アバター開発ありきではない、「遠隔存在」で人手不足解消に向き合う

テレイグジスタンス、人を時間や場所の制約から解放する

 「こんにちは」―。自然豊かな小笠原諸島で、つぶらな瞳をした1台のヒト型ロボットが観光ガイドに向かってあいさつしながら手を振っている。現地に生息する亀に触れて驚いた様子を見せる。ロボットを動かしているのは約1000キロメートル離れた東京・竹芝にいる人間だ。

 テレイグジスタンス(東京都港区)がKDDI、JTBなどと共同で実施したロボットを使った旅行体験イベントの一幕。ロボットの目や手が、人間が装着した仮想現実(VR)対応のヘッドマウントディスプレーや、触覚デバイスを搭載したグローブと連動している。実際に現地に訪れているような臨場感を味わえる。

 社名にも冠した「テレイグジスタンス(遠隔存在)」と呼ぶこの技術は、東京大学名誉教授の舘暲が1980年に世界で初めて提唱した。舘が約40年に及ぶ研究成果の社会実装を託した一人が、起業を目指して舘の研究室に通っていた最高経営責任者(CEO)の富岡仁。富岡は人を時間や場所の制約から解放するテレイグジスタンスに多様な社会課題を解決する可能性を見いだし、三菱商事退社後の17年1月に舘らとともに創業した。

 社会実装に向けたニーズを探るため富岡と最高執行責任者(COO)の彦坂雄一郎は手分けし、約1年かけ150社以上の企業訪問を重ねた。彦坂はそこで「深刻な人手不足に悩む企業の実態に直面した」と当時を振り返る。

 例えば椅子の修理を専業にする石川県の中小企業は、生地の張り替えなど職人の高度な技能による完成度の高さが評価され、全国から修理注文が殺到している。だが若手をはじめとする人材獲得に苦戦していた。人材を確保できなければ習得に10年かかるという職人の技能伝承は難しい。彦坂は都市部に労働人口が集中する日本の社会課題を肌で感じた。

 「難しい領域だが、ロボティクスで解決すべき問題だと強く感じた」。富岡と彦坂は人手が必要な製造業や小売りといった労働集約型産業に照準を定めることを決めた。人がロボットを自分の分身として利用すれば場所を問わずに働ける。人工知能(AI)を活用し、ロボットに職人の技能を学習させれば伝承も可能になる。人手不足に苦しむ多くの企業を救う一手になると同時に、市場が広くビジネスとして成立すると確信した。

 20年には実用化の第1弾プロジェクトが始動する予定。将来的にはロボットの完全自動化を視野に入れる。安全性、耐久性など超えるべきハードルは高いが「ロボットが人間の良きパートナーとして共存する世界を実現したい」。彦坂は自社開発したアバターロボットのプロトタイプ「モデルH」を前に未来を想像し、力を込めた。
(敬称略)
(文=下氏香菜子)

日刊工業新聞2019年7月19日

松木 喬

松木 喬
07月21日
この記事のファシリテーター

勝手な思い込みですが、アバター開発はアバターありきな感じがしていました。テレイグジスタンスは人手不足の解決を目指しています。課題と向き合い、必要とされる技術の開発です。SDGsのアジェンダには「民間企業の活動・投資・イノベーションは、生産性及び包摂的な経 済成長と雇用創出を生み出していく上での重要な鍵である」とあり「課題解決のための創造性とイノベーションを発揮する ことを求める」と書かれています。テレイグジスタンスに通じます。

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古川 英光
古川 英光
07月21日
ロボットを動かしている誰かいるから、そのロボットがパートナーとなりうるんだろうなぁ、みたいな気づき。「ロボットが人間の良きパートナーとして共存する世界を実現したい」。
  

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