コマツは完全無人、クボタは自動田植機。建機・農機の自動化が止まらない!
AI、IoTを駆使 労働人口の減少をカバーできる?
日本の生産年齢人口の減少とともに、社会全体で人手不足が叫ばれている。とりわけ、建設、農業といった現場の労働力不足は深刻で、対策は待ったなしだ。そんな中、建設機械・農業機械メーカー各社がこれまでの技術やノウハウに、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)、ロボット技術などを取り入れ、自動化の取り組みを加速している。「担い手」不足解消の切り札となるか―。建機、農機各社の最新動向を追う。
建設業界では人手不足は喫緊の課題で、2030年には100万人の建設現場人材が不足すると予測されている。この解決策の一つとして国土交通省が提唱するのが「アイ・コンストラクション」。建設現場の情報通信技術(ICT)化だ。建設機械メーカーではこれに伴い、ICT対応建機の開発を強力に推進。その先にあるのが、建機の自動化だ。
建設現場で使用する建機は複雑な作業が多く、各種機械の特性や利用シーンに合わせて、遠隔操作や部分的な自動化、そして完全自動化といった具合で進めている。完全自動化・無人化は、実証を行っている段階だ。
コマツは完全無人の油圧ショベルやクローラー式ダンプの実証を続けている。AIを活用した画像分析機能や地形の計測技術を搭載した油圧ショベルを、ダンプと協調して稼働できるようにした。
さらに、油圧ショベルには地形の計測センサーを搭載し、掘削動作を最適化。現場の画像分析をもとにダンプの荷台の位置も正確に割り出して、土砂を投入できる。米エヌビディアの画像処理半導体(GPU)を油圧ショベルの自律運転に活用する。
日立建機はアスファルト舗装の仕上げなど、地面を押し固める転圧作業を行う道路機械である「タイヤローラ」の自動運転試験を実証中だ。タブレット端末で転圧の領域と走行経路を設定し転圧を開始、レーンチェンジも自動で行う。進捗(しんちょく)管理はタブレット上で確認できる。そのほか、ミニショベルの自動掘削積み込み試験なども行っている。
建機の完全自動化・無人化は、人手不足解消だけでなく、危険な作業が多い建設現場での安全性向上にもつながる。早期の実用化が待たれる。
農機を使う農業従事者は高齢化が進み、人手不足も問題となっている。このため「担い手」と呼ばれる農業法人や一定規模の農地を持つ農家の負担は増える。こうした悩みを解決するために、農機メーカー各社はICTなどを駆使して「自動化」に対応する農機の開発に力を入れる。通常の農機より高価格帯や道路走行時の法的整備への対応など課題はあるが、農機大手の“競演”はニッポン農業を救う一手となるか―。
自動農機の開発で先陣を切るクボタは、自動農機「アグリロボ」シリーズを展開する。17年に投入済みの中型トラクターなどに加え、100馬力の大型トラクター、自動刈り取りができるコンバインを19年に、自動で直進や旋回が可能な田植機は20年に、それぞれ発売予定だ。
クボタのトラクタ総合事業部長の富山裕二常務執行役員は「自動車と違い、でこぼこの農地でトラクターなどを真っすぐ走らせるのは熟練者でないと難しい」と話す。全地球測位システム(GPS)の位置情報などを活用した自動農機は、人手不足対応の解消とともに“熟練の技能”を供給する。
ヤンマーグループのヤンマーアグリ(大阪市北区)は自動農機「スマートパイロット」シリーズの田植機を2月投入した。搭載のオートモードでは自動直進や旋回、苗植え付けの昇降操作などが自動でできる。18年発売した自動トラクターに続くラインアップに、農機推進部の鈴木哲也部長は「完全無人化対応へのステップ」と話す。今後は自動コンバインも開発を急ぐ。
井関農機では「ニーズに合った製品を投入していく」(冨安司郎社長)という方針の下、自動化に取り組んでいる。18年にモニター販売を始めた有人監視型ロボットトラクターは、使用者が農地内か農地周辺で監視している状態で、無人トラクターをリモコンで操作する。機械の前方と後方、側面にセンサーとカメラを搭載。周囲に人を検知すると安全制御が作動し自動的に停止する。
今後はトラクターだけでなく田植機などさまざまな農機の完全な無人化を目指す。
自動建機・自動農機
自動建機は国交省が提案する取り組み「アイ・コンストラクション」にも盛り込まれている。アイ・コンストラクションは測量から設計、施工、検査、維持管理に至る全ての事業プロセスでICTを活用。建設生産システム全体をシームレス化し、効率的なサプライチェーン導入により、魅力ある建設現場を目指すというものだ。>
一方の自動農機は農林水産省が19年度から農業の省人化に貢献する「スマート農業」の実証実験を始めており、自動トラクターなどの活用はその一環。自動農機は今後、安全性確保の段階別で完全無人化となる「レベル3」を見据えた開発が進んでいる。
建設現場や農業現場などでは建機、農機の自動化とともにロボット導入の動きも活発化しそうだ。農作業の省力化や無人化などにつながる農業用ロボットには、トラクターやコンバイン、田植機などを自動運転化したロボット農機のほか、施設栽培向けの播種(はしゅ)・移植ロボット、栽培した作物の選別や収穫、搬送などを行う収穫・搬送ロボット、作業者が装着して作業負担を軽減するアシストロボットなどさまざまだ。また、飛行ロボット(ドローン)を活用した圃(ほ)場データの収集、施肥の適正化なども期待される。
富士経済(東京都中央区)がまとめた穀物向けのロボット農機と、野菜や果実などの収穫・搬送ロボットの市場規模は、30年に18年比51.5倍の67億円に拡大すると予測する。
特にロボット農機は同46.2倍の60億円になるとする。ロボット農機も使用者が搭乗した状態での自動操舵(そうだ)(レベル1)、有人監視下における無人運転(レベル2)、完全無人運転(レベル3)と自動化のレベルが進展する。
一方、建設現場でも人手不足を背景に、自動建機のほかにも無人調査ロボットや建設現場で使用される清掃ロボット、パワーアシストスーツなど人の作業を補助・代替するロボットの市場拡大が見込まれている。
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大手自動車メーカーも注目、自動化のキーマン
建設現場、安全に効率的に
建設業界では人手不足は喫緊の課題で、2030年には100万人の建設現場人材が不足すると予測されている。この解決策の一つとして国土交通省が提唱するのが「アイ・コンストラクション」。建設現場の情報通信技術(ICT)化だ。建設機械メーカーではこれに伴い、ICT対応建機の開発を強力に推進。その先にあるのが、建機の自動化だ。
建設現場で使用する建機は複雑な作業が多く、各種機械の特性や利用シーンに合わせて、遠隔操作や部分的な自動化、そして完全自動化といった具合で進めている。完全自動化・無人化は、実証を行っている段階だ。
コマツは完全無人の油圧ショベルやクローラー式ダンプの実証を続けている。AIを活用した画像分析機能や地形の計測技術を搭載した油圧ショベルを、ダンプと協調して稼働できるようにした。
さらに、油圧ショベルには地形の計測センサーを搭載し、掘削動作を最適化。現場の画像分析をもとにダンプの荷台の位置も正確に割り出して、土砂を投入できる。米エヌビディアの画像処理半導体(GPU)を油圧ショベルの自律運転に活用する。
日立建機はアスファルト舗装の仕上げなど、地面を押し固める転圧作業を行う道路機械である「タイヤローラ」の自動運転試験を実証中だ。タブレット端末で転圧の領域と走行経路を設定し転圧を開始、レーンチェンジも自動で行う。進捗(しんちょく)管理はタブレット上で確認できる。そのほか、ミニショベルの自動掘削積み込み試験なども行っている。
建機の完全自動化・無人化は、人手不足解消だけでなく、危険な作業が多い建設現場での安全性向上にもつながる。早期の実用化が待たれる。
熟練農家の技能を継承
農機を使う農業従事者は高齢化が進み、人手不足も問題となっている。このため「担い手」と呼ばれる農業法人や一定規模の農地を持つ農家の負担は増える。こうした悩みを解決するために、農機メーカー各社はICTなどを駆使して「自動化」に対応する農機の開発に力を入れる。通常の農機より高価格帯や道路走行時の法的整備への対応など課題はあるが、農機大手の“競演”はニッポン農業を救う一手となるか―。
自動農機の開発で先陣を切るクボタは、自動農機「アグリロボ」シリーズを展開する。17年に投入済みの中型トラクターなどに加え、100馬力の大型トラクター、自動刈り取りができるコンバインを19年に、自動で直進や旋回が可能な田植機は20年に、それぞれ発売予定だ。
クボタのトラクタ総合事業部長の富山裕二常務執行役員は「自動車と違い、でこぼこの農地でトラクターなどを真っすぐ走らせるのは熟練者でないと難しい」と話す。全地球測位システム(GPS)の位置情報などを活用した自動農機は、人手不足対応の解消とともに“熟練の技能”を供給する。
ヤンマーグループのヤンマーアグリ(大阪市北区)は自動農機「スマートパイロット」シリーズの田植機を2月投入した。搭載のオートモードでは自動直進や旋回、苗植え付けの昇降操作などが自動でできる。18年発売した自動トラクターに続くラインアップに、農機推進部の鈴木哲也部長は「完全無人化対応へのステップ」と話す。今後は自動コンバインも開発を急ぐ。
井関農機では「ニーズに合った製品を投入していく」(冨安司郎社長)という方針の下、自動化に取り組んでいる。18年にモニター販売を始めた有人監視型ロボットトラクターは、使用者が農地内か農地周辺で監視している状態で、無人トラクターをリモコンで操作する。機械の前方と後方、側面にセンサーとカメラを搭載。周囲に人を検知すると安全制御が作動し自動的に停止する。
今後はトラクターだけでなく田植機などさまざまな農機の完全な無人化を目指す。
自動建機は国交省が提案する取り組み「アイ・コンストラクション」にも盛り込まれている。アイ・コンストラクションは測量から設計、施工、検査、維持管理に至る全ての事業プロセスでICTを活用。建設生産システム全体をシームレス化し、効率的なサプライチェーン導入により、魅力ある建設現場を目指すというものだ。>
一方の自動農機は農林水産省が19年度から農業の省人化に貢献する「スマート農業」の実証実験を始めており、自動トラクターなどの活用はその一環。自動農機は今後、安全性確保の段階別で完全無人化となる「レベル3」を見据えた開発が進んでいる。
ロボ農機、30年50倍にも
建設現場や農業現場などでは建機、農機の自動化とともにロボット導入の動きも活発化しそうだ。農作業の省力化や無人化などにつながる農業用ロボットには、トラクターやコンバイン、田植機などを自動運転化したロボット農機のほか、施設栽培向けの播種(はしゅ)・移植ロボット、栽培した作物の選別や収穫、搬送などを行う収穫・搬送ロボット、作業者が装着して作業負担を軽減するアシストロボットなどさまざまだ。また、飛行ロボット(ドローン)を活用した圃(ほ)場データの収集、施肥の適正化なども期待される。
富士経済(東京都中央区)がまとめた穀物向けのロボット農機と、野菜や果実などの収穫・搬送ロボットの市場規模は、30年に18年比51.5倍の67億円に拡大すると予測する。
特にロボット農機は同46.2倍の60億円になるとする。ロボット農機も使用者が搭乗した状態での自動操舵(そうだ)(レベル1)、有人監視下における無人運転(レベル2)、完全無人運転(レベル3)と自動化のレベルが進展する。
一方、建設現場でも人手不足を背景に、自動建機のほかにも無人調査ロボットや建設現場で使用される清掃ロボット、パワーアシストスーツなど人の作業を補助・代替するロボットの市場拡大が見込まれている。
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大手自動車メーカーも注目、自動化のキーマン
日刊工業新聞2019年8月16日(機械)