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7年ぶりの生え抜き日本人トップ、IBMのデジタル変革はどこまで進むのか

「あらゆる枠を超えていく」
7年ぶりの生え抜き日本人トップ、IBMのデジタル変革はどこまで進むのか

山口社長

 日本IBMが新たなスタートを切った。指揮を執るのは、7年ぶりの生え抜き日本人トップとして注目される山口明夫社長。5月1日の就任以来、6月5日に初めての会見を開き、「あらゆる枠を超えていく」という考えを盛り込んだグループビジョンと「デジタル変革(DX)の先導役を担う」などの重点施策を発表した。

 会見で山口社長は、米IBMが提唱する「DX第2章」に対し「さらにその先を見据えて、“クライアント・ファースト”で社会変革や業界プラットフォーム(基盤)の提供などにも注力する」と意欲を示した。

 基本方針として「お客さまごとにDXのマイルストーンを作り、着実にこなしていく」ことを強調。具体策として、ビジネスモデルなどを提案する「グローバル・ビジネス・サービス(GBS)」と、ITインフラを提供する「グローバル・テクノロジー・サービス(GTS)」の両部門が一丸となって客先に向き合う体制を築く。

 こうした取り組みは米IBMを中心にグローバルでも検討中。日本IBMはグローバルに先駆けて実践し「コンサルティングからシステム構築、運用・保守まで一貫した新しいサービス体制を築く」(山口社長)。長年培ってきた総合力を結集することで、クラウド専業との差別化を図り、本丸である客先の基幹システムのDX化を先導する。

 新しいサービス体制は、お家芸であるアウトソーソング(外部委託)サービスをほうふつとさせるが、いわゆる“丸抱え型”ではなくユーザーに対して多様な選択肢を提供する。特定業者に依存しないオープン技術を前提として、人工知能(AI)「ワトソン」や「IBMクラウド」など看板の製品・サービスも選択肢の一つとし、マルチクラウド、マルチAIにかじを切る。併せて「データ×AI」の新潮流も深耕する。

 先兵となる米レッドハットの買収は、まもなく完了する見通し。グローバルの戦略に沿って、国内でもレッドハットとの連携強化により、オープンソースソフト(OSS)によるエコシステム(協業の生態系)の拡大に力を注ぐ。

 IBMは09年に「スマーター・プラネット(賢い地球)」を提唱し、ITの適用領域を拡大し市場を先導してきた。だが12年ころからアマゾン・ウエブ・サービス(AWS)などのクラウド専業との戦いが激化し、IBMは守勢に立たされてきた。

 今も激戦は続くが、マルチクラウド化の中で、クラウド専業との戦いの局面が変化。DX第2章では、基幹システムのDX化が焦点であり、IBMをはじめITの古豪ベンダーの巻き返しが注目されている。山口社長の腕の見せどころだ。
(文=斉藤実)

日刊工業新聞2019年6月6日



「三つの約束をしたい」


  日本IBMの山口明夫社長は18日、都内で開幕した自社イベント「シンク・サミット」の講演で、デジタル変革(DX)に向け「先進テクノロジーや企業内に眠っているデータを活用し、今こそ攻めに転じる時だ」と、「DX第2章」の幕開けを宣言した。加えて「あらゆる枠を超え、第2章の“さらにその先”も見据え、皆さんと三つの約束をしたい」とイベントに来場した顧客やパートナー企業に呼びかけた。

 三つの約束とは「DXの推進」「先進テクノロジーによる新規ビジネスでの共創」「IT・人工知能(AI)人財の育成」。プラス1として「信頼性と透明性の確保」についても言及し「3プラス1」を公約した。山口社長が公式のイベントに登壇したのは5月の就任以来初めて。7年ぶりの生え抜き日本人トップとして熱弁を振るった。

 「DX第2章」の道しるべとしては、組織・人の変革や企業内に眠る宝の山であるビッグデータ(大量データ)の活用、次世代インフラのあり方など、七つの層を定義。これに顧客先の現状をマッピングすることで「顧客が今どこにいて、次に何をしなければならないかを示す」などの施策を強調した。

 人材育成では、経済産業省の「DXレポート」を踏まえ「2025年にはIT人材が43万人不足する。すべての人にIT・AI人財育成の機会をもたらしたい」と語った。社内実践では、営業を含め日本IBMのすべての社員にデータ解析などのスキルを身につけさせ、「顧客への提案だけでなく、自らの業務の変革にも役立てるようにしたい」と言及した。

日刊工業新聞2019年6月19日


                

                


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