ポスト終身雇用時代、企業も働く人も“茹でガエル”にならないために

揺れる経団連

 経団連が開いた定時総会後の記者会見では、採用方式の多様化の必要性を強調する声が目立った。岡本毅副会長(東京ガス相談役)は新卒一括採用や終身雇用について「これだけでは成り立たないことに、ほとんどの人が異論がない」と述べた。

 小林健副会長(三菱商事会長)も現行の就活ルールの形骸化を「経団連のコンセンサス」とした上で、「これを受け、どう展開していくか。(新卒一括採用と通年採用を組みあわせて)解を求めていくか」と課題を挙げた。また、石塚邦雄副会長(三越伊勢丹ホールディングス特別顧問)は「企業の枠組みと働く人、学びたい人(の考え方)をどう位置付けるかの問題がある」と語った。

日刊工業新聞2019年5月31日



川村隆氏インタビュー


 中西宏明会長が検査入院で不在の経団連。中西氏と二人三脚で日立製作所の経営改革に取り組んできた川村隆東京電力ホールディングス取締役会長(元日立製作所会長・社長)。一時は経団連会長候補になったこともある。2017年10月、METIジャーナルのインタビューで、大企業の問題点やサラリーマンの働き方などについて指摘している。再掲し紹介する。

大企業の中にずっと居るから、欠点がより大きく見える


 ―川村さんは日立製作所の経営再建で、痛みの伴う改革の必要性を説いていましたが。
 「大企業は改革を絶対にやり続けなければいけない。東京電力も含めてです。ただそれって、あくまで既存事業の改革なんですよ。それだけでは社会全体を猛烈に持ち上げるところまではいかない。やはり必要なのは、創業者が活躍している新興企業。米国でいえばグーグルとかね。あるいはもっと若いベンチャーカンパニー。そういうものが日本にもう少し出てこないと大発展はしません。歴史ある大企業というのはいろんな膿があちこちたまっているから、それの掃除をやるだけで企業再生にはつながるけど、それだけじゃ国を大きく伸ばすには足りない。日本人は大企業に就職できたと喜んでしまうがとんでもない。親も子どもを大企業にいれようとする。そんな風潮が実は全体の衰退につながっている」

 ―大企業に厳しいですね。
 「そうです。自分が大企業の中にずっと居るから、欠点がより大きく見えるのです。もちろん大企業の改革は必要です。例えば悪い事業はどんどん潰し、そこで働いてきた人を新しい事業に移していくとかしなければいけない。しかし普通の大企業はそういうことを徹底して行うことがなかなかできないんですよ。みんな大企業に入ったということだけで安心しているから、現状維持ということのみで大満足してしまう。やっぱりベンチャーカンパニーとか、創業者がやっている会社は面白いですよ。ニトリとかユニクロとか日本電産とか。ああいう会社の方がずうっと日本の活性化のためになっているんです。大企業というのは昔の姿を保つだけでぜいぜい言っているのがどうしても多くて・・」

 「だからこそ大企業というのは常に改革していかないといけないんです。あるいは何十年たっても、創業の心を企業の中心に保ち続けるようにして、それがイノベーションにつながるようにしなければならない。改革してやっと横ばいぐらい。改革を少しサボっているとしんどくなる。本当は大企業の経営や組織が硬直化してきたら四つや五つに分解し、それぞれ新しい中小企業になって創業会社のように大発展していくのが良いんです。今でもできると思いますよ。米国だってダウ・デュポンが事業分割を計画したりしている」

 ―大企業から飛び出して起業するケースもありますが。
 「米国ではものすごい数があるんですよね。成功しない例もすごく多いけど、絶対数が多いから成功も多い。人種の多様性や国の若さもあるからか、皆野心的。一方で日本人は現状維持が好きというのもあるのか…。日本の中でぬるま湯がだんだん劣化していき、茹でガエルになるのにも気付かない。本来であれば日本人の能力だったら相当やれるはずなんですよ」

 ―その欠点をどう補うべきでしょう。
 「外国の会社を体験すれば良いんです、みんな。今、50歳未満の人だったら、まだまだやりようがあると思うんですよね。平均寿命がすごく伸びたでしょ。日本は世界一の健康寿命国です。だから今後は、例えば75歳ぐらいまでは働くと思うんですよ。元気な人であれば、80歳ぐらいまで働く。それを考えると今50歳未満の人は、これからも相当に意識改革をして自己鍛錬、自己訓練をしなければいけない」
川村氏

創業者がまだ活躍している会社は事業がどんどん広がる


 ―就職の考え方も変わりますか?
 「若い人も大学を出たら、何らかのプロフェッショナルになるんだという気持で会社に入らなければならない。国際財務のプロになるとか資材調達のプロになるとか。そういう目的を持って会社に入って、もうこの会社の中では得るものがないと思ったら飛び出す。そして大学院でもう一回勉強し直して次の会社に入るとか。同じ会社に一生いるのが当たり前じゃなくなる。プロフェッショナルな自己の実現を図りながら、社会の中を動いていくという風になると思うんです、日本でも」

 「先進国はそうなっている。これまでも遅れて日本もだいたい同じになったから。例えば、米国で起こったことは、いずれ日本でも起こるんです。今まで何度もそうだった。日本でも一つの会社に定年まで居続けて、創業精神の無くなった企業で定型的な仕事を毎日同じようにやり続けるなんてことは、我慢ができなくなるはずです」

 ―どのような会社なら能力を発揮できるのでしょうか?
 「創業者がまだ活躍している会社だったら、事業がどんどん広がっている。だから面白さがあるんです。だからやれる。だけど歴史ある大企業というのは、もし創業の心、イノベーションに立ち向かう心を失ってしまったら、これ以上大きくなっていくことは難しい。企業の方が変われない場合には、個人はどんどん会社を移って、自分の専門性を膨らませていくという方向に、日本も変わっていくんじゃないですか」

 ―日本人だって本来は能力あるはずということですが、なぜその能力を発揮できていないのでしょうか。
 「能力はあるし、健康寿命が長いとか、チームワーク力があるとか、自分を律する精神があるとか、発展するための資産は日本にはあります。だから日本の中に居てそれができにくいのなら若いころに海外に飛び出し、20歳や30歳ぐらいの間に、いろんなところで仕事をして帰ってくれば、良いんですけど」

 「そんな人も昔よりは増えてきたんじゃないですか。特に日本のスポーツ選手は海外にいっても通用しているでしょ。体力で劣ったとしても、チームプレイで秀でている。芸術家だって活躍している。いよいよ企業の番なんですよ。ビジネスパーソンだって外へ出て行って、そこで通用して帰ってきた人が日本の会社を立て直していけばいい。終身雇用も年功序列も実質的にやめて、仕事ができる人に給料をばんばん払って、会社をどんどん強くしていけばいい。新入社員が一斉に何十人も入って、皆そのまま勤め上げるという終身雇用というのは本当に日本だけで、世界的には特異なことなんですから」

 ―一方で若者は内向き志向になっているとも言われています。
 「そうですね。米国の大学の日本人留学生は少なくなった。韓国人、中国人、インド人ばかりになっちゃった。日本の中で暮らせてしまうから悪いんですよね。こぢんまりなら一生暮らせるから、そこで終わってしまう。日本だって留学生が多い頃は、この先日本がちゃんとした国になるかと心配していたんですよね。だから先進国へ行って学んで来ようと考えていた。今、先進国へ行っても持ち帰るものはないと皆思っていてね。決してそんなことはないんですけど。企業が稼ぐ力で付加価値を社会に還元するための組織体だということを学ぶためだけでも、行く価値はあります。エネルギー自給率が6%、食糧自給率が40%という輸入に頼らざるを得ない国なんだから、きちんと稼げる日本株式会社にするためにいろんなところでもっと頑張らなきゃいけない」

ベンチャーに期待、大企業は支援する側に


 ―もっと皆が海外へ飛び出て、イノベーションを起こす人材になるしかないと。
 「日本の中の企業の中でも、そういう創業の精神が残っている企業はあるから、そこで学んでも良いんです。しかし、強烈にその意識付けをしようとすれば、やはり海外に出て体験するのが良い。再び海外留学が必要な時代に戻っていると思います」

 ―大企業からイノベーションを起こすことはできませんか?
 「ものすごくしんどい。100年も経っているからね。グーグルみたいに創業社長がやっている会社とは全然違う。100年企業にもなると、社長が10人ぐらい代わっているわけです。そうすると最低限、現状維持で行けないかとやはり考えてしまいますよ。そういう大会社でもベンチャー的なことをしようと、これまでもあらゆる会社があらゆることを試みてきたけど、みんな途中のコスト成果評価の段階でつぶされてしまった。むしろ大企業は、ベンチャー企業への資金支援とか、M&Aによる支援とかに回る方が効果的だと思う」

 ―若者は大企業に行かない方が良い?
 「まあ、大企業が社会の安定を下支えしていることは否定できないから、それが大切と考える人々が大企業で働くということは否定はできません。その中で、イノベーティブな動きを行うことも大事ですし、若者がその動きの中心になることも大事なことです」

 ―日本の開業率の低さが気になります。
 「でも、最近の大学発のベンチャービジネスの増加とか、それらの脱皮のために資金を提供するベンチャーファンドの増加とかは大変良い方向性です。東京近辺ばかりではなく、地方にもたくさん動きが出ているのも良い傾向です。株式市場に上場して成長していくベンチャー企業の例は、諸外国比ではまだ少ないですが、確実に増えてきているので、今後に期待することに致しましょう」

METIジャーナル2017年10月31日


(内容は当時のもの)

【略歴】
 川村隆(かわむら・たかし)東京大学工学部電気工学科卒業後、1962年(昭37)日立製作所入社。日立工場長、電力事業本部長、副社長などを歴任。日立マクセル会長などを経て2009年、業績が悪化した日立製作所の経営再建に呼び戻され執行役会長兼社長に就任。2010年に社長を、2014年には会長も退任した。2017年6月に東京電力ホールディングス取締役会長に就任。1939年生まれ、北海道出身。



  

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