「アポロ」から50年。宇宙開発は本当に役立っているのか?

宇宙航空研究開発機構(JAXA)名誉教授・的川泰宣氏インタビュー

米宇宙船「アポロ」が打ち上がり月に人類が初めて降り立って50年がたった。月面着陸から今日まで、人工衛星の打ち上げや日本人宇宙飛行士の活躍などで日本も世界に大きく貢献した。宇宙航空研究開発機構(JAXA)名誉教授で6月に日刊工業新聞社から発刊した『3つのアポロ―月面着陸を実現させた人びと―』の著者である、はまぎんこども宇宙科学館の的川泰宣館長に、アポロ月面着陸の思い出や今後の宇宙開発への期待を聞いた。

―50年前の人類初の月面着陸の時、何をしていましたか。

「あれは大学院博士課程の最後の年だった。日本初の人工衛星『おおすみ』の打ち上げの仕事を5年間していた。我々のチームはまだ打ち上げていないのに、米国が宇宙船『アポロ』に人を乗せて打ち上げたのを見た時、悔しさと感動が入り交じった気持ちだったことを覚えている」

―これまでの宇宙イベントの中での月面着陸の位置付けは。

「高校時代に旧ソ連の人工衛星『スプートニク』の打ち上げがあり、新しい時代の始まりを感じた。アポロの月面着陸は宇宙時代の象徴と言える最大の大事件で、最も感動的で宇宙開発のピークだったように思う」

―アポロ帰還後の宇宙開発にどのような変化がありましたか。

「アポロの月面着陸後は宇宙利用が広がった時代と言える。宇宙開発の技術は人の生活の中に生かされていった。気象衛星『ひまわり』で天気予報が当たるようになり、米国の全地球測位システム(GPS)でカーナビゲーションシステムが実現するなど技術が広がっていったと思う」

―月を探査することの意義は。

「アポロ計画では月に行って帰ってくることがミッションだった。今でも政治的、科学的、経済的な意義がある。自然エネルギーを利用することは100年前から考えられており、調査することに意味があると思う」

―米国が月面への有人着陸のための有人拠点「ゲートウェー」の建設を進めています。

「2024年にもゲートウェーから月面に着陸できるよう計画を4年も前倒しにした。アポロ1号の計画では3人の犠牲者が出ており、選挙や政治に宇宙を利用しようとして無理してはいけない」

―日本の月探査の現状をどのように考えていますか。

「日本では月面着陸の方法を戦略的に考えていると思う。小型月着陸実証機『SLIM(スリム)』は、小惑星探査機『はやぶさ2』の技術を応用しシンプルに着陸しようとしている。世界中でこの技術が認められ使われるだろう」

―日本人が月に降り立つ日が来ると思いますか。

「日本人宇宙飛行士が月に行けるかどうかは米国次第。もし日本人宇宙飛行士であれば、かつて国際宇宙ステーション(ISS)でのコマンダーを務めたJAXA宇宙飛行士の若田光一さんに行ってほしい」

―宇宙分野を目指す若者にメッセージをお願いします。

「アポロが打ち上がったことで平和になったわけではない。ISSは参加する15カ国の金持ちの国々で稼働させているだけで、戦争の阻止や貧しい国々の子どもたちのために役立っていない。宇宙開発プロジェクトが地球全体を覆うような存在となり、皆が参加できる大きな企画を若者に考えてほしい」

【略歴】まとがわ・やすのり 70年(昭45)東大院工学研究科航空学専攻博士後期課程修了、同年東大宇宙航空研究所入所。03年JAXA宇宙科学研究所教授、05年JAXA宇宙教育センター長を経て、12年から現職。JAXA名誉教授。広島県出身、77歳。工学博士。

【記者の目/宇宙技術が世界の問題解決】
人類初となる月面着陸から50年の時を経て、科学的知見の獲得やより遠い宇宙に旅立つための基地として月が再び注目されている。アポロの打ち上げを境に宇宙開発の技術が発展し、我々の生活を変える技術が進展した。次に月に人類が降り立った後には、開発された宇宙技術が世界の問題を解決するカギとなるかもしれない。(飯田真美子)

的川氏の著書


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日刊工業新聞2019年7月17日

  

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