NECや三菱商事などが入居、SDGsを象徴するビルの正体

福島県会津若松市が開業

 福島県会津若松市は持続可能な開発目標(SDGs)を象徴するビルを開業した。ビルに誘致した情報通信技術(ICT)企業が市民と連携してイノベーションを起こし、地域課題を解決する。SDGsが掲げる技術革新や地方創生への取り組みだ。また、ビルは電気全量を再生可能エネルギーで賄い、建材に多くの木材を利用してSDGsのエネルギーや森林保全にも貢献する。

 

技術革新 「データ解析産業」を集積


 会津若松市のシンボルである鶴ヶ城が正面に見える道路沿いに、市が建設したICTオフィスビル「AiCT(アイクト)」が完成した。4階建てで500人が勤務できる。4月22日の開業時点で日本マイクロソフト、NEC、三菱商事など17社が入居予定。地方都市で国内大手、外資、地元企業が同居する研究・開発拠点は珍しい。

 市は収集したデータから“価値ある情報”を導きだす「データ解析産業」を集積化する。市が実証の場も提供するため、進出企業は実社会で技術を試して完成度を高められる。市は企業の最先端技術を活用して農業、観光、医療・福祉などが抱える地域課題を解決する相乗効果を狙う。

 入居企業で最大となる250人の進出を計画するアクセンチュアの江川昌史社長は「旧態依然としたモデルとは違う」と強調する。かつて地方都市は安価な労働力を武器に工場を誘致してきたが、工場は労働コストの低い新興国へ移転し、地方は疲弊してきた。

 データ解析のような付加価値の高い仕事は本来、東京本社で担うが「優秀な人材の獲得が難しい」(江川社長)と、地方進出を決めた。市にとっても高付加価値産業の創出は人材流出の歯止めとなる。地域課題と結びついたビジネスなら企業の撤退リスクも減る。

 現地で指揮をとる同社イノベーションセンター福島の中村彰二朗センター長は「ICTによる自動運転や予防医療の開発には実証フィールドが必要。地方は課題に直面しており、都会よりも真剣に実証に取り組んでくれる」と期待する。

 他の入居企業にとっても会津若松は技術・サービスの開発の場であり、市場でもある。TISの開発テーマは、低コストなキャッシュレス決済システムだ。既存のキャッシュレス決済の恩恵を受けられない地域の商店でも導入可能にする。SAPジャパンは会津地域の中小製造業がデータ連携できるシステムを構築する。地域版「インダストリー4・0」だ。中小企業のICT化は遅れており、効率化の余地が大きい。

 中小企業庁の前田泰宏次長は「新ビルには大企業、中小企業、ベンチャー企業がフラットに集まり、イノベーションが起きそうだ。いろいろな試みができる。最先端技術の実証を展開してほしい」とエールを送る。

 SDGsは目標9でイノベーションの推進を掲げる。地方創生は目標11(持続可能な都市)、企業、自治体、市民の連携は目標17(パートナーシップ)に当てはまる。会津若松市のICT企業誘致はSDGsを実践する取り組みだ。

環境配慮 再生エネ・木材利用で貢献


 新ビル自体もSDGsを“体現”している。入居企業が使う電気全量は、再生エネで発電した電気を購入して賄う。米アップル、米マイクロソフトなど世界的なICT企業は再生エネ利用を標準としており、新ビルは世界仕様だ。再生エネ活用はSDGsの目標7(エネルギー)や目標13(気候変動対策)に貢献する。

 外壁や内装には木材をふんだんに使った。ビル背面を覆うように垂直に立ち並ぶ木材も印象的だ。建物を支えるほどの強度がある直交集成板(CLT)を多く採用している。新ビルでCLTの耐久性を証明し、木材利用の拡大に寄与。森林の適切な管理につなげて目標15(森林保全)にも貢献する。

 会津若松市は東日本大震災による直接的な被害はなかったが、風評被害に見舞われた。地域経済を支えていた半導体工場の縮小もあり、地方創生をICT産業に託した。“SDGsビル”の開業で地方創生が始動する。

ビルの内装に木材を多く使用している

日刊工業新聞2019年5月10日

松木 喬

松木 喬
05月19日
この記事のファシリテーター

日刊工業新聞の10日付「SDGs面」からです。会津若松市が言った訳ではなく、私が「SDGsビル」と表現しました。SDGs採択前からの構想ですが、地域課題解決につながるプロジェクトは自然とSDGsに該当します。それにしてもビル背面の木材、迫力ありました。

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