでトラストな関係を維持する。そしてデータを利用することで得られる価値を、データの提供者と利用者で正しく配分することを可能にする。
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製造業はクローズ体質
GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)など米国のメガプラットフォーマー企業群が、ビッグデータ(大量データ)から巨大な利益を生み出しているのは周知のとおりである。ここでいうビッグデータは、個人情報を含むパーソナルデータを指している。言い換えればビッグデータとは、巨大な消費者行動データベースである。これが極めて重要な資源であることは間違いない。
一方、企業内、あるいは特定の企業間で利用されるデータは産業データと呼ばれる。産業データをビッグデータに含める場合もあるが、ここでは企業内のデータをディープデータ、企業間のデータをトラストデータと呼び区別する。ビッグデータ、ディープデータ、トラストデータ、そして公的機関が提供するオープンデータの4種類が、新たな時代のイネーブラー(変革技術)である。
ところで、データには、所有権が認めらていないのをご存じだろうか。「このデータは私のもの」という主張は、法律的に認められない。従って、私だけが持っているはずのデータを、第三者が使っていることが分かったとしても、それを返してもらうことはできない。製造業が、工場のデータを完全にクローズとするのは、この自衛手段である。新たな時代の石油は、その取り扱いが石油以上に難しい。
カイゼンが得意な日本の製造業は、組織間、企業間の連携が不得手である。これは、企業間の信頼関係(トラスト)の構築プロセスがアナログであることによるところが大きい。クローズ体質と合わせて、こうした状況を打破するには、産業データの中でも、特に企業間でやりとりされるトラストデータの役割に注目する必要がある。
取引市場ではない
筆者が代表理事を務める一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)では、製造現場のカイゼン活動を、企業を超えて外部とつなげるための「ものづくりデータ取引」の仕組みを開発中だ。データ取引というと、データの売買をイメージするが、これは取引市場ではない。
では、ビッグデータと並んで、新たな時代の石油となりうる産業データについて、特に企業間で流通するトラストデータとはどのようなものなのか。
分かりやすい例は期限付きの入場券、またはクーポン券だ。入場券、クーポン券は価値があるが、特定のイベント、特定の商品にしか使えない。これらと同様に産業データは、それを利用する仕組みとセットでしか価値を生まない場合が多い。しかし一方で、それを利用する仕組みがあらかじめ準備されているため、いつ、誰が利用したかという事実を知り、後日代金を請求することもできる。
そのために、新たな「ものづくりデータ取引」の仕組みでは、企業間でのデータの移動を、すべて取引として定義する。ここでの取引とは、データから派生する権利と義務を契約によって明示し、双方が合意したものをいう。
こうして、新たな産業の基盤となるデータ取引は、データを提供する仕組みと、そのデータを利用する仕組みをつなぎ、それを中立的な立場で監視することでトラストな関係を維持する。そしてデータを利用することで得られる価値を、データの提供者と利用者で正しく配分することを可能にする。
【略歴】にしおか・やすゆき 85年(昭60)早大理工卒。96年東大院工学系研究科博士課程修了、同年東京理大理工学部助手。03年法政大工学部教授、07年同デザイン工学部教授。兵庫県出身、57歳。
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日刊工業新聞2019年8月19日