ファン少なくても成立!?テクノロジーが変えるアイドルライブ
世界つなぐVBの遠隔技術
世界中のどこででもアイドルのライブを同時開催する技術基盤が整いつつある。インターネットを経由しても、遅延のない双方向通信環境がバーチャルユーチューバー(Vtuber)で実現した。ファンの数自体は少なくても遠隔技術で世界中から集めれば興業として成立する。インディーズのアイドルはコアなファンに支えられてきた。今後はコアが特別ではなく、コアが普通になるかもしれない。(文=小寺貴之)
「いつも(画面の向こうに)いるのはわかってたけど、見えなかった。こんなにたくさんの人に応援してもらって。今後辛いこともあるだろうけどもう大丈夫」―。ハニーストラップ(774inc所属)の島村シャルロットはライブの最後のあいさつで泣くのをこらえ声を絞り出した。普段Vtuberは画面の向こうのファンを直接見ることはできない。初めてたくさんの観客を前にして声を詰まらせた。
ハニーストラップはバルス(東京都千代田区)の双方向配信技術で東京と大阪、名古屋でライブを同時開催した。東名阪の3会場と収録スタジオを結び、リアルタイムな掛け合いを実現した。
ライブ自体は、3会場を埋め尽くしたファンに圧倒され、みな緊張の中でのスタートだった。歌や掛け合い、ゲームを通してファンとの距離が近づいていく。歌の途中で1人がフリーズして動かなくなっても、計測し直し復帰すると会場が「おかえりー!」と応援する。遠隔操作であっても、身体がCGのアバターであっても、本人たちが目の前に存在し、会場と一緒にライブを創っている。
ライブの遠隔技術は興業のハードルを下げる。バルスの林範和最高経営責任者(CEO)は「一度に5000人のライブ会場を埋められなくても、数百人の会場を全国各地で埋められれば興業として成立する」と説明する。
チケットのもぎりやグッズの物販などもIT化した。グッズは事前に決済して、ファンは会場で並ばすに受け取る。会場にも在庫は用意するが、売り切るための苦労はない。
林CEOは「最終的には会場にスタッフがいなくても、パソコンの遠隔制御だけで音響や演出を立ち上げる」と話す。コストやリスクを抑えて、会場運営の負荷を最小にする。ハニストの東京の会場になった池袋HUMAXシネマズ(豊島区)は、これを機にアイドルライブを増やす方針だ。興業の敷居が下がり会場は増えていく。
アイドルにとってファンとの接点は広がっている。ネットのチャットや番組配信など、接触頻度を増やす環境は整った。一方向配信のメディアでなく、双方向のコミュニケーションを日常的に行うことができる。Vtuberなら仮想空間を構築しやすく、ヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)でファンと空間や体験を共有しやすい。
そしてCGのアバターは歳をとらない。ファンの数こそ多くなくても、しっかりと心をつかめばアイドルとして長く生きていける。林CEOは「これまでは歌えて踊れてトークが面白い、顔のいい人しか生き残れなかった。これは奇跡に近い。これからはアニメ制作が作家や作画を分担するように得意技を持ち寄って戦っていける」と説明する。
バーチャルならではのライブ体験の開発も進んでいる。バーチャルでは花火やスモーク、衣装替えなどの演出は自由自在だ。海外配信向けに翻訳字幕をリアルタイムに出すこともできる。ライブ中継後にライブ映像を販売する際も、実機に制約されないカメラワークで映像を再編集できる。アイドル本人の視点でライブを見せることも可能だ。そのため「会場に来られなかったファンよりも会場に来たファンの購入が多い」(林CEO)状況だ。
アイデア次第でいかようにも演出できるため、演者と技術者の距離がより近づいている。一緒に知恵を絞り、すぐに試して演出を改良していく。モンスターズメイト(MZM、バルス所属)のコーサカは「別会場の様子をアバターの背景に映せば360度観客に囲まれたライブ会場になる」と提案する。各会場からの掛け合いを足し合わせれば声量は何倍にもなる。会場ごとに歌の上下パートを分担してハモらせられる。
観客がスマートフォンをHMDのようにかざすと、すぐ隣にアイドルが現れるなど、正面のスクリーンとスマホを往復することもできる。
動画配信サービスからライブに参加して、応援テキストを流して埋め尽くす演出は定番になった。常に新鮮な演出が求められるが、MZMのアンジョーは「絶対に誰もやっていない表現がまだまだたくさんある。見つけたらそれが新しい定番になるチャンス」と強調する。
テクノロジーの進化でアイドルは多数のファンを抱えなくても生きていける環境が整いつつある。ファンが増えたらライブの規模拡大も簡単だ。アイドルが長生きになり、しっかりとファンの心をつかむにつれてコミュニケーションの密度が増していく。コアなファンと特別視されていた関係性は、普通になるかもしれない。
東名阪3会場同時開催
「いつも(画面の向こうに)いるのはわかってたけど、見えなかった。こんなにたくさんの人に応援してもらって。今後辛いこともあるだろうけどもう大丈夫」―。ハニーストラップ(774inc所属)の島村シャルロットはライブの最後のあいさつで泣くのをこらえ声を絞り出した。普段Vtuberは画面の向こうのファンを直接見ることはできない。初めてたくさんの観客を前にして声を詰まらせた。
ハニーストラップはバルス(東京都千代田区)の双方向配信技術で東京と大阪、名古屋でライブを同時開催した。東名阪の3会場と収録スタジオを結び、リアルタイムな掛け合いを実現した。
ライブ自体は、3会場を埋め尽くしたファンに圧倒され、みな緊張の中でのスタートだった。歌や掛け合い、ゲームを通してファンとの距離が近づいていく。歌の途中で1人がフリーズして動かなくなっても、計測し直し復帰すると会場が「おかえりー!」と応援する。遠隔操作であっても、身体がCGのアバターであっても、本人たちが目の前に存在し、会場と一緒にライブを創っている。
会場運営の負荷、最小限に
ライブの遠隔技術は興業のハードルを下げる。バルスの林範和最高経営責任者(CEO)は「一度に5000人のライブ会場を埋められなくても、数百人の会場を全国各地で埋められれば興業として成立する」と説明する。
チケットのもぎりやグッズの物販などもIT化した。グッズは事前に決済して、ファンは会場で並ばすに受け取る。会場にも在庫は用意するが、売り切るための苦労はない。
林CEOは「最終的には会場にスタッフがいなくても、パソコンの遠隔制御だけで音響や演出を立ち上げる」と話す。コストやリスクを抑えて、会場運営の負荷を最小にする。ハニストの東京の会場になった池袋HUMAXシネマズ(豊島区)は、これを機にアイドルライブを増やす方針だ。興業の敷居が下がり会場は増えていく。
アイドルにとってファンとの接点は広がっている。ネットのチャットや番組配信など、接触頻度を増やす環境は整った。一方向配信のメディアでなく、双方向のコミュニケーションを日常的に行うことができる。Vtuberなら仮想空間を構築しやすく、ヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)でファンと空間や体験を共有しやすい。
そしてCGのアバターは歳をとらない。ファンの数こそ多くなくても、しっかりと心をつかめばアイドルとして長く生きていける。林CEOは「これまでは歌えて踊れてトークが面白い、顔のいい人しか生き残れなかった。これは奇跡に近い。これからはアニメ制作が作家や作画を分担するように得意技を持ち寄って戦っていける」と説明する。
自由自在に演出改良
バーチャルならではのライブ体験の開発も進んでいる。バーチャルでは花火やスモーク、衣装替えなどの演出は自由自在だ。海外配信向けに翻訳字幕をリアルタイムに出すこともできる。ライブ中継後にライブ映像を販売する際も、実機に制約されないカメラワークで映像を再編集できる。アイドル本人の視点でライブを見せることも可能だ。そのため「会場に来られなかったファンよりも会場に来たファンの購入が多い」(林CEO)状況だ。
アイデア次第でいかようにも演出できるため、演者と技術者の距離がより近づいている。一緒に知恵を絞り、すぐに試して演出を改良していく。モンスターズメイト(MZM、バルス所属)のコーサカは「別会場の様子をアバターの背景に映せば360度観客に囲まれたライブ会場になる」と提案する。各会場からの掛け合いを足し合わせれば声量は何倍にもなる。会場ごとに歌の上下パートを分担してハモらせられる。
観客がスマートフォンをHMDのようにかざすと、すぐ隣にアイドルが現れるなど、正面のスクリーンとスマホを往復することもできる。
動画配信サービスからライブに参加して、応援テキストを流して埋め尽くす演出は定番になった。常に新鮮な演出が求められるが、MZMのアンジョーは「絶対に誰もやっていない表現がまだまだたくさんある。見つけたらそれが新しい定番になるチャンス」と強調する。
テクノロジーの進化でアイドルは多数のファンを抱えなくても生きていける環境が整いつつある。ファンが増えたらライブの規模拡大も簡単だ。アイドルが長生きになり、しっかりとファンの心をつかむにつれてコミュニケーションの密度が増していく。コアなファンと特別視されていた関係性は、普通になるかもしれない。
日刊工業新聞2019年8月5日