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デジタルで甦る芸術「大阪冬の陣図屏風」の美

凸版印刷によるデジタル復元プロジェクト
 凸版印刷は、文化財のデジタル復元を目指すプロジェクトにより、博物館に所蔵される美術作品の摸本から調査を進め、デジタル彩色を施すことにより、色鮮やかな「大阪冬の陣図屏風」(写真)を復元した。

デジタルで復元された「大阪冬の陣図屏風」

 大阪冬の陣図屏風は、慶長19年(1614年)の徳川幕府と豊臣家の間で行われた合戦「大阪冬の陣」を描いたもの。原本の所在や作者、描かれた時代などが不明であるため、東京芸術大学など各専門家の学術的調査と監修に基づき、摸本に書き込まれていた色指示などを手掛かりに、デジタル復元の作業に移った。時代性や絵師を想定しながら解釈を深め、5か月間の学術的調査により想定された色指示をデジタル上で彩色していき、復元作業は一年近くかけて行われた。
 本屏風には、2302人もの人物が描かれ、その一人一人を線で描いていることからも作業の細かさが伺える。本作品の復元プロジェクトチームリーダーである凸版印刷文化事業推進本部の木下 悠氏は、「作品に使われている岩絵具(いわえのぐ)(※)は、岩を砕いた粉の細かさにより色の具合が変化しているため、デジタルで筆感を再現することが非常に難しかった」と振り返った。

※鉱石などを砕いた日本画の絵具。岩を細かく砕いたものを使うとベタ塗り、荒く砕いたものだとザラザラした塗りになる。岩絵具の色味や筆感を調べるため、色の辞書や色見本を作ることから作業は始まった。

2302人もの人物が細かく描かれている

 デジタル彩色における色表現は難しく、例えば、金箔部分の金色は、コンピューターの画面上で見ると黄色に見えるため、形にしたときにイメージの違いが生じてしまう恐れがある。そんな印象のズレを防ぐために、繰り返しテストプリントを行いながら作業が進められた。金箔や金銀泥の塗りは手作業で施され、摸本の再現度もより高まっている。

金箔や金銀泥の塗りは手作業で施されている

 本屏風は、2019年7月27日~9月8日まで、名古屋市東区の徳川美術館・名古屋市蓬左文庫にて開催される特別展「合戦図―もののふたちの勇姿を描く―」にて初公開される。また、7月28日には、同美術館で「大阪冬の陣図屏風、これまでとこれから」と題し、本プロジェクトについてのシンポジウムも開催される。

 徳川美術館長の徳川義崇氏は、「コンピュータ上で色表現し復元作業を行うことは、イメージを立体化する作業ともいえる。これをきっかけに、当時の建物の奥行情報なども分かっていくのではないか。当時の情報源となるものをデジタルで保存することにより、様々な可能性が広がっていく」と話した。また、奈良大学文学部教授の千田嘉博氏は、「デジタルと伝統の融合で甦る芸術の美しさは圧巻。コンピューター上で鮮明に復元を行うことで、歴史を読み解く貴重な資料が完成した。この取り組みは、歴史の研究が進歩する転機になる」と、本プロジェクトに対する熱意を述べた。

   

▽プロジェクトについて
 凸版印刷は、東京国立博物館が所蔵し、摸本と考えられている「大阪冬の陣図屏風」を復元するプロジェクトを2017年11月より推進している。そのほかにも、国内外の貴重な文化財を後世に継承するため、実物のデジタルアーカイブや消失文化財のデジタル再現に取り組んでいる。
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
デジタル復元された「大阪冬の陣図屏風」を実際に目にすると、多くの人々や戦いの勢いが細かく色鮮やかに描かれていて、非常に迫力を感じました。芸術作品を通して、知らない世界の「生」を感じる体験が、いつまでも後世に残り、一人でも多くの人の目に届くといいですね。

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