三越伊勢丹とマクアケが示す「デジタル×リアル」の幸福な関係

伊勢丹新宿店にクラウドファンディング中の商品を展示

三越伊勢丹の北川竜也ディビジョン長(右)とマクアケの坊垣佳奈取締役(左)
 東京・新宿の百貨店「伊勢丹新宿店」。2階婦人服売り場の一角にはクラウドファンディング(CF)サイト「Makuake(マクアケ)」で資金調達中の製品が並ぶ。ストールや木製スピーカーなど多様だ。製品化前の商品を実際に見たり触ったりできるこの場は、マクアケ利用者による製品化支援の判断を後押しする。一方、伊勢丹新宿店にとっては、製品の展示料を成果報酬によって徴収するビジネスモデルが回る。従来の「仕入れて売る」というモデルとは異なる形で空間を生かしている。

 この場は常設として2015年に設置された。マクアケ(東京都渋谷区)の「製品化のための資金調達にとどまらない作り手の支援をしたい」という思いと、三越伊勢丹の「ネットで何でも買える時代に新たな百貨店のあり方を作らなくてはいけない」という危機感が重なり生み出された。両社がこの場で行った約4年間の取り組みやそれによって得た成果は、デジタルとリアルが融合した幸福な関係を示している。

伊勢丹新宿店のMakuake(マクアケ)コーナー:ファッションアイテムやIoT(モノのインターネット)製品など多様な商品を4点展示する。おおむね月に1度商品を入れ替える。CF実施者の希望などを基に並べる商品を選ぶ。

新たなバリューチェーン作るために


 「製品化のための資金調達支援で終わらず、その製品が世に出るサポートまでを行うという次のステップに踏み出したかった」。マクアケの坊垣佳奈共同創業者兼取締役は三越伊勢丹に連携を打診した14年頃をそう振り返る。マクアケはCFが個人の活動資金の調達を支援する仕組みとして広がり始めていた13年に、産業支援に利用するCFサイトとして始動した。

 それから資金調達支援の実績を積み上げ、大手メーカーが販売前製品のマーケティングに使う事例も出てきたことで、「産業支援に使われることでCFの価値が最大化されるという我々の考えが間違いではないと手応えを感じていた」(坊垣取締役)という。

 そこで次のステップを踏む方法を模索する中で、親会社のサイバーエージェントとつながりがあった三越伊勢丹にCF中の製品を店舗に展示する案を含め、多様な連携の可能性について議論を持ちかけた。

マクアケの坊垣佳奈取締役           

 そのころ、三越伊勢丹もCF活用を模索していた。同社デジタル事業部事業企画・管理ディビジョンの北川竜也ディビジョン長は「(個人の価値観の多様化などを背景に)大量生産された商品を仕入れて売るモデルの“一本足打法”では顧客をワクワクさせられない時代と感じていた。バリューチェーンを変える仕組みとして(在庫を持たず顧客が先についてから製品化される)CFに注目していた」と説明する。

 実際に14年にはマクアケとは別のCFを活用して独自Tシャツを作るプロジェクトも行った。そのプロジェクト自体は多くの反響は得られず、持続しなかったものの「(バリューチェーンを変えうる)CFの可能性を疑うことはなかった」(北川ディビジョン長)という。

 その中で、伊勢丹新宿店の中にうまく活用されていないスペースがあり、その場所を生かすという狙いもあって「マクアケでCF中の製品の展示」という方針が固まった。マクアケの利用者から「CF中の製品を実際に見たり触ったりしてから支援を検討したい」という声が多く寄せられていたことも影響した。

 ただ、CF中の製品を展示する上でマクアケには譲れない点があった。展示に初期費用や固定費がかからないようにすることだ。坊垣取締役は「CFは成立した際に成果報酬を受け取る。なぜなら初期の持ち出しや固定費がハードルとなり、製品作りができない人たちを支援する仕組みだからだ。(三越伊勢丹には)そうした考えに沿ってほしかった」と振り返る。

 三越伊勢丹はこの考え方を受け入れた。もともと生かし切れていなかったスペースの利用であることや、通常は百貨店に足を運ばない人がマクアケを通じて来る集客装置になり得ると考えたからだ。最終的には展示した商品のCFが成立した場合に調達額の5%が三越伊勢丹の収益になるスキームとなった。

さらなる連携を互いに働きかける


 開設から約4年が経ち、「伊勢丹新宿店で製品を見て支援を決めた」というマクアケ利用者が実際に出てきているという。作り手の認知度も高まり「マクアケでCFをやるからには展示したい」という声も上がる。さらに他の流通大手などにも注目されたことで、マクアケのリアルな場への進出は広がった。今では連携先が東急ハンズなど10カ所以上に上り、「マクアケで取り扱う製品は新しくて面白い」というブランド作りを加速させている。

 こうした成果を踏まえマクアケの坊垣取締役は「(伊勢丹新宿店の)展示コーナーでは新たに作り手が来て自ら製品をアピールできるといった取り組みができれば」とさらなる連携を三越伊勢丹に働きかける。

 一方、三越伊勢丹にとってもただの集客装置ではなく、しっかりと収益が上がる空間になった。北川ディビジョン長は「仕入れて売る場所ではない空間の生かし方が生まれたことが大きい」と強調する。その上で「そうした仕組みが入らないと(ネットで何でも変えるようになった時代に)百貨店は成り立たない」と続ける。

 だからこそマクアケとの連携により、新しいバリューチェーンを模索する活動を拡大する考えだ。北川ディビジョン長は「我々はデジタル新規事業の一つとして(顧客の声を反映した商品開発を行う)『arm in arm(アームインアーム)』というブランドを立ち上げた。今後は企画での連携も検討していきたい」とマクアケに働きかける。マクアケと三越伊勢丹の幸福な関係はさらに深化しそうだ。

三越伊勢丹の北川竜也ディビジョン長

2019年07月25日

COMMENT

葭本隆太
デジタルメディア局
ニュースイッチ編集長

リアル(実店舗)の価値について、本記事ご登場のお二人とも「人と接すること」を上げていました。マクアケの坊垣取締役はCFを実施する作り手が直接、リアルの場でアピールすることでその思いがデジタル上以上に伝えられること。三越伊勢丹の北川ディビジョン長は、接客によって期待以上のものが買える可能性があることなどなど。取材中にも連携の深化を働きかけ合っていた両社が今後、デジタルとリアルの融合をどう進化させていくか注目です。

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