アリババもDC…“宝の山”ビッグデータ集中する「中国・貴州省」の全貌

ビッグデータの産業利用の重要な拠点

 データがデータを呼ぶ。中国の貴州省がビッグデータ(大量データ)の総合実験区として飛躍的な成長を遂げている。中国を代表するIT関連企業がデータセンター(DC)を構築するほか、ビッグデータを売買しマーケティングツールとして活用する動きも加速している。データは「第2の石油」「21世紀の資源」などと言われ、重要性が高まる中、中国政府は企業がデータをフル活用できる場を整備する。データビジネスでいかに世界に先駆けるか。中国の本気度が垣間見える。(文=川口拓洋)

「トンネル型」主流 世界に先駆けビジネス化


 貴州省は中国でも最貧困地域の一つだったが、現在は“宝の山”がいくつもそびえる。

 2015年に中国政府が同省を「全国国家ビッグデータ総合実験区」に指定し、IT産業の中心地として生まれ変わった。華為技術(ファーウェイ)や阿里巴巴(アリババ)集団、騰訊(テンセント)、中国3大通信キャリアの中国電信、中国移動、中国聯通などがDCを構える。百度(バイドゥ)など中国大手だけではなく、米グーグル、インテル、アップルなど世界の有力企業も進出している。ビッグデータ関連やスタートアップ企業は大小合わせて9000社に上る。

 同省は中国西南部に位置し、面積は17万6000平方キロメートル。海抜は平均1080メートルと高地にあり、年間の平均気温は15度Cと涼しい。同省内でビッグデータを活用するための産業特区として新設されたのが「貴安新区」だ。面積は1795平方キロメートルで香川県とほぼ同じ大きさ。同地区の企業はビッグデータを活用して交通管理や遠隔治療、人口流動調査などのビジネス化やサービス提供を進めている。

            

 標高が高く過ごしやすい同地区は、平地に小高い山が点在している。小高い山にトンネルを掘り、そこにサーバーを並べる「エコデータセンター」が、まさに同地区の宝の山だ。

 「微信支付(ウィーチャットペイ)」などインターネット関連サービスを手がけるテンセントは「貴安七星データセンター」を同地区に建設中。同省商務庁の担当者は「建設に2年要したが、ほぼ完成した。爆撃にも耐える堅固な作り」と胸を張る。

 台湾に本社を置く世界最大の電子機器受託生産企業のフォックスコンも山の中に「エコトンネルデータセンター」を構える。同DCはトンネルを縦に3分割した構造。両端にはサーバーを設置し、中心部はサーバーから出た廃熱の通り道となる。トンネル内にサーバーは約6000台が格納されている。同DCの電力効率を示す指標(PUE)は「1・03」を誇る。1に近いほど電力効率が高い。使用する電力の削減にもつながり、同地区では山を利用したトンネル型DCの設置がスタンダードになっている。

 ファーウェイも2年後には同地区にDCを完成させる計画。DCだけではなく湖や周辺施設も整備し、“避暑地リゾート”のような完成予想図を描く。

外資企業も優遇 日本専用集積地を設置


 「製造業や電子産業などハイレベルな企業の工場を作ってほしい」。同省商務庁の莫畏副主任は日本の企業に期待を込めて呼びかける。同省は貴安新区に、日本企業専用の集積地「日本産業園」を設置することを決めた。敷地面積は約113万2000平方メートル。同省が貴安新区で中国企業以外が集積する区域を設置するのは初めてだという。

テンセントのエコデータセンター。右側のように山にトンネルを掘ってサーバーを設置

 日本産業園の立地場所は現在は手入れのされていない広大な空き地だが、周辺の交通網は整備済み。四方は主要な幹線道路が囲むため、莫副主任はアクセスの良さを強調する。敷地は約40%が工業用地、約20%は住居用地、そのほか商業用地や小・中学校の用地も確保する。「2年後には整備できるだろう」(莫副主任)という。

 同省は外資企業向けにさまざまな優遇策を展開している。税金や人材確保、税関審査などで優遇や規制緩和をしているほか、納税額が5000万元(約7億8000万円)を超える企業には20―30%を返却するなどの対応も行っている。

データ資産 企業間で売買


 同省は単なるDCの集積地ではない。ビッグデータの産業利用の重要な拠点となっている。同省の中核都市である貴陽市の「貴陽ビッグデータ交易所」は、中国で初めて設置されたビッグデータ資産を企業間で売買できる機関だ。同省や企業が5000万元を出資し、15年5月に設置、運営を開始した。現在では1日1万件から数十万件のデータの取引があり、18年の取引額は1億6000万―1億8000万元という。

 「売ったデータを誰が買ったかというデータも販売戦略やマーケティングには必要。データの取引は企業の成長のために重要で、中国の新しい資源だ」と同交易所の唐琛社長は強調する。同交易所では天気や工業、金融、サービスなど200分野、4000種類のデータが取引されている。交易所の役割は取引に関するルール作りとデータの値付けだ。値段は安全性や信用性、容量、分野など七つの基準に基づき値付けする。データは匿名性を確保し、個人が特定できないように変換し取引するという。

 例えば、政府が公的に出している情報は1元の100分の1という低価格で提供する。一方、金融分野のデータやテンセント、アリババが提供するデータは高額で売買される。企業は販売できるデータを提示したり、欲しいデータを要望したりすることも可能だ。

 交易所でのデータ取引は会員企業のみがデータを利用できる。入会には審査があるものの参入障壁は低い。ただ、規則に違反した場合は厳罰に処され、会員資格の失効や刑事責任を課せられる。個人によるデータの売買は禁止している。

 中国には現在、北京や上海、杭州、重慶など11都市に同様のビッグデータ交易拠点がある。これを30カ所に拡大して企業のデータの取引を加速させる方針だ。金融や旅行、医療分野に特化した交易所の設置も検討しているという。

「日本産業園」の設置場所。2年後には整備が完了

日刊工業新聞2019年6月5日

  

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