地域にお金落として…活気づくインフラ観光が抱える重要課題

連載・インフラを生かす(5)

 橋やダムなどの社会インフラを観光資源に位置づけ、地域振興を図る「インフラツーリズム」が活気づいている。埼玉県春日部市の治水施設「首都圏外郭放水路」や淡路島と神戸市をつなぐ吊り橋「明石海峡大橋」などは「SNS映え」施設としても人気を集める。

 国土交通省は観光振興の推進策としてインフラの年間来訪者数を2020年に100万人と17年比で倍増する目標を掲げており、旅行会社は新たな事業機会と期待する。一方、インフラは郊外に単独で立地するケースが多く、周辺地域の活性化には寄与しにくいといった課題も浮き彫りになっている。(文=葭本隆太)

民間の力で集客力が高まった


 高さ18メートルの巨大な柱を見上げ、見学者たちは一様にスマートフォンで記念写真を撮り始めた―。「首都圏外郭放水路」に設けられた調圧水槽だ。重さ500トンの柱59本が水槽の天井を支える光景は「地下神殿」と呼ばれており、毎月数千人が訪れる。18年8月からは東武トップツアーズ(東京都墨田区)が見学会の企画運営を手がける。旅行会社の知見を生かしてインフラツーリズムの魅力向上に挑む先駆的な存在だ。
 

●首都圏外郭放水路:中川や倉松川など中小河川の洪水を地下に取り込み、地底50メートルを貫く総延長6.3キロメートルのトンネルを通して江戸川に流す、世界最大級の地下放水路。06年に完成した。調圧水槽は地下トンネルから流れてきた水の勢いを弱め、江戸川にスムーズに水を流す役割を担う。地下22メートルの位置に作られており、長さ177メートル、幅78メートル、高さ18メートルにおよぶ。


 首都圏外郭放水路の観光資源化が本格化したのは16年。内閣府が同年3月にまとめた「明日の日本を支える観光ビジョン」で観光資源としてのインフラの活用拡大がうたわれ、首都圏外郭放水路の活用機運が高まった。施設を所管する国交省関東地方整備局江戸川河川事務所はそれまでも「治水施設に対する国民の理解を深めて減災意識を醸成するため」(岩崎和夫江戸川河川事務所副所長)に見学者を受け入れていたが、受け入れ可能日を拡大した。

 17年には有識者会議を通じてさらなる推進策を策定した。それを受けて地元自治体である春日部市との連携体制「首都圏外郭放水路利活用協議会」を発足した。同協議会は民間の知見を活用するため、公募で選定した東武トップツアーズと18年に連携協定を結んだ。

 東武トップツアーズとしては東武鉄道沿線地域の価値向上を図る狙いがあったほか、インフラツーリズムに新たなビジネスチャンスを感じていた。同社法人営業本部に所属する森正州担当課長は「インフラが見学者に開放され、今まで見られなかった場所が見られるという体験は顧客への訴求力になる。旅行会社として魅力がある」と説明する。

首都圏外郭放水路の見学会のチラシ

 同社が企画運営に入ってから公開エリアを広げ、集客力を高めてきた。18年8―12月の見学者数は前年同期比3.7倍の約3万5000人に上った。目下の目標は年間見学者数5万人だ。

 インフラツーリズムの施設としては「明石海峡大橋」も人気だ。海面上約300メートルの主塔から360度の眺望を体験できるツアーを4―11月に実施しており、毎年1万人以上が訪れる。予約率は8割を超える。ツアーを主催する本州四国連絡高速道路(神戸市中央区)は「300メートルの高さからの眺望を風を感じながら楽しめる施設は他にはない」と人気の理由を説明する。

 国交省によるとインフラの年間訪問者は17年に約50万人だった。観光振興の推進策として国交省の期待は高く、今後は首都圏外郭放水路などのような集客力のある施設の拡大などによって20年に100万人まで増やす。3月には施設の見せ方の工夫などを盛り込んだ「手引き」を策定しており、施設の魅力を十分に生かし切れていない管理者などに魅力向上の取り組みを促していく。

地域をどう周遊させるか


 一方、首都圏外郭放水路などの人気施設もまだインフラツーリズム本来の期待に応えているとは言えない。インフラツーリズムに詳しい首都大学東京の清水哲夫教授は「インフラを開放して見学者が来ただけでは従前の社会科見学と変わらない。(インフラツーリズムには)インフラを起点に地域に経済効果を及ぼす期待があるが、実現しているケースはあまりない」と指摘する。その上で「インフラは郊外に単独で立地するケースが多く周辺エリアの周遊などにつなげるのが難しい」と続ける。

首都大学東京の清水哲夫教授

 実際に首都圏外郭放水路の観光資源化を推進する関係者からは「見学者たちに地域の周遊を促す難しさを感じている」という声が漏れる。首都圏外郭放水路では18年8―12月に無料シャトルバスの運行などを行い、道の駅「庄和」へ見学者の集客を図った。その結果、夏休みの8月は見学者全体の1割に当たる1000人程度が道の駅に集客したものの、9月以降はわずか月100人程度にとどまったという。

 こうしたことから東武トップツアーズではインフラ見学を地域の活性化につなぐため「着地型観光ツアー」を強化していく。森担当課長は「春日部市は観光の町ではない捉えられ方をするが、特有の歴史や文化はある。地域資源を洗い出してデザインすれば魅力あるツアーを造成できる。それによって地域の活性化に貢献できる」と力を込める。

 地域の活性化は地元自治体に課せられた課題でもある。春日部市は観光振興計画において「首都圏外郭放水路は観光ブランディングの核」と位置づけるが、地域振興につなぐ有効策はまだ打てていない。その中で春日部市環境経済部の添田智則観光振興課長は「地域の商店会や商工会議所などと連携しながら(周遊を促す取り組みに)挑戦したい。交通の利便性を高める方策なども検討したい」と意気込む。

 国交省も課題を認識する。そこで7月には周辺地域と連携したツアーの造成などに取り組むモデル地区5カ所を選定し、地域の周遊を促す有効策などを検証する体制を整えた。国交省総合政策局公共事業企画調整課の担当者は「成功事例を構築し、その手法を全国に横展開する」と狙いを説明する。

                    

話題を集め続けるために


 インフラツーリズムは一生逃れられない宿命も抱える。話題を集め続ける仕掛け作りだ。東武トップツアーズの森担当課長は「有名なテーマパークでさえ定期的に異なるイベントを実施して集客力を維持する。(インフラツーリズムの持続性を確保するためには)顧客を刺激し続ける方策を考え続けなくてはいけない」と力を込める。

 インフラツーリズムの推進は13年の「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」で初めて政策として位置づけられた。それから約5年でインフラ見学を組み込んだ民間ツアーが増えるなど、一定の認知度を得た。その中で高い集客力を誇る施設も登場している。今後は地域の観光振興に生かしたり、持続したりすることが重要だが、それは一筋縄ではいかない。関係者には強い覚悟が求められる。

連載・インフラを生かす(全6回)


【01】国交省の一手で動く…インフラメンテ5兆円市場に挑む異業種たち(8月13日配信)
【02】世界200兆円市場を狙う、インフラ監視〝宇宙の目〟の全貌(8月14日配信)
【03】老朽インフラの危機、財政難はクールな「省インフラ」で突破せよ(8月15日配信)
【04】世界を旅する写真家が魅了されたインフラメンテ現場のリアル(8月16日配信)
【05】地域にお金落として…活気づくインフラ観光が抱える重要課題(8月17日配信)
【06】「税金の無駄使い」だったダムを一変させたマニアの一言と逆転力(8月18日配信)

ニュースイッチオリジナル

葭本 隆太

葭本 隆太
08月17日
この記事のファシリテーター

インフラの年間訪問者数の拡大という視点では、訪日外国人客の集客もポイントになります。首都圏外郭放水路では「地下神殿」を解説する多言語アプリを導入しており、東武トップツアーズによると見学者の1割を訪日客が占めるそうです。国交省の調査では訪日客の87%が「インフラ見学」に関心があると答えており、その層に訴求する体制作りは重要になりそうです。

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