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シンギュラリティの時代に勝ち残る人間の条件

ウエスタンデジタルジャパン・小池淳義社長に聞く
**『人工知能が人間を超える シンギュラリティの衝撃』著者インタビュー
 ―なぜシンギュラリティ(技術的特異点)について本を執筆しようと思われたのですか。
 「半導体がどんどん進化し、コンピューターの処理速度も速くなり、2045年にシンギュラリティの世界が来ると言われている。(長年携わってきた)半導体がそれを加速しており、当社のエンジニアに『20年後、30年後についてどう考えているか』を聞いても『そんな暇はない。ライバルの韓国・サムスン電子に勝つために命がけでやっていて1年先もよく見えない』と返される」

 「社員が一生懸命働いてくれて有り難い限りだが、30年後にはたと気がついて『機械からあなたはもう要らないと言われるんだよ』と話した。我々も、週1回だけでも10年先、20年先、30年先をしっかり考えてみる必要がある。それを伝えたくて本を書こうと思った」

 ―シンギュラリティ関連の書籍は多く出版されていますが、それらとの違いは何でしょうか。
 「この類いの本は山のように出版されているのは確かだ。ただシンギュラリティが来る・来ないなど技術的なことはたくさん書いてあるが、今後我々がどうしたらいいのかは書かれていないと感じた。だから、今日から何をすればいいかを書きたかった」

 ―具体的にはどんな行動をとるべきだとお考えですか。
 「現在は人間がロボットに対してやるべき目標を与えているが、ロボットがどんどんスマートになれば、将来は人間が人生のゴールや目標を聞かれる時代がやって来る。その際に適当でいいかげんなことを答えても、賢くなったロボットはそんな話を聞いてくれないだろう。明確な人生のゴールを語れる人間にならないと、シンギュラリティの時代に勝ち残れない。目標を持つためにどうすればいいかのヒントを与えたかった。ビジネス書ではなく、哲学書だと思っている。本当はタイトルも『シンギュラリティ時代をどう生きるか』や『シンギュラリティ時代の新しい生き方』などにしたかったが、出版社がどうしてもこのタイトルにしたがった。これまで本を書く暇はなかったが、東芝メモリとの論争で忙しい時に書き上げた。中国でも出版されており、この前に中国・上海で講演した時に知って驚いた」

 ―日本の半導体産業の栄枯盛衰を見続けてきました。日本は10年後、20年後に世界のライバルと戦って生き残れますか。
 「半導体は日本人に向いている。いろいろな分野で知識を共有して取り組まないといけない産業なので日本人の性格に合致している。日本は半導体メーカーの集約が進み、今後大きな投資ができる会社はウエスタンデジタル・東芝メモリのNAND型フラッシュメモリーと、ソニーのイメージセンサーしかない。日本はまだ十分に勝てる見込みがあるから、当社も巨額投資を三重県四日市市で続けてきて、今後は岩手県北上市でも行っていく。ソニーのイメージセンサー技術も優れており、日本の半導体産業について決して悲観的になる必要はない」(文=編集委員・鈴木岳志)

ウエスタンデジタルジャパン社長・小池淳義氏

◇小池淳義(こいけ・あつよし)氏 ウエスタンデジタルジャパン社長
早稲田大学大学院理工学研究科修了後に日立製作所に入社。2002年にトレセンティテクノロジーズ社長、05年にルネサステクノロジ技師長を経て、06年にサンディスク日本法人社長に就任した。国内外で講演を行っているほか、東京大学などでの講師経験も豊富だ。52年生まれ。千葉県出身。
日刊工業新聞2019年7月22日

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