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国内外で評価高まる「北海道ワイン」、幾多の困難乗り越えたその魅力
北海道がワインの産地として注目を集めている。2018年には、国が地域ブランドを保護する「地理的表示(GI)」でワインの産地として「北海道」を指定。ワインでの指定は「山梨」に次ぐ2例目となるもので、一定の条件を満たせば商品の産地に「北海道」を表記できる。そんな北海道におけるワイン造りを牽引するのが、その名の通り「北海道ワイン」である。
北海道ワインは、国内で収穫したブドウだけを使用する国内最大の日本ワインメーカー。年間260万本を生産する。ここで知っておきたいのが日本ワインと国内製造ワインの違い。いずれも日本で造られているが、日本ワインは日本で収穫したブドウだけを使う。
一方、輸入したブドウや濃縮果汁を使って日本で造れば国内製造ワインとなる。国内には多くのワインメーカーがあるが、日本ワインに着目すると、北海道ワインの存在の大きさが浮かび上がる。
北海道ワインの設立は1974年。嶌村公宏社長の父、彰禧氏が北海道で栽培したブドウでワイン造りに挑んだのが創業のきっかけだ。彰禧氏は山梨県のブドウ農家の出身だが当時、道産ブドウと言えば食用がほとんどだったという。
湿気が少なく冷涼な北海道の気候に合うワイン用のブドウを栽培するため、ドイツとオーストリアから苗木を輸入した。当初は白ワイン用の「ミュラー・トゥルガウ」と「ケルナー」、赤ワイン用の「ツヴァイゲルト」の3種類で造り始めた。
欧州産のブドウを栽培するにあたり、「最初の5年、10年は試行錯誤だった」と嶌村社長は振り返る。課題の一つが積雪だ。「ワイン生産地で雪が2メートル以上積もる場所は世界にない」(嶌村社長)。
ひと冬越すと雪の重みでブドウの木が折れていた。試行錯誤の結果、現在では冬になる前、ブドウの木を地面から30センチメートルほどの高さに寝かせるように保持する。雪の重みに耐えられるほか、木が雪に埋まると保温効果がある。
北海道のブドウは寒冷地で育つため「酸味が強い」(同)のが特徴だ。白ワインでは酸味がワインの味わいを決めることが多く、北海道は白ワインの産地として知られる。一方、赤ワインは気候の関係でワインの色が薄かったが「ここ数年はいいものができた」(同)と赤ワインの品質も上がっている。
北海道ワインは国産ブドウでのワイン造りにこだわり、質の高いワインを世に送り出してきた。古くは80年に日本で初めて、ドイツ系のブドウ品種「ミュラー・トゥルガウ」を生かしたワインを商品化した。希少価値が高かったため、市場での取引価格は数十万円から数百万円まで跳ね上がったという。
日本ワインを品評する国内最大の「日本ワインコンクール」。北海道ワインはここで北海道のワインメーカーとして、2005年に極甘口部門で初めて金賞を受賞。出品したワインは「2004貴腐葡萄37ケルナー」だった。年によっては金賞、銀賞など各賞の受賞数が大手メーカーを押さえて最も多いこともあった。
近年は海外コンクールへの出品を増やしている。2017年の香港のコンクールでは「田崎ヴィンヤード ツヴァイゲルト&ピノ・ノワールロゼ」が金賞を受賞。19年のロンドンのコンクールでは「余市ハーベスト ツヴァイゲルト スペシャルキュヴェ」などが銀賞を受賞した。世界でも日本ワインが通用することに手応えを感じている。
北海道ワインが意識していることが二つある。一つは国産ブドウのみで、ブドウでワインを造ること(現在、北海道産が8割を占める)。もう一つはブドウ農家を大切にすることだ。ブドウ農家出身である彰禧氏の影響が大きく、そうしたエピソードはいくつもある。
例えば、1990年代後半の赤ワインブームでは、量販店がワインを扱うようになりワイン市場が拡大した。「赤ワインだったら何でも売れた」(同)。ただその反動も大きくブームが下火になると、ブドウが大量に余った。
困った農家からブドウを買い取ってほしいと依頼があると「父の強い思いで全量を買い取ることにした」(同)。通常は年間2000トンのブドウを使ってワインを生産するが、その年はこれを大幅に上回る3600トンものブドウを購入した。経営を揺るがす判断だったが「今ではその農家に助けられている」(同)。
近年はブドウ農家の高齢化や後継者難でブドウの生産量が減り、潤沢にブドウを調達できなくなっている。だが、当時ブドウの販売先に困っていた農家が、優先的に北海道ワインにブドウを供給している。こうした農家は北海道だけではなく九州や四国など全国に散らばる。また別の副産物では、大量購入したブドウを使い、その年の新酒「おたるヌーヴォー」として売り出したところ、これがヒットした。
北海道ワインにとってブドウ農家の減少は死活問題だ。こうした中、経済産業省の支援策を生かし、新しいワイン産業モデルの構築に取り組んでいる。
その一つがワインを造る時に生じるブドウの搾りかすから、健康食品や化粧品といった商材の開発。北海道ワインが商材を開発・販売し、それで得た新たな利益を農家のブドウ買い取り価格に反映する計画だ。これによってブドウ農家の経営の安定化に役立ててもらう狙いがある。
また、北海道庁と連携して「ワインアカデミー」を開催。ブドウ農家の育成や若手醸造家のレベルアップを手がけている。嶌村社長は「欧州ではワインが産業として確立されている」と北海道でのワイン産業の確立に向け力を入れる。さらに北海道のワインをアジアに売り込むことを目指している。
「北海道を世界的なワイン産地に」(同)。その思いが、国内外を飛び回るエネルギーの原動力である。
【企業概要】
▽所在地=北海道小樽市朝里川温泉1-130▽社長=嶌村公宏氏▽設立=1974年1月▽売上高=22億1000万円(2018年8月期)>
国産ブドウにこだわる
北海道ワインは、国内で収穫したブドウだけを使用する国内最大の日本ワインメーカー。年間260万本を生産する。ここで知っておきたいのが日本ワインと国内製造ワインの違い。いずれも日本で造られているが、日本ワインは日本で収穫したブドウだけを使う。
一方、輸入したブドウや濃縮果汁を使って日本で造れば国内製造ワインとなる。国内には多くのワインメーカーがあるが、日本ワインに着目すると、北海道ワインの存在の大きさが浮かび上がる。
北海道ワインの設立は1974年。嶌村公宏社長の父、彰禧氏が北海道で栽培したブドウでワイン造りに挑んだのが創業のきっかけだ。彰禧氏は山梨県のブドウ農家の出身だが当時、道産ブドウと言えば食用がほとんどだったという。
湿気が少なく冷涼な北海道の気候に合うワイン用のブドウを栽培するため、ドイツとオーストリアから苗木を輸入した。当初は白ワイン用の「ミュラー・トゥルガウ」と「ケルナー」、赤ワイン用の「ツヴァイゲルト」の3種類で造り始めた。
寒冷地でどう育てる
欧州産のブドウを栽培するにあたり、「最初の5年、10年は試行錯誤だった」と嶌村社長は振り返る。課題の一つが積雪だ。「ワイン生産地で雪が2メートル以上積もる場所は世界にない」(嶌村社長)。
ひと冬越すと雪の重みでブドウの木が折れていた。試行錯誤の結果、現在では冬になる前、ブドウの木を地面から30センチメートルほどの高さに寝かせるように保持する。雪の重みに耐えられるほか、木が雪に埋まると保温効果がある。
北海道のブドウは寒冷地で育つため「酸味が強い」(同)のが特徴だ。白ワインでは酸味がワインの味わいを決めることが多く、北海道は白ワインの産地として知られる。一方、赤ワインは気候の関係でワインの色が薄かったが「ここ数年はいいものができた」(同)と赤ワインの品質も上がっている。
北海道ワインは国産ブドウでのワイン造りにこだわり、質の高いワインを世に送り出してきた。古くは80年に日本で初めて、ドイツ系のブドウ品種「ミュラー・トゥルガウ」を生かしたワインを商品化した。希少価値が高かったため、市場での取引価格は数十万円から数百万円まで跳ね上がったという。
日本ワインを品評する国内最大の「日本ワインコンクール」。北海道ワインはここで北海道のワインメーカーとして、2005年に極甘口部門で初めて金賞を受賞。出品したワインは「2004貴腐葡萄37ケルナー」だった。年によっては金賞、銀賞など各賞の受賞数が大手メーカーを押さえて最も多いこともあった。
近年は海外コンクールへの出品を増やしている。2017年の香港のコンクールでは「田崎ヴィンヤード ツヴァイゲルト&ピノ・ノワールロゼ」が金賞を受賞。19年のロンドンのコンクールでは「余市ハーベスト ツヴァイゲルト スペシャルキュヴェ」などが銀賞を受賞した。世界でも日本ワインが通用することに手応えを感じている。
ブドウ農家とともに
北海道ワインが意識していることが二つある。一つは国産ブドウのみで、ブドウでワインを造ること(現在、北海道産が8割を占める)。もう一つはブドウ農家を大切にすることだ。ブドウ農家出身である彰禧氏の影響が大きく、そうしたエピソードはいくつもある。
例えば、1990年代後半の赤ワインブームでは、量販店がワインを扱うようになりワイン市場が拡大した。「赤ワインだったら何でも売れた」(同)。ただその反動も大きくブームが下火になると、ブドウが大量に余った。
困った農家からブドウを買い取ってほしいと依頼があると「父の強い思いで全量を買い取ることにした」(同)。通常は年間2000トンのブドウを使ってワインを生産するが、その年はこれを大幅に上回る3600トンものブドウを購入した。経営を揺るがす判断だったが「今ではその農家に助けられている」(同)。
近年はブドウ農家の高齢化や後継者難でブドウの生産量が減り、潤沢にブドウを調達できなくなっている。だが、当時ブドウの販売先に困っていた農家が、優先的に北海道ワインにブドウを供給している。こうした農家は北海道だけではなく九州や四国など全国に散らばる。また別の副産物では、大量購入したブドウを使い、その年の新酒「おたるヌーヴォー」として売り出したところ、これがヒットした。
北海道ワインにとってブドウ農家の減少は死活問題だ。こうした中、経済産業省の支援策を生かし、新しいワイン産業モデルの構築に取り組んでいる。
その一つがワインを造る時に生じるブドウの搾りかすから、健康食品や化粧品といった商材の開発。北海道ワインが商材を開発・販売し、それで得た新たな利益を農家のブドウ買い取り価格に反映する計画だ。これによってブドウ農家の経営の安定化に役立ててもらう狙いがある。
また、北海道庁と連携して「ワインアカデミー」を開催。ブドウ農家の育成や若手醸造家のレベルアップを手がけている。嶌村社長は「欧州ではワインが産業として確立されている」と北海道でのワイン産業の確立に向け力を入れる。さらに北海道のワインをアジアに売り込むことを目指している。
「北海道を世界的なワイン産地に」(同)。その思いが、国内外を飛び回るエネルギーの原動力である。
▽所在地=北海道小樽市朝里川温泉1-130▽社長=嶌村公宏氏▽設立=1974年1月▽売上高=22億1000万円(2018年8月期)>