ニュースイッチ

知ってる?「ガブテック」、効率化に自治体が相次ぎ導入

LINEで行政手続き完結、便利さ実感
 行政手続きをIT化する「ガブテック」が全国の自治体から注目を集めている。ガバメント(政府)とテクノロジーを組み合わせた造語で、住民票の発行手続きといった煩雑な作業を「LINE」などを使ってオンライン上で行える。行政手続きの電子申請化を徹底する「デジタルファースト法案」の閣議決定も追い風となり、今後普及が進みそうだ。ただ、紙を使った申請手続きが慣習の自治体も多く、導入は容易ではない。

1件5分の窓口業務がゼロに


 「1件当たり5分以上かかっていた窓口業務がゼロになる。その便利さを実感してもらうと(自治体側の)意識が変わる」。LINEの江口清貴執行役員は、こう力を込める。同社は21日、行政手続きに同社のメッセンジャーアプリケーション(応用ソフト)「LINE」を活用した自治体の事例を紹介するセミナーを開催。全国から約110人の関係者が押しかけ、会場は満席となった。出席した岐阜県の大垣市の寺嶋太志総務部長は「手続きの簡素化は役所の永遠のテーマ。家にいながら手続きできるのは非常に有用で、市民サービスの向上につながる」と導入に前向きだ。大垣市は2020年1月に新庁舎完成を控えており、オープンに合わせて取り入れたい考え。

 LINEはどこからでも行政手続きを行える「持ち運べる市役所」の実現に向け、自治体に「地方公共団体プラン」を無償提供している。住民が「LINE」に質問を投稿すると、瞬時に自動返答する。住民と1対1でコミュニケーションを取れるほか、対象を絞った住民へのメッセージ送信機能も備えた。住民は市役所に出向く時間や手間を削減でき、役所は窓口業務の効率化につなげられる。すでに千葉県市川市では、住民票のオンライン申請の実証を進めるなど採用自治体が増えている。

市川市は住民票のオンライン申請の実証を進めている

 自治体への導入では「『LINE』に固執せず、ほかのアプリやウェブサービスでも同じ体験ができるよう設計することが非常に重要」(江口執行役員)と捉える。公共サービスだからこそ、事業者側の都合でサービスができなくなった万一への備えが必要だ。

窓口と分散で待ち時間削減


 一方、役所の窓口業務は紙ベースでの申請手続きが慣習で、IT化に踏み出すのは容易ではない。江口執行役員は「これまでの方法を踏襲しながら、今の世代、今のやり方に変えていくことが必要」と説く。従来の窓口での手続きにオンラインも加え、利用者が分散して窓口の待ち時間削減にもなる。また、高齢者にタブレット端末の操作方法を教えた上で、駅前や公民館など交通の便が良い場所にタブレット端末を1台用意すれば、そこが出張所となる。

 新しい仕組みの導入に足踏みするのは、住民の混乱を起こさないためで、自治体なりの住民視点でもある。まずは導入自治体の成功事例を参考に、どういったサービスが適しているかを考えることが「ガブテック」への第一歩となる。
(取材・大城蕗子)



日刊工業新聞2019年5月30日(ICT)

編集部のおすすめ