「選手の緊張」「プロの技」可視化…データがスポーツ中継を熱くする

東京五輪の中継で応用も

 2020年東京五輪のチケット抽選販売の結果発表まであと1週間を切った。当選者は競技場独特の雰囲気を肌で感じながら五輪を観戦する。だが、テレビ観戦となっても落ち込まなくていいかもしれない。選手の緊張度合い、球技のボールの回転数や向きなど従来なかった情報を盛り込んだ新たなスポーツ中継が始まった。20年春に商用化される第5世代通信(5G)を用いた五輪中継への応用も期待できる。(文=編集委員・水嶋真人)

 

ゴルフ…4K映像で選手の緊張度合いを表示


 7月10日に平川カントリークラブ(千葉市緑区)で開かれる「ひかりTV 4K・FUNAIダブルスゴルフ選手権」。NTTぷらら(東京都豊島区)が運営する映像配信サービス「ひかりTV」が独占生中継し、ショットやパットを打つ選手の緊張度合いを可視化する表示を行う。

 可視化のカギを握るのは、男子プロゴルフ大会の生中継で初となる4K映像だ。選手が映った高精細映像から血管の収縮・拡張による肌の色の変化を分析して心拍数を推定する。選手の肌に機器を装着しない「非接触バイタルセンシング」のため、プレーに支障を来さない。ウイニングパットを決める直前のパターを握る選手の心拍数を見て、視聴者も手に汗を握りながら中継を楽しめる。

複数のカメラを用いた「4D REPLAY」撮影(NTTぷらら提供)

 スイングのスピードも表示。複数のカメラで撮影した動画を合成し、リプレーの映像配信時にさまざまな視点からプレーを見ることができる自由視点映像技術「4D REPLAY(リプレー)」も活用する。生中継後は飛行ロボット(ドローン)からの映像、キャディーが装着したウエアラブルカメラからの映像を用いたコンテンツも提供する。

卓球…ボール回転数を表示


 4日に都内のホテルで開かれたNTTぷららの「ひかりTVイベント」。会場内に設置された卓球台で、卓球のプロリーグ「Tリーグ」の松下浩二チェアマンと選手の四元奈生美さんがラリーを繰り広げた。

 ラリーの模様はネクストベース(東京都渋谷区)のデータ解析システムで分析。解析カメラで抽出したボール画像から取得した2次元座標から3次元座標を推定し、ボールの速度、スマッシュ時の1秒当たりの回転数(rps)と回転軸を計算して表示した。ひかりTVチャンネルプラスが配信したTリーグのプレーオフファイナルの映像で表示した取り組みを再現した。

 ネクストベースはプロ野球の読売巨人軍にボールの変化などを数値化するシステムを提供している。ただ、野球のボールの直径約73ミリメートルと比べ、卓球は同40ミリメートルと小さい。1秒当たりの回転数も「(現在メジャーリーガーの)ダルビッシュ有投手のカーブの回転数が60回転なのに対し、卓球は130回転ある」(中尾信一ネクストベース代表取締役)ため、従来は解析が難しかった。

Tリーグの松下チェアマン(右)と四元さんのラリーデータを解析

 同システムは、数万枚の画像からボールのマークや影などを認識して自動で速度や回転数を算出しているが、「すさまじいスピードのラリーが続く中、膨大なデータをリアルタイムで処理できるよう開発を進めている」(中尾代表取締役)という。

 サッカー…VRで日本代表の一員に
 日本サッカー協会(JFA)とキリンホールディングス(HD)、KDDIは9日、サッカーの日本代表対エルサルバドル代表の試合会場となった、ひとめぼれスタジアム宮城(宮城県利府町)で、最大100人が同時に仮想現実(VR)体験ができる「VR同時視聴システム」を用いたイベントを開いた。

 3月22日に開催された日本代表対コロンビア代表の試合に臨む前の日本代表のロッカールームの様子、チームバスの中、ピッチでのウオーミングアップ、スタジアム入場シーンなどを選手の目線でVR体験した。「12番目の選手として試合観戦へのモチベーションを高めてもらうことができた」(KDDI)ことから、テレビ中継の直前にこうしたVRコンテンツを家庭でも視聴できれば、視聴者がより感情移入できる“仕掛け”を生み出せる。

5Gの波―コンテンツ争い過熱/東京五輪など大型イベント相次ぐ


 5Gは現行の4GLTEの約100倍の高速通信が可能な「高速大容量」のほか、「低遅延」「多数端末接続」という特徴を持つ。この特徴を最も生かせるコンテンツの一つがスポーツ観戦だ。ラグビーワールドカップや20年東京五輪・パラリンピックなど国内で大型スポーツイベントが相次ぐこともあり、通信各社は従来不可能だったデータの表示やVR映像で付加価値を出せるスポーツ観戦サービスの実証実験を本格化している。

 ただ、5Gを用いた斬新なスポーツ観戦システムを開発したとしても、試合そのものに魅力がなければ需要も見込めない。そこで通信各社は自社システムで配信できるスポーツとの連携を進めている。

 NTTグループはJリーグと組んでサッカースタジアムの高精細な映像や音声を屋内施設に再現する「デジタルスタジアム」を開いた。KDDIはJFAと連携し、サッカー日本代表の試合でイベントを開催している。ソフトバンクはプロ野球球団の福岡ソフトバンクホークスがあり、国内プロバスケットリーグ「Bリーグ」のトップパートナーでもある。

 10月に携帯電話事業へ参入する楽天は、プロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルス、J1リーグのヴィッセル神戸を持つ。海外でもスペインの名門サッカーチーム「FCバルセロナ」や米プロバスケットボール協会(NBA)とパートナー契約を結んでいる。今後もスポーツ中継のコンテンツを充実させる通信各社の熾烈(しれつ)な戦いが続きそうだ。

               

日刊工業新聞2019年6月14日

  

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