「アポロ11号」着陸から50年、日本人はいつ月に立つのか
月に魅せられる人類。各国の探査計画、再び活発化
「あいつら月に行きやがった」。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の的川泰宣名誉教授は50年前をこう振り返る。1969年7月21日(日本時間)、米国のアポロ計画で人類が月に着陸し、そして今再び世界中が月探査に向け動き始めた。米国は2024年にも宇宙飛行士を月面に着陸させる「アルテミス計画」を発表。その動きを各国は敏感に察知し国際探査に向けた準備を進める。日本人宇宙飛行士が月に着陸する瞬間を我々は見られるのだろうか。
70年代に米国はアポロ計画で宇宙飛行士を定期的に月に送り、「月の石」と呼ばれる月の試料を採取した。月の石の分析で多くの科学的知見が得られたという。的川JAXA名誉教授は「分析によって、地球に巨大な天体がぶつかり分裂して月になったという説が新たに持ち上がった」と当時の月探査の科学的意義を強調する。
20世紀に入るとロケット技術の急速な進歩で、米国と旧ソ連との間で宇宙開発競争が激化。その一環で米国のアポロ計画は進み、人類は69年7月に月に降り立った。JAXA国際宇宙探査センターの佐々木宏センター長は「アポロ計画は旧ソ連との競争の中で生まれ、月に行って帰って来ることが主なミッション。科学的にも月全体ではなく、局所的にしか探査できていなかった」と話す。
それから半世紀。各国による月面探査が再び活発化している。米国は24年に運用が終了する国際宇宙ステーション(ISS)に続き、月を周回する月近傍有人拠点「ゲートウェー」の整備を進めている。
将来の火星有人探査に向けた中継地点と位置付けられている。当初、米航空宇宙局(NASA)は22年から同拠点の建設を始め、26年頃の完成を目指すとしていた。アルテミス計画ではゲートウェーから月面に宇宙飛行士を着陸させることを想定し、ゲートウェーの完成も24年より前倒しになるのではないかと見られている。
こうした動きに対し、日本は深宇宙補給技術や有人宇宙滞在技術などの基盤技術をアピールする。政府は19年中に正式参加の可否を表明するもようだ。
日本は無人での月探査計画も進める。JAXAは21年度に月面の目標地点に誤差100メートル以内のピンポイント着陸を目指す月着陸実証機「SLIM(スリム)」を打ち上げる予定だ。
さらにJAXAとインド宇宙研究機関は17年、水がある可能性を秘めた月極域での探査に関する協定を締結。日本から23年度にも資源の可能性を検討する月探査機を打ち上げる。欧州宇宙機関(ESA)とカナダ宇宙庁(CSA)と共同で、月面を移動し大量の試料を地球に持ち帰る計画「HERACLES(ヘラクレス)」の探査機の26年度の打ち上げも検討する。
一方、月への着陸を目指す超小型月探査技術実証機「OMOTENASHI(おもてなし)」、東京大学とJAXAの研究グループが地球から見て月の裏側への航行を目指す超小型深宇宙探査機「エクレウス」などの計画も進む。これらの探査機は、NASAの新型大型ロケット「SLS」の初号機に搭載し打ち上げる計画だ。
中国は1月に月探査機「嫦娥(じょうが)4号」を初めて月の裏側に着陸させることに成功した。月探査に向けた国際競争はますます激化していく。
すでに民間は月探査に積極的に取り組んでいる。宇宙ベンチャーのispace(アイスペース、東京都港区)は、21年にも無人の月着陸船を月に着陸させ、探査車(ローバー)で月面を探査する計画だ。
同社と米3機関は共同でNASAの月面輸送サービスのプログラムに採択されている。同社の袴田武史最高経営責任者は「月面の資源探査に必要な輸送システムを構築したい」としている。
トヨタ自動車も月に進出する。トヨタは燃料電池車(FCV)の技術を利用したローバーをJAXAと共同開発する。こうした民間の動きは宇宙ビジネス業界を活性化し、宇宙開発全体を大きく押し上げると期待される。
JAXA国際宇宙探査センターの佐々木宏センター長に月探査への展望を聞いた。
―米国はゲートウェーの早期建設を目指しています。
「ゲートウェーは放射線環境などの関係で1人当たり10―30日しか滞在できず、無人の時もある。水や空気が再生できるレベルをISSと同等にする必要があり、日本が開発をリードし技術力をアピールする必要がある」
―日本人が月に着陸する可能性は。
「ゲートウェーにはISSの『きぼう』のように1個まるごと各国の構造物というものはなく他国との共同で作るため、各国の貢献度の測り方が難しい。日本は水や空気の再生技術、ISSへの物資補給船『こうのとり』の技術などで貢献し、ISSと同レベルでゲートウェーの宇宙飛行士に日本人がなれるよう交渉する必要がある。そこから月に着陸する日本人が選ばれるのはさらに厳しい。1回目の月着陸計画では、ゲートウェーに滞在する宇宙飛行士4人のうち、月に降りられるのは2人。それでもいつかは日本人宇宙飛行士が月に立ってほしい」
―月より遠い宇宙への探査についてどう考えますか。
「時間や放射線の問題はあるが、月に行ければ火星にも行けるだろう。NASAは30年代にも火星への有人飛行が可能だと公表している。JAXAは24年打ち上げ予定の『火星衛星サンプルリターンミッション(MMX)』の探査機で、火星衛星のフォボスに行く計画を立てている。米国では月を周回するゲートウェーのように、火星を周回するフォボスに拠点を作る構想があり、米国もMMXに興味を示している」
(文=冨井哲雄、飯田真美子)
「米ソ開発競争」経て…
70年代に米国はアポロ計画で宇宙飛行士を定期的に月に送り、「月の石」と呼ばれる月の試料を採取した。月の石の分析で多くの科学的知見が得られたという。的川JAXA名誉教授は「分析によって、地球に巨大な天体がぶつかり分裂して月になったという説が新たに持ち上がった」と当時の月探査の科学的意義を強調する。
20世紀に入るとロケット技術の急速な進歩で、米国と旧ソ連との間で宇宙開発競争が激化。その一環で米国のアポロ計画は進み、人類は69年7月に月に降り立った。JAXA国際宇宙探査センターの佐々木宏センター長は「アポロ計画は旧ソ連との競争の中で生まれ、月に行って帰って来ることが主なミッション。科学的にも月全体ではなく、局所的にしか探査できていなかった」と話す。
それから半世紀。各国による月面探査が再び活発化している。米国は24年に運用が終了する国際宇宙ステーション(ISS)に続き、月を周回する月近傍有人拠点「ゲートウェー」の整備を進めている。
将来の火星有人探査に向けた中継地点と位置付けられている。当初、米航空宇宙局(NASA)は22年から同拠点の建設を始め、26年頃の完成を目指すとしていた。アルテミス計画ではゲートウェーから月面に宇宙飛行士を着陸させることを想定し、ゲートウェーの完成も24年より前倒しになるのではないかと見られている。
こうした動きに対し、日本は深宇宙補給技術や有人宇宙滞在技術などの基盤技術をアピールする。政府は19年中に正式参加の可否を表明するもようだ。
日本は無人での月探査計画も進める。JAXAは21年度に月面の目標地点に誤差100メートル以内のピンポイント着陸を目指す月着陸実証機「SLIM(スリム)」を打ち上げる予定だ。
さらにJAXAとインド宇宙研究機関は17年、水がある可能性を秘めた月極域での探査に関する協定を締結。日本から23年度にも資源の可能性を検討する月探査機を打ち上げる。欧州宇宙機関(ESA)とカナダ宇宙庁(CSA)と共同で、月面を移動し大量の試料を地球に持ち帰る計画「HERACLES(ヘラクレス)」の探査機の26年度の打ち上げも検討する。
一方、月への着陸を目指す超小型月探査技術実証機「OMOTENASHI(おもてなし)」、東京大学とJAXAの研究グループが地球から見て月の裏側への航行を目指す超小型深宇宙探査機「エクレウス」などの計画も進む。これらの探査機は、NASAの新型大型ロケット「SLS」の初号機に搭載し打ち上げる計画だ。
中国は1月に月探査機「嫦娥(じょうが)4号」を初めて月の裏側に着陸させることに成功した。月探査に向けた国際競争はますます激化していく。
民間も開発後押し
すでに民間は月探査に積極的に取り組んでいる。宇宙ベンチャーのispace(アイスペース、東京都港区)は、21年にも無人の月着陸船を月に着陸させ、探査車(ローバー)で月面を探査する計画だ。
同社と米3機関は共同でNASAの月面輸送サービスのプログラムに採択されている。同社の袴田武史最高経営責任者は「月面の資源探査に必要な輸送システムを構築したい」としている。
トヨタ自動車も月に進出する。トヨタは燃料電池車(FCV)の技術を利用したローバーをJAXAと共同開発する。こうした民間の動きは宇宙ビジネス業界を活性化し、宇宙開発全体を大きく押し上げると期待される。
【インタビュー】JAXA国際宇宙探査センター・佐々木宏氏
JAXA国際宇宙探査センターの佐々木宏センター長に月探査への展望を聞いた。
―米国はゲートウェーの早期建設を目指しています。
「ゲートウェーは放射線環境などの関係で1人当たり10―30日しか滞在できず、無人の時もある。水や空気が再生できるレベルをISSと同等にする必要があり、日本が開発をリードし技術力をアピールする必要がある」
―日本人が月に着陸する可能性は。
「ゲートウェーにはISSの『きぼう』のように1個まるごと各国の構造物というものはなく他国との共同で作るため、各国の貢献度の測り方が難しい。日本は水や空気の再生技術、ISSへの物資補給船『こうのとり』の技術などで貢献し、ISSと同レベルでゲートウェーの宇宙飛行士に日本人がなれるよう交渉する必要がある。そこから月に着陸する日本人が選ばれるのはさらに厳しい。1回目の月着陸計画では、ゲートウェーに滞在する宇宙飛行士4人のうち、月に降りられるのは2人。それでもいつかは日本人宇宙飛行士が月に立ってほしい」
―月より遠い宇宙への探査についてどう考えますか。
「時間や放射線の問題はあるが、月に行ければ火星にも行けるだろう。NASAは30年代にも火星への有人飛行が可能だと公表している。JAXAは24年打ち上げ予定の『火星衛星サンプルリターンミッション(MMX)』の探査機で、火星衛星のフォボスに行く計画を立てている。米国では月を周回するゲートウェーのように、火星を周回するフォボスに拠点を作る構想があり、米国もMMXに興味を示している」
(文=冨井哲雄、飯田真美子)