【前田裕二】「SHOWROOM」を生み出したメモの魔力

『メモの魔力』著者インタビュー

 学校の授業中や会議における議事録作成、買い物リスト作成時-。大抵の人は備忘録としてメモをとることが多いだろう。一方『知的生産』のためにメモをフル活用することを指南するのが、本著「メモの魔力」だ。著者でSHOWROOM(東京都渋谷区)社長の前田裕二氏に、メモのとり方や事業にどう生かされているのか、話を聞いた。

 -メモの効用を説いていますが、執筆のきっかけは。
 「幼少期からメモを取ることは呼吸をするかのように自然なことだった。これまで尋常ではない量のメモをとったが、人に指摘されて初めて特殊なことだと気付いた。振り返ってみると、アイデアを出す力や物事を構造化して考える力、言語化する力は、メモをとることで磨かれたし、それが起業にもつながった。こうしたメモのノウハウを伝えることで、サラリーマンのビジネスに関するアイデア出しや就活生の自己分析、主婦が抱える課題解決などに役立てて欲しい」

 -どのようにメモをとるのですか。
 「まずノートは見開きで大きく使うこと。見聞きしたことや悩んでること、悲しいこと、辛いこと、うれしいことなど、ノートの左側にとにかくたくさんメモをとってほしい。右側には、なぜ自分にこうした感情の機微があるのか客観視して、解釈を得て『抽象化』する。これをもとにアクションへと『転用』することが一連の流れだ」

 -具体的には。
 「ある主婦が『洗面台の汚れ』という課題を持っていたとすれば、まずそれをノートにメモする。次に、どうして掃除してるのに洗面台が汚れたように見えるかを考える。そうすると、家族の利便性を優先していつも使う洗面用具を出したままにしているから、と解釈して『抽象化』できる。そこで利便性と、洗面台を清潔に保つことをてんびんにかける。清潔を優先したい場合は、使ったものはその都度棚に収納する、というアクションが生まれる」

 -「抽象化」と「転用」によって思考を深めることが大切なのですね。
 「普通は汚れた洗面台を見て気分を害しても、抽象化しようと思わない。しかしそこでメモをとってみると、道が開ける。自分の中でPDCA(計画、実行、点検、改善)を回すことは、実現したいことを推し進めるドライバーとなる」

 -「メモの魔力」で最も伝えたいことは何ですか。
 「誰しも日々の生活で直面する課題があるはず。こうした課題は宝のようなものだが、それをスルーしてしまってる人も多いだろう。そこに向き合うべきではないかというのが『メモの魔力』の提案だ」

 -アーティストやアイドルなどが動画を生配信するサイト「SHOWROOM」を手がけています。ファンは有料アイテムを購入して「ギフティング」することで配信者を応援する仕組みです。メモをとることはこうした事業にも生かされてますか。
 「仕事における成功事例や失敗事例をメモして、それをどう抽象化してアクションに起こすか、常に考えている。現在は動画配信市場の競争が激化しており、どう存在感を示すかが課題だ。そこで競合の動きを書き出すと、当社と似たサービスを展開してる企業が多かった。これは当社の独自性や競争優位性を示すきっかけになると考えた。競合が増えれば増えるほど、当社のブランドを引き上げるチャンスと捉える。他社に追随するのではなく我々しかできないサービスを提供し続けるというアクションが生まれた」

 -AKBグループをはじめとした人気アイドルもSHOWROOMに配信しています。やはりこうした有名人が多くの視聴者を抱えているのでしょうか。
「一般の人があまり知らないタレントやアーティストが人気を集め、(当社の)収益の柱になっている。視聴者は未完成品が完成品に至るまでの過程に”深く”心を揺さぶられ、コンテンツに没頭するからだ。その”深さ”が収益に転換する。(有名人のコンテンツは)完成度が高く、深まりにくい側面もある」

 -努力次第で人気の配信者になれるのですね。
「全ての人をすくい上げるのではなく、懸命に努力する人が報われる世の中にしたい。例えばライブにファンが集まらない吉本興業の芸人さんが、SHOWROOMで人気を集めて50人程度動員した。またSHOWROOMで得た収益がこれまでの仕事で得た収入を大きく上回るようになったという。日の目を見ない人たちが輝ける場を提供する」

 -5年後はどういったサービスを提供していますか。
「第5世代通信(5G)の普及で、もっと当たり前に動画が視聴できる世界になる。また、いまはスマホでの視聴が主流だが5-10年後はハード面で大きな変化がある。今後、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)グラスが主流になるだろう。スマホやPCの画面の中ではなく、アイドルやタレントが目の前で歌ってくれる感覚を味わえるようになる。来たるネクストスマートフォンの世界を見据え、VRやXRに関する研究施設を開設し、そこに投資している」
(聞き手:大城蕗子)
          

◇前田裕二(まえだ・ゆうじ)氏 SHOWROOM社長
【略歴】10年(平22)早大政経卒。外資系投資銀行を経て13年ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。同年SHOWROOMを立ち上げる。15年に会社分割によりSHOWROOM設立。東京都出身31歳。
 『メモの魔力』(幻冬舎 03・5411・6222)

日刊工業新聞2019年2月18日掲載記事に加筆

日刊工業新聞 記者

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02月18日
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メモへの狂気的とも思えるほどの熱量を感じる。読後、文具屋に走ってノートとペンを購入したくなる一冊だ。著者のような『濃いメモ』を習慣づけるのはハードルが高く感じるが、あまり難しく考えず自分のペースで進めるのが吉。それこそ「洗面台の汚れ」、「朝起きるのが辛い」、「寝酒してしまう」などからはじめてみるのが良いかも。
(日刊工業新聞社・大城蕗子)             

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