国産「エッジコンピューティング」技術は世界に通用するか
IoT(モノのインターネット)デバイスの近くでコンピューティング処理を行う「エッジコンピューティング」の技術を活用して、工場の生産効率を高めようという日本発の取り組みが進んでいる。果たして、世界に通用する国産技術となるか。
生産現場のFA機器とITシステムの連携を推進する業界団体である「一般社団法人Edgecross(エッジクロス)コンソーシアム」が先頃、その連携を行うために2018年5月に提供開始した基本ソフトウェア「エッジクロス」を機能強化したと発表した。
同コンソーシアムは、アドバンテック、オムロン、NEC、日本IBM、日本オラクル、三菱電機の6社が幹事会社となって2017年11月に設立。2018年2月には日立製作所も幹事会社に名を連ねた。設立時の会員企業数は51社だったが、2018年10月9日時点で208社に増え、この分野に関係するさまざまな企業が登録している。
今回発表されたエッジクロスの機能強化の内容については発表資料をご覧いただくとして、ここではこの基本ソフトの目指す姿に着目したい。
まず、あらためてエッジクロスとは何かというと、生産現場のFA機器と情報システム(IT)を協調させるエッジコンピューティングを実践するためのソフトだ。言い方を換えれば、FA機器をIoTデバイスと捉えた「IoT基盤」である。
同コンソーシアムの会員にとっては、人・機械・システムが協調する基盤となる一方、この基本ソフト上で動くエッジアプリケーションは、各社の競争によってあらゆる機械や設備とつながる製品を開発し、広く展開していくことができるとしている。
エッジクロスの特徴は次の5つ。1つ目は、多様な機器からデータ収集ができるようになり、生産設備やエッジアプリケーションを自由に選択可能なこと。2つ目は、生産現場から連続発生するリアルタイムデータをエッジアプリケーションに最適な形式やタイミングで配信できること。
3つ目は、生産現場の機器・装置・ラインを抽象化し、階層的に管理できること。4つ目は、クラウドやオンプレミス(自社での運用)環境のサーバ上のITシステムとの連携が容易なこと。5つ目は、特定の産業用PCベンダーのハードウェアに依存しないソフトウェアプラットフォームであること、である。(図1)
同コンソーシアムの金井正一代表理事は、自らの活動について次のように説明した。
「企業・産業の枠を超え、エッジコンピューティング領域を軸とした新たな付加価値創出を目指し、グローバルで需要が高まっているIoT化や、日本政府が提唱する“ソサエティ5.0”とそれにつながる“コネクテッドインダストリ”の活動に寄与する」
これがすなわち、エッジクロスの目指す姿ともいえよう。(図2)
金井氏によると、同コンソーシアムでは今後、エッジクロスのユースケースの構築や、関連団体とも連携したエッジクロスの標準化、さらには海外展開も積極的に図っていく考えだ。
ちなみに、エッジクロスと同様に、FAとITを協調させるエッジコンピューティングについては、ファナックが「フィールドシステム」、DMG森精機が「アダモス」の名称で開発した技術の普及促進に努めているが、2018年7月に経済産業省が「産業データ共有促進事業費補助金」の採択事業として、これら3つの環境においてデータ共有を図ることを発表した。これは顧客視点の対応といえる。
こうして利用環境も一層広がったエッジクロス。果たして、日本発の生産現場向けエッジコンピューティングとして、世界に羽ばたく国産技術となるか。注目しておきたい。
(文=松岡功)
<著者略歴>
松岡功(まつおか・いさお)フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT」の3分野をテーマに、複数のメディアでコラムや解説記事を執筆中。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌の編集長を歴任後、フリーに。危機管理コンサルティング会社が行うメディアトレーニングのアドバイザーも務める。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年生まれ、大阪府出身。>
生産現場のFA機器とITシステムの連携を推進する業界団体である「一般社団法人Edgecross(エッジクロス)コンソーシアム」が先頃、その連携を行うために2018年5月に提供開始した基本ソフトウェア「エッジクロス」を機能強化したと発表した。
同コンソーシアムは、アドバンテック、オムロン、NEC、日本IBM、日本オラクル、三菱電機の6社が幹事会社となって2017年11月に設立。2018年2月には日立製作所も幹事会社に名を連ねた。設立時の会員企業数は51社だったが、2018年10月9日時点で208社に増え、この分野に関係するさまざまな企業が登録している。
今回発表されたエッジクロスの機能強化の内容については発表資料をご覧いただくとして、ここではこの基本ソフトの目指す姿に着目したい。
まず、あらためてエッジクロスとは何かというと、生産現場のFA機器と情報システム(IT)を協調させるエッジコンピューティングを実践するためのソフトだ。言い方を換えれば、FA機器をIoTデバイスと捉えた「IoT基盤」である。
同コンソーシアムの会員にとっては、人・機械・システムが協調する基盤となる一方、この基本ソフト上で動くエッジアプリケーションは、各社の競争によってあらゆる機械や設備とつながる製品を開発し、広く展開していくことができるとしている。
エッジクロスの特徴は次の5つ。1つ目は、多様な機器からデータ収集ができるようになり、生産設備やエッジアプリケーションを自由に選択可能なこと。2つ目は、生産現場から連続発生するリアルタイムデータをエッジアプリケーションに最適な形式やタイミングで配信できること。
3つ目は、生産現場の機器・装置・ラインを抽象化し、階層的に管理できること。4つ目は、クラウドやオンプレミス(自社での運用)環境のサーバ上のITシステムとの連携が容易なこと。5つ目は、特定の産業用PCベンダーのハードウェアに依存しないソフトウェアプラットフォームであること、である。(図1)
“ソサエティ5.0”の活動に寄与
同コンソーシアムの金井正一代表理事は、自らの活動について次のように説明した。
「企業・産業の枠を超え、エッジコンピューティング領域を軸とした新たな付加価値創出を目指し、グローバルで需要が高まっているIoT化や、日本政府が提唱する“ソサエティ5.0”とそれにつながる“コネクテッドインダストリ”の活動に寄与する」
これがすなわち、エッジクロスの目指す姿ともいえよう。(図2)
金井氏によると、同コンソーシアムでは今後、エッジクロスのユースケースの構築や、関連団体とも連携したエッジクロスの標準化、さらには海外展開も積極的に図っていく考えだ。
ちなみに、エッジクロスと同様に、FAとITを協調させるエッジコンピューティングについては、ファナックが「フィールドシステム」、DMG森精機が「アダモス」の名称で開発した技術の普及促進に努めているが、2018年7月に経済産業省が「産業データ共有促進事業費補助金」の採択事業として、これら3つの環境においてデータ共有を図ることを発表した。これは顧客視点の対応といえる。
こうして利用環境も一層広がったエッジクロス。果たして、日本発の生産現場向けエッジコンピューティングとして、世界に羽ばたく国産技術となるか。注目しておきたい。
(文=松岡功)
松岡功(まつおか・いさお)フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT」の3分野をテーマに、複数のメディアでコラムや解説記事を執筆中。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌の編集長を歴任後、フリーに。危機管理コンサルティング会社が行うメディアトレーニングのアドバイザーも務める。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年生まれ、大阪府出身。>
日刊工業新聞2018年10月19日