量子コンピューティング、早大が開発する「共通ソフトウエア基盤」の役割

連載・次世代計算機「量子アニーリング」の進展(3)

 イジングマシンはカナダのDウエーブ・システムズに代表される超電導回路を使う量子アニーリング方式と、富士通や日立製作所のようなデジタル回路方式などがあり、各社のマシンを使いこなすには差分がある。早稲田大学を中心に開発を進める「共通ソフトウエア基盤」は、マシンの違いを抽象化した取り組みで、同じような入力形式で各マシンが使えるような基盤を目指している。

 「共通ソフトウエア基盤は上位概念ともいえ、各マシンを横並びとすることで、各社が方針転換しても、マシンの世代が変わっても対応できる。そこが我々の強みだ」と語るのは、早稲田大学グリーン・コンピューティング・システム研究機構の田中宗准教授。

 情報系出身の戸川望早大大学院教授に対して、田中准教授は物理畑から情報系との融合を図っている。早大では両氏がタッグを組んで、共通ソフトウエア基盤の研究開発を推進している。

 田中准教授は、経産省と情報処理推進機構(IPA)が推進する「未踏ターゲット」のプロジェクトマネージャー(PM)も務め、イジングマシンのアプリケーション(応用ソフト)開発の人材育成にも力を注いでいる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトにとっても人材育成は不可欠だ。

 Dウエーブのマシンは、米航空宇宙局(NASA)や米フォードモーター、独フォルクスワーゲン、独BMWなどが採用し実証実験を進めている。また、Dウエーブは2048ビットの最新機種「2000Q」に無料でアクセスできるクラウドサービス「リープ」を日本を含む33カ国で始めた。日本ではリクルートコミュニケーションズとデンソーが先駆けている。

 田中准教授は量子アニーリングの適用領域について「有望分野はたくさんあり、1歩目を踏み出した企業はその分野での勝者になり得る」と語る。

インタビュー/早大・田中宗准教授 一つひとつ効果を見極める


 ―量子ゲート方式と量子アニーリング方式は、用途の点ですみ分けるのでしょうか。
 「両方式は別の発展を遂げてきた。それぞれ目指す目標が異なり、比較する指標もない。今は量子ゲートと量子アニーリングをひっくるめて未来を語る段階ではない。有効なアプリケーションを探索しながら、一つひとつの効果をみることに意義がある。実用化に向けては、両方式それぞれを見ていくべきだ」

 ―量子コンピューターの開発では量子ビットの数が注目されます。
 「量子コンピューターで言うビットは、既存のコンピューターのビットとは異なる。量子ビットの数は分かりやすいが、それだけではない。量子力学に基づくビットはコヒーレンス時間(量子の重ね合わせ状態を守っていられる時間)が大事。これが長い方がよい。また、利用シーンも重要だ。エッジ端末にぶら下げて使う用途を想定し、それに得意なイジングマシンを作っている会社もある」

 ―人材育成では情報処理や物理など幅広い知識が必須なのでしょうか。
 「境界領域という言葉があるように、一方だけではできず、両方ないと成立しない。量子アニーリングの国際会議『AQC』ではこれまで、理論物理分野の研究者が活躍していたが、これからは情報科学系の発表が増えるだろう。いろいろな人が交わり、手を携えて進めていく必要がある」(聞き手=編集委員・斉藤実)

早大・田中宗准教授


連載・次世代計算機「量子アニーリング」の進展(全5回)


【01】量子コンピューティングは日本が世界をリードできる分野だ(2019年7月2日配信)
【02】量子コンピューティング「イジングマシン」が解決する課題(2019年7月3日配信)
【03】量子コンピューティング、早大が開発する「共通ソフトウェア基盤」の役割(2019年7月4日配信)

日刊工業新聞2019年7月2日

  

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