シェアビジネスの新たなモデル示す理系学生のスキルシェア

連載・シェアリングサービス ユーザーレビュー神話はどこへ(5)

 個人間取引を仲介するプラットフォームには、個々の成果物を評価できなくてもビジネスとして成立するものもある。米ユーチューブなどユーザーがコンテンツを作り共有するサービスは、広告などの別の方法でマネタイズしている。個々の評価が難しいスキルシェアは仲介手数料モデルとは別のモデルを提案できるだろうか。専門領域を絞り込むと可能性が見えてくる。(文=小寺貴之)

産学連携支援


 POL(ポル、東京都中央区)は理系学生の採用支援サービスを手がける。旧帝大などを中心に理系大学院生の3割ほどが登録している。企業は人材データベースから学生を探して、個々にスカウトメッセージを送れる。同時に研究室と企業をマッチングする産学連携支援サービスを展開する。企業が特定の技術分野やテーマを調べる際にPOLを通して大学院生に調査を依頼できる。

 化学メーカーが人工知能(AI)分野を調査したり、不動産大手がロボット技術を調べるなど、新分野や不得意分野に進出する足がかりを築く。大学院生にとっては貴重な収入源になる。研究とバイトを掛け持ちしなくてもすむ。加茂倫明社長は「月に十数万円の報酬を受け取る人もいる。企業視点で研究分野を調査するため自身の視野を広げる機会になる」と説明する。

広告で手数料


 これはスキルシェアの一つの形といえる。企業の採用支援で人材データベースを支える収入を確保し、リーズナブルに調査支援を展開する。

 スキルやコンテンツのシェアは人によって評価が分かれるため、レビューが機能しないことは多い。動画共有サイトなど、ユーザー生成型コンテンツのメディアでは個々の創作物を評価するよりも無料で提供する道を選んだ。仲介手数料モデルでなく、広告や会員収入でマネタイズしてサービス基盤を支える。ただユーチューバーなどで生計を立てられる個人は一握りだ。スキルシェアも、それだけで食べていける個人は限られる。プラットフォームから個人への成果配分が機能しないと全体が貧しくなる。

だましだまし


 例えばAI分野では研究論文の査読者が足りず、評価が研究の速度に追い付けなくなりつつある。研究者は国際学会への投稿と同時に論文共有サイトに内容をアップする。数カ月後の審査結果は構わず、投稿時に研究成果を確定させる。査読システムの破綻を認識しながらも、だましだまし続けてきた。

 東北大学の乾健太郎教授は「国際学会では優れた査読者を表彰して業績とする取り組みが広がっている」と説明する。これは多くの研究者の人件費を大学が支えているため成り立つ仕組みだ。学術誌を発行する出版社や読者への負担配分も模索されている。

 今後スキルシェアは仲介手数料とプラットフォームが担う別事業の、複数の収益モデルでコミュニティーを支えていくことになる。レビューが機能不全に陥っても、レビューのコストが高騰しても持続可能でなくなる。新しい発想が求められている。

                     

連載・シェアリングサービス ユーザーレビュー神話はどこへ(全5回)


【01】歪むユーザーレビュー、信頼性どう作る?(2019年7月29日配信)
【02】クラウドソーシングが値崩れ起こす二つの要因(7月30日配信)
【03】不正ユーザーレビューに入った科学者たちのメス(7月31日配信)
【04】単発バイトマッチングアプリが予測する働き方の未来予測(8月1日配信)
【05】理系学生のスキルシェアが示す新たな仲介モデル(8月2日配信)

日刊工業新聞2019年7月26日

小寺 貴之

小寺 貴之
08月02日
この記事のファシリテーター

 コンテンツやスキルを評価できず、品質保証ができないなら、無料で配って別の方法でマネタイズするのは有効な方法だと思います。フリーにして自己責任で押し通してこれました。ただ、スキルシェアやワークシェアは働けば人件費が発生し、限界費用が小さいコンテンツのようにはいきませんでした。人材照会と教育・訓練にもなる調査の組み合わせは、成立するのではないかと思います。ただ技術調査やコンサルタントを本業とする人には価格抑制圧力として働きかねないので嫌われるかもしれません。ローレベルの知的労働が値崩れすると、ハイレベルの知的労働も値崩れするのは、学会運営や論文査読、研究にも通じる部分があります。日本では、大学生や大学院生はタダ働きする知的労働者として扱われてしまうところがあります。その文化が染みついているためか教授など、せっかく偉くなっても手弁当の仕事が、国や学会からたくさん回ってきて文句を言いながらこなしています。スキルシェアの一つの行き着く姿をみているようです。研究者を活用するプラットフォームとしては成功していて、やりがいもある仕事なのですが、その中で働く個々の研究者は本当に幸せなのか難しいところです。

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