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米中対立さらに激しく。主要日本企業、中国ビジネスへの「本音」

 対立が一段と激しくなってきた米中の貿易戦争。制裁と報復は両国をむしばむだけではない。日本にとって巨大市場の中国の景気停滞は手痛い。貿易摩擦が長引けば、中国に拠点を持つ日本企業は他国への生産シフトといった対策を講じる必要も出てくる。

 トヨタ自動車は米国の対中関税の引き上げや中国経済への影響を見極めている状況だ。トヨタの中国市場のシェアは5%程度で、豊田章男社長は「中国では他社に比べ改善の余地がある」との認識を示す。その分、伸びしろは大きそうで、小林耕士副社長は「我々は周回遅れ。一挙に増やすのは難しいが、コツコツやっていきたい」と意欲を示す。

 実際、トヨタは2018年12月期に中国で営業利益と持ち分法投資損益を合わせ前期比17%増の2555億円を稼ぎ、18年の販売台数も前年比14%増の148万7000台で着地した。米中貿易摩擦を引き金とする中国市場の冷え込みは、好調な中国事業の潜在的なリスクとして横たわる。

 「直接的な影響はないが、間接的には分からない」。ファナックの山口賢治社長は、設備投資を様子見する動きが中国に限らず広がるなか、米国の関税引き上げが企業の投資意欲に与える影響が懸念されるとの見方を示す。同社の1―3月期の受注高は18年10―12月期と比べ2・5%増となり、5四半期ぶりに増加。地域別では中国が同18%増だった。

 山口社長は4月の決算説明会では中国の受注状況について「底は脱したのかなという印象はある。ただ楽観視はしていない」と指摘していた。

 一方、シャープは米中貿易摩擦の影響でデバイスやディスプレー事業を中心に売上高が減少。これらが要因となり、20年3月期を最終年度とする中期経営計画の目標達成を断念することになった。

 シャープは中国に生産拠点を置く企業にデバイスやディスプレーなどを供給している。野村勝明副社長は「顧客との関係の面で大きな影響を受けている」という。

 米国の関税の引き上げに対し、中国も報復措置で対抗する可能性が高い。米国と中国が制裁と報復を繰り返せば貿易摩擦は過熱するばかりだ。火種がくすぶるなか、日本企業は状況を注視しながら事業活動を続けていくしかない。

 昭和電工の竹内元浩取締役執行役員は「中国経済がスローダウンすれば、アルミ電解コンデンサーなどで影響があると見ている」と話す。

 化成の柴田豊副社長も「世界の荷動きや経済悪化の影響を注視する」と語る。今回の関税引き上げの直接の影響はないが、18年度下期以降から一部製品の販売で間接的な影響が出ており、それを踏まえて19年度業績予想を立てた。

 丸紅の柿木真澄社長は米中貿易摩擦が激化した場合、「農業部門の荷動きが鈍ったり、単価が下落したりする可能性がある」と懸念する。それでも「他の事業で吸収できるだろう」と、影響は限定的であるとの見方を示す。兼松の谷川薫社長も「各部門において米中摩擦の影響は加味して検討しているが、収益に対するインパクトはそれほどないと考えている」と話す。

 超硬工具などを手がけるダイジェット工業の生悦住(いけずみ)歩社長は「米中間の対立だが、国内市場が過剰に反応し、冷え込むことが心配」と懸念する。対策として社内では「仮に売上高が30%落ちても赤字にならない体質づくりに力を入れようと言っている」と、生産性改革を急ぐ構えだ。

影響大きい電子部品


 米中貿易摩擦は当面解消されそうにない。電子デバイス技術商社の菱電商事の正垣信雄社長は「今後、中国経済の減速を警戒しつつも、中国国内のビジネスで拡大を図りたい」とし、間接的な影響に懸念を示した。

 電子部品業界は米中貿易摩擦に伴う中国経済減速の影響を大きく受けている。日本電産は19年3月期に中国経済減速やそれに伴う各事業の構造改革費用が響き、13年3月期以来6期ぶりに当期減益となった。

 TDKも19年3月期は当期純利益で過去最高を更新したものの、「自動車、情報通信技術(ICT)、産業機器といった主要な市場セグメントにおいて受注が急速に悪化した」(石黒成直社長)という。

 日本電産の吉本浩之社長は中国の市場回復状況について「底を打ったと結論づけるにはまだ早い。4―6月期から急激に戻っているかというとそうでもない」と慎重だ。

 20年3月期の大手各社の業績への影響は不透明だが、成長の足かせになりかねない状態が続く。京セラの谷本秀夫社長は「製造場所を少し変えなくてはいけない製品があるかもしれない」と引き続き注視する姿勢を見せる。

早期の対策必要


 先行きは不透明だが、対策は早いに越したことはない。住友電気工業は米国が中国製品に課す関税のために、20年3月期に営業利益が25億円減少する影響を見込んでいる。

 自動車部品を中心に影響が出ており、生産を中国から東南アジアやメキシコなどに一部移している。前期は約半年間で営業利益30億円の押し下げ影響があったが、今期はこれらの対策によって影響を抑える。

 ただ、大がかりな生産設備が必要な製品などは容易に生産移管できない。車載用の配電ボックスや防振ゴム台座に使う部品など、中国生産を続けざるを得ないものもある。

 井上治社長は「生産を米国に移せば対応できるが、自動車メーカーの承認を得たりする手続きも必要になる。そうした事態を避けるためにも、米国と中国には早く仲直りしてほしい」と米中の前向きな交渉進展を望んでいる。

 西川ゴム工業の福岡美朝社長は「中国子会社で現地の安い生産設備を調達して、米国のほか中国以外の工場に送って使っている。長い時間をかけてコストを抑えつつ、日本製の設備に準ずる性能に高めてきた。関税が上がれば、そのコストメリットがなくなり困る」という。

 今後の対策としては「現地の調達先とも協力してさらにコストを下げる努力をするしかない。そう簡単に他の国で作れるわけでもないので。自動車業界としてさらに懸念されるのは中国の景気が一層減速して、車が売れなくなることだ」と危惧する。

 日本製鉄の宮本勝弘副社長は、中国製品に対する米国の追加関税発動で「中国経済がおかしくなると、世界経済や鉄鋼需要に影響が広がりかねない」とし、今後の状況を「注視していきたい」と警戒感を示す。

 神戸製鋼所の勝川四志彦取締役専務執行役員は、中国から北米向けに出荷している建設機械について「(米国の関税措置の影響が比較的小さい)日本などからの出荷に切り替えるといった対策を考えたい」と述べた。

 
日刊工業新聞2019年5月13日の記事を一部加筆・修正

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