建設現場で大活躍!“働くクルマ”の進化は止まらない
ICT活用、自動化、人型重機も開発進む
油圧ショベル、ホイールローダー、ブルドーザー、クローラークレーン―。建設機械は建設・土木工事だけでなく、農業や林業、畜産など幅広い現場で利用される。これまで日本の建機メーカーは用途やニーズに合わせて製品を開発してきた。今後、作業効率化や人手不足、危険な現場でいかに安全に作業するかなど、要求は高まっていくことが予想される。建機の未来はどうなっていくのか。変遷をたどりながら分析する。
日本の建機は、1930年代のディーゼルエンジンの実用化とともに誕生した。この頃、39年に始まる第二次世界大戦の戦争準備のための資源開発が行われていた。国産初の電気ショベルを神戸製鋼所(現コベルコ建機)が30年に、中国の炭鉱に納入した。43年には空港建設に使用するために海軍からの要請でコマツがブルドーザーを開発した。
第二次大戦終了後は荒廃した国土の復興、食糧の確保、住宅開発などでブルドーザーやトラクターなどが必要とされ、各社が建機の生産を再開した。
50年代に入ると、ダム建設など大型工事の需要が増大した。そうした中、日立製作所(現日立建機)は57年に、量産機として世界初の流体継ぎ手を採用したショベルを試作。58年には販売を開始した。各種クレーンの国産化も進んだ。
そして、何と言っても60年代の高度経済成長期は、建機業界に追い風が吹いた。中でもその象徴は64年の東京五輪。五輪関連の建設投資は大きなけん引力となり、高速道路など公共事業の活発化や地下鉄工事、石油化学コンビナート建設などが急増した。65年には純国産の油圧ショベルを日立建機が開発した。
73年のオイルショックをきっかけに、省エネルギー型建機の開発に向けて、エンジンなど動力系や作業機構などの研究が進められた。80年代後半から油圧システムの効率向上やエンジンと油圧ポンプのトータル制御などが行われ、初めてコンピューターが採用された。少ない燃料で効率的な作業を行うホイールローダーも注目された。
キャタピラージャパン(横浜市西区)の山中学執行役員は、「この30年間で最も変化したのは『排ガス規制』と『オペレーターの快適性』」と指摘する。
時代の流れとともに環境問題への対応は建機に必須となった。2006年に「特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律(オフロード法)」が施行された。段階的に粒子状物質(PM)や窒素酸化物(NOx)の排出削減規制が強化され、それに対応した製品を各社開発してきた。
現在の建機は「情報通信技術(ICT)活用」や「1台で多様な使い方ができる」などをキーワードに開発が進められている。人手不足や生産性・安全性・省エネの向上といった建設現場が抱える課題解決を目指す。
ICT活用は、どの業界でも同様だが、製品の付加価値を向上させることが目的だ。さらに、国土交通省が提案する「i―Construction(アイ・コンストラクション)」は、測量から設計、施工、検査、維持管理に至る全ての事業プロセスでICTを導入し、建設生産システム全体の生産性向上を目指すという取り組みだ。
ICT活用が、操作性・安全性の向上や自動運転などの実現に結び付いている。コマツは2008年に「無人ダンプトラック運行システム(AHS)」を世界で初めて市場に導入した。過酷な環境である鉱山現場の安全や生産性を向上するため、独自の技術を駆使し完全無人稼働を実現。走行コースと速度情報は中央管制室から無線でダンプトラックに自動配信され、高精度の全地球測位システム(GPS)や推測航法で、自身の位置を把握しながら走行できる。
また、建機に取り付けたカメラやセンサーなどから稼働状況をデジタルデータ化して収集・分析することで、故障予兆を検知し診断結果を報告するといったサービスも各社が提供している。
建設・土木工事だけでなく、解体、林業、産業廃棄物処理、金属リサイクルなどさまざまな業種、幅広い現場で使用されることも増えてきた。コベルコ建機の油圧ショベルは、先端のアタッチメントを変えることでさまざまな用途に対応する。
日立建機は、将来を見据えたコンセプトマシンを開発した。四脚クローラー方式を採用し、従来の油圧ショベルの2クローラー方式では機械本体を水平に保つことが困難であった傾斜地や不整地などでも安定した作業ができる。作業装置であるフロント構造物の軽量化にも着手。アームとアタッチメントをアルミニウム合金化し軽量化した。これにより作業能力も向上する。
人力では困難な作業を実現するために進化してきた建機。危険な場所で人間が作業しなくても良いように、「人型建機」の開発に着手するベンチャー企業も出てきた。
カナモトは建機を操縦する人型ロボットを開発した。建機の運転席に設置し、離れた場所にいる操縦者がロボを制御し運転する。災害復旧や危険地帯での利用を視野にレンタル提供する。
また、ロボットベンチャーの人機一体(滋賀県草津市)は、人型重機の開発を進める。オペレーターが離れた場所からロボットを操作できる。危険な現場や過酷な環境での作業の代替を見込む。
上半身の動きがほぼ完成されており、20年までに二足歩行システムと連動させた高さ約4メートルの試作機の完成を目指している。さらなる安全性や作業効率の向上のため、技術革新は続く。
(文=編集委員・松沢紗枝)
省エネ型、国産で発展
日本の建機は、1930年代のディーゼルエンジンの実用化とともに誕生した。この頃、39年に始まる第二次世界大戦の戦争準備のための資源開発が行われていた。国産初の電気ショベルを神戸製鋼所(現コベルコ建機)が30年に、中国の炭鉱に納入した。43年には空港建設に使用するために海軍からの要請でコマツがブルドーザーを開発した。
第二次大戦終了後は荒廃した国土の復興、食糧の確保、住宅開発などでブルドーザーやトラクターなどが必要とされ、各社が建機の生産を再開した。
50年代に入ると、ダム建設など大型工事の需要が増大した。そうした中、日立製作所(現日立建機)は57年に、量産機として世界初の流体継ぎ手を採用したショベルを試作。58年には販売を開始した。各種クレーンの国産化も進んだ。
そして、何と言っても60年代の高度経済成長期は、建機業界に追い風が吹いた。中でもその象徴は64年の東京五輪。五輪関連の建設投資は大きなけん引力となり、高速道路など公共事業の活発化や地下鉄工事、石油化学コンビナート建設などが急増した。65年には純国産の油圧ショベルを日立建機が開発した。
73年のオイルショックをきっかけに、省エネルギー型建機の開発に向けて、エンジンなど動力系や作業機構などの研究が進められた。80年代後半から油圧システムの効率向上やエンジンと油圧ポンプのトータル制御などが行われ、初めてコンピューターが採用された。少ない燃料で効率的な作業を行うホイールローダーも注目された。
キャタピラージャパン(横浜市西区)の山中学執行役員は、「この30年間で最も変化したのは『排ガス規制』と『オペレーターの快適性』」と指摘する。
時代の流れとともに環境問題への対応は建機に必須となった。2006年に「特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律(オフロード法)」が施行された。段階的に粒子状物質(PM)や窒素酸化物(NOx)の排出削減規制が強化され、それに対応した製品を各社開発してきた。
ICT活用、変わる現場
現在の建機は「情報通信技術(ICT)活用」や「1台で多様な使い方ができる」などをキーワードに開発が進められている。人手不足や生産性・安全性・省エネの向上といった建設現場が抱える課題解決を目指す。
ICT活用は、どの業界でも同様だが、製品の付加価値を向上させることが目的だ。さらに、国土交通省が提案する「i―Construction(アイ・コンストラクション)」は、測量から設計、施工、検査、維持管理に至る全ての事業プロセスでICTを導入し、建設生産システム全体の生産性向上を目指すという取り組みだ。
ICT活用が、操作性・安全性の向上や自動運転などの実現に結び付いている。コマツは2008年に「無人ダンプトラック運行システム(AHS)」を世界で初めて市場に導入した。過酷な環境である鉱山現場の安全や生産性を向上するため、独自の技術を駆使し完全無人稼働を実現。走行コースと速度情報は中央管制室から無線でダンプトラックに自動配信され、高精度の全地球測位システム(GPS)や推測航法で、自身の位置を把握しながら走行できる。
また、建機に取り付けたカメラやセンサーなどから稼働状況をデジタルデータ化して収集・分析することで、故障予兆を検知し診断結果を報告するといったサービスも各社が提供している。
建設・土木工事だけでなく、解体、林業、産業廃棄物処理、金属リサイクルなどさまざまな業種、幅広い現場で使用されることも増えてきた。コベルコ建機の油圧ショベルは、先端のアタッチメントを変えることでさまざまな用途に対応する。
日立建機は、将来を見据えたコンセプトマシンを開発した。四脚クローラー方式を採用し、従来の油圧ショベルの2クローラー方式では機械本体を水平に保つことが困難であった傾斜地や不整地などでも安定した作業ができる。作業装置であるフロント構造物の軽量化にも着手。アームとアタッチメントをアルミニウム合金化し軽量化した。これにより作業能力も向上する。
人力では困難な作業を実現するために進化してきた建機。危険な場所で人間が作業しなくても良いように、「人型建機」の開発に着手するベンチャー企業も出てきた。
カナモトは建機を操縦する人型ロボットを開発した。建機の運転席に設置し、離れた場所にいる操縦者がロボを制御し運転する。災害復旧や危険地帯での利用を視野にレンタル提供する。
また、ロボットベンチャーの人機一体(滋賀県草津市)は、人型重機の開発を進める。オペレーターが離れた場所からロボットを操作できる。危険な現場や過酷な環境での作業の代替を見込む。
上半身の動きがほぼ完成されており、20年までに二足歩行システムと連動させた高さ約4メートルの試作機の完成を目指している。さらなる安全性や作業効率の向上のため、技術革新は続く。
(文=編集委員・松沢紗枝)
日刊工業新聞2019年5月3日