新たなデジタル経済のルール「大阪トラック」、日本はチャンスなの?

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G20サミットででも米日中の三首脳(28日午後、大阪市<代表撮影>)
 主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)が28日、大阪市内で開幕し、安倍晋三首相が国境を越えたデータ流通のルール作りを議論する枠組み「大阪トラック」創設を宣言した。データ流通や電子商取引(EC)に関するルール整備を進める。安倍首相は「急速に進行するデジタル化の潜在力を最大限活用するには、それに遅れをとらない国際的なルールが不可欠。ルール作りにスピード感を持って取り組む」と述べた。

 デジタル経済に関する首脳特別イベントが開かれ、日本が提唱する大阪トラックの開始が決まった。2020年6月の世界貿易機関(WTO)閣僚会議までにルール整備の議論を前進させる。個人情報や知的財産権保護など信頼あるルールの下、データを自由にやりとりできる社会の実現を目指す。 

 首脳イベントではG20の首脳がデジタル経済の広がりやデータ流通の重要性を確認。中国の習近平国家主席やトランプ米大統領も大阪トラック創設に賛同した。習主席は「中国はデジタル経済に関する国際協力に参加する覚悟がある」と発言し、トランプ大統領は「他のG20諸国と開かれた公平なデジタル経済を促進し、全ての国に繁栄がもたらされることを願う」と述べた。

日刊工業新聞2019年6月28日



年26兆円が失われる


 プラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業を対象にした規制が各国で進んでいる。主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)でも国際課税やデータ流通のあり方が議論される。現行の税制や法律では監視の目が届かず、課税逃れや不公正な取引が横行しているとの疑惑が強まっているためだ。国際的な合意形成に向け、議長国・日本はどんな知恵を絞り出すのか―。

米グーグルなどのプラットフォーマーは圧倒的な企業規模を背景に、取引先への影響力を強めている。公正取引委員会の調査によると、取引慣行の規約を一方的に変更されたり、利用料を交渉できないなどの事例が相次いだ。また「欧州や米国でも不当な取引が表面化し、競争当局が規制強化や実態調査に乗り出している」(銀行系エコノミスト)。

 国際的な租税回避も問題視される。プラットフォーマーは各国に物理的な拠点がなくても国境を越えて消費者と取引し、その利益はタックスヘイブン(租税回避地)に留保する。課税の根拠がない各国の政府は、自国で稼いだ企業から徴収できず、いらだちを募らせている。世界の法人税収入は多国籍企業の節税策により、1年間に最大2400億ドル(約26兆円)失われているとの試算もある。

 G20サミットでは、企業がデータを独占して不公正な競争環境を強いたり、税負担回避の動きを防ぐため、国際協調の枠組みを話し合う。焦点の「デジタル課税」はG20財務相・中央銀行総裁会議で20年の最終合意を目指す作業計画を承認済みだ。ただ規制を強化したい欧州と慎重な米国が対立。さらに中国はデジタル市場の囲い込みを狙う。意見の集約は容易ではない。

 安倍晋三首相は「サミットでの最大のテーマの一つはデジタル経済への対応だ」と語る。プラットフォーマーの成長にも配慮した規制の枠組みを日本が提案し、各国を“つなぐ”役割を担いたい。

日刊工業新聞2019年6月26日



世耕弘成経済産業大臣に聞く


 -多角的貿易体制を担う世界貿易機関(WTO)の枠組みにおける電子商取引(EC)の取り組み状況について教えてください。
  「貿易ルールもデジタルに対応したルールを作らないといけない。そこで2017年12月のWTO閣僚会合の際に日本と豪州とシンガポールが共同議長となって有志国会合を立ち上げた。19年1月には世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で交渉開始の意思を確認する共同声明を有志国で出し、米国や中国を含む77カ国が署名してくれた。WTOの枠組みの中でデジタルやECに関する貿易ルールを作っていこうとするモメンタムが非常に高まっている。安倍晋三総理大臣がダボス会議でのスピーチで、G20大阪サミットの機会にデジタル貿易の国際的なルール作りに向けた『大阪トラック』の開始を表明すると宣言した。その首脳会議に先立つ閣僚会合でもWTOにおけるECの交渉を後押ししていく」

 -そのダボス会議では、安倍首相が自由で公正かつ安全で信頼性の高いデータ流通「データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト(DFFT)」の概念を提唱しました。実現に向けて、日本の役割をどう考えますか。
 「安倍首相によるDFFTの発言は、ダボス会議で最も注目を浴びたと思う。第4次産業革命や『ソサエティ5.0』を目指すには、イノベーションを続けないといけない。その基礎となるのが、やはりデータだ。信頼に基づく自由なデータ流通は、まさにイノベーションの基盤になる。しかも今までの情報革命の世界はデジタルに閉じた世界だったが、最近はデータに人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)が合流していくことにより、いよいよリアル(現実)とデジタルが融合し、垣根がない世界ができつつある」

 「日本はモノづくりの現場にリアルデータが蓄積されており、世界的に見ても特異な強みがある。経済産業省が提唱する第4次産業革命に向けた戦略『コネクテッド・インダストリーズ』のコンセプトは、現場のリアルデータとAI、IoTを結び付けて世界に先駆けて現場初のイノベーションを起こすものだ」

 「その前提としてデータは自由に流通でき、盗まれたり政府が検閲したりすることがあってはならない。ただ、そういう動きも出ているので、DFFTの概念が非常に重要になる。まだ概念的ではあるが、ECの貿易ルールなど、いろいろと整理しながらバージョンアップさせないといけない。ぜひ貿易・デジタル経済大臣会合の場でもDFFTの概念を各国に説明し、まずは共通の理解を作っていく」

 -日本の製造業におけるデータ活用や生産性向上の考え方について教えてください。
 「モノづくりの強みを持つ日本がコネクテッド・インダストリーズの考え方を取り入れ、現場に蓄積されたリアルデータを活用することにより、勝ち筋を切り開いていきたい」

 現在、コネクテッド・インダストリーズでは五つの重要分野を定めて集中的な取り組みを実施しており、その中の一つとしてモノづくり・ロボティクスを位置付けている。バリューチェーン全体を見据えてデータを活用したり、ロボットの導入によって製造現場を自動化したりすることにより、新たなビジネスモデルを構築するなど付加価値を作って生産性を向上させることが極めて重要だ」

 「日本は精緻なモノづくりを行ってきており、その背景には良質なデータがある。これまで残念ながら現場に放置され、活用されていなかったが、今後は企業の垣根も越えながら、競争相手であっても協調領域を広げて、なるべく大きなデータとして良質なデータを共有し流通させることが重要だ」

 「経産省も2018年度から、データを流通する仕組みを構築する実証プロジェクトをスタートさせた。すでに具体的な動きが出ており、例えばファナック、DMG森精機、三菱電機、日立精機といった工作機械大手などが参画し、違うメーカーであってもデータを共有できる仕組みを作ろうとしている。世界に類を見ない、メーカーを越えたスマート製造の最先端を走る取り組みだ。これをロールモデルとして他の分野でもメーカーや業界を越えたデータの共有・流通が進むことを期待する」

METIジャーナル2019年05月13日の記事から一部抜粋

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