量子コンピューティングは日本が世界をリードできる分野だ

連載・次世代計算機「量子アニーリング」の進展(1)

 サイバー空間と現実世界が高度に融合する超スマート社会「ソサエティ5・0」。全ての人やモノがつながり、さまざまな知識と情報が共有され、新たな価値が創出される時代が予測されている。そうした流れを加速する革新技術として、膨大なデータを瞬時に処理する次世代の「量子コンピューティング」への期待が高まっている。実用化のトップランナーとして脚光を浴びるのが「量子アニーリングマシン」。この次世代技術にわが国はどう向き合うのかが注目される。

日本は出生地


 「日本は量子コンピューティングの出生地だ」。カナダのDウエーブ・システムズのダン・コアーズ最高財務責任者(CFO)は、5月に経済産業省が都内で主催した次世代コンピューターのシンポジウムの招待講演で、商用機で先陣を切った同社の量子アニーリングマシンと日本との関わりを強調した。

 量子コンピューティングの開発をめぐっては、海外の巨大ITベンダーが競争の火花を散らすが、量子アニーリングの原理は1998年に東京工業大学の西森秀稔教授らが理論を提唱したことはよく知られている。「出生地」とは、そのことを指しており、Dウエーブのマシンには超電導量子ビットや信号増幅などに日本の技術が入っているという。

 量子コンピューティングは、IBMやグーグルなどが開発競争でしのぎを削る汎用型の「量子ゲート方式」と、組み合わせ最適化問題に特化したイジングマシン方式に大別される。イジングマシンは与えられた諸条件の中で、ある目的を達成するのに最適な状態を求める「最適化問題」に特化しており、現時点では実用化に一番近い。そのためイジングマシン方式のDウエーブのマシンを使った実証実験は“旬”のテーマだ。

世界をリード


 シンポジウムには、日本を代表する量子コンピューティングの研究者や実務者らが一堂に会し、それぞれの取り組みを語り、今後を展望した。これを呼び水に、産業界からのさらなる参加を呼びかけるのがイベントの狙いでもある。

 「量子コンピューティングは日本が集積地となり、世界をリードできる分野。世界に先駆け、いろいろな戦略が打てる時だ」。イベントにも登壇した、早稲田大学大学院の戸川望教授はこう語る。

 量子コンピューターの開発競争をめぐってはハードウエアに関心が集まりがちだが、実用化に向けてはアプリケーション(応用ソフト)や基盤を担うソフトウエアも同時進行で整備しなければならない。実用化への道筋はハード、ソフト、アプリの三位一体といってよい。

実証に挑む


 世界初の商用量子コンピューターとして、Dウエーブが「量子アニーリングマシン」を発表したのが11年。128量子ビット機からスタートし、13年に512量子ビット、15年に1152量子ビット、17年に2048量子ビットと、確実に発展してきた。

 ただ、Dウエーブを使ったアプリ開発に先行して取り組む企業はまだ少ない。マシンの中身を踏まえながら、実証実験に挑んでいるのが現状だ。「Dウエーブの最新機種は2048量子ビットといっても、全てのビットがつながった全結合では64ビットしか使えず、計算規模はまだまだ小さい」といった指摘もある。

 戸川教授は「量子アニーリングで何ができ、何ができないか。企業はそこを見極め、宝の山をうまく見つけ出すことが重要」と指摘する。その上でオープン&クローズド戦略の重要性を強調。その中で「オープンを請け負うのが大学だ」と語る。

              


連載・次世代計算機「量子アニーリング」の進展(全5回)


【01】量子コンピューティングは日本が世界をリードできる分野だ(2019年7月2日配信)
【02】量子コンピューティング「イジングマシン」が解決する課題(2019年7月3日配信)
【03】量子コンピューティング、早大が開発する「共通ソフトウェア基盤」の役割(2019年7月4日配信)

日刊工業新聞2019年6月27日

  

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