強者連合で“黒子”になるパナソニック、狙いは何だ?
車載電池は「再挑戦」事業、投資回収早める
トヨタ自動車など強者との連合に活路を求め始めたパナソニック。デジタル家電の不振に苦しんだパナソニックは車載や住宅の事業などに経営資源を振り向けた。ただ、事業拡大の歪みで想定外の費用がかかり、利益が出ない苦境が続く。そこで2021年度までの新3カ年中期経営計画では、投資対利益の観点も含め、協業を通じ経営負担を抑える。投資回収スピードを速め、将来への投資余力を高める考えだ。
トヨタとの協業では車載用電池に加え、住宅関連事業を統合することでも合意した。強者連合に活路を見いだすパナソニック。車載電池はその代表格だ。トヨタ、ホンダ、米テスラといった自動車メーカー各社の電気自動車(EV)などにリチウムイオン電池を供給し、世界シェア首位を競う地位にある。20年以降はテスラ以外の日欧米メーカーもこぞってEVを投入する計画で、旺盛な需要が見込まれる。
新中計では、そのような車載電池を従来の成長事業という区分ではなく、「再挑戦事業」とした。18年度までの4年間の戦略投資枠1兆円の半分以上をこれらの事業につぎ込んだにもかかわらず、利益面の貢献がないためだ。
車載電池は、ほぼ同時に日米中の3カ国で設備投資したことによる先行投資負担に加え、18年夏にはテスラと共同運営する米国工場で生産拡大に苦戦して追加費用が発生し、18年度の業績下方修正の一因となった。
その中で、強者連合はリスク軽減の狙いもある。20年度をめどにトヨタが過半出資する合弁会社に角形と呼ばれる車載電池の生産や開発の機能を移す。パナソニックは事業の主導権をトヨタに渡すことになるが、投資負担が減る上、トヨタグループが順次発売するEV向けに着実に販売増加が見込める。
「自社リソースだけでやると、継続的な成長に限界がある」と津賀社長は前中計の課題を認める。
同社は13年度から14年度にかけてヘルスケア事業や物流関連事業など、本業とは関連が薄いと判断した事業は外部資本を導入するなどして自前主義の脱却を進めた。車載、住宅事業での立て続けのトヨタとの連携は、中核事業も例外ではないことを示すものであり、10年後の経営の柱となる事業を育てるための投資余力を確保するのに必要と判断した。
パナソニックはプラズマテレビをはじめ、デジタル家電で市場環境の変化を読み違え、大規模投資をしては巨額の減損損失を計上する負のサイクルにはまった。津賀社長は就任当時の12年、こうした事態への危機感を「普通の会社ではない」と表現した。
同社は経営危機直後の13―15年度の中計ではキャッシュフローの捻出に専念し、16―18年度までの前中計では、車載分野などを自社の強みが生きる分野を成長事業と定め、集中投資した。こうした戦略がはまり、車載事業は前中計で年間2000億円規模で売り上げを伸ばすなど、経営の柱に成長した。一方、有利子負債は16年3月末から18年3月末までに約5000億円増え、1兆2394億円となった。
また、「実力以上に急拡大した」(津賀社長)歪みで、生産や開発でのトラブルが目立つ。車載電池に加え、オーディオ一体型カーナビゲーションシステムなど車載機器でも17年度以降、海外工場の品質問題や欧州拠点で開発遅延問題があり、それぞれ100億円規模の損失を出した。
利益率を指標に事業の選択と集中を進める日立製作所などに対して、パナソニックの事業ポートフォリオ改革も道半ばだ。こうした中、津賀社長以下、経営幹部がトヨタのような「強い企業と組め」と社内で発破をかけているのもそのためだ。販路や生産、販売など協業先のリソースも借りることで、経営資源の分散の弊害を抑え込めるとみている。
実際、同社は9日に中国の太陽電池メーカー、GSソーラーにマレーシア工場を売却すると発表した。時期は未定だが、GSソーラーが90%、パナソニックが10%出資する新会社を設立し、パナソニックが持つ太陽電池の開発機能を移管する。同事業は赤字が続いており、事業ポートフォリオ整理の対象となっていた。津賀社長は「私が社長になってから事業撤退を繰り返してきたが、社員につらい思いをさせてきた。協業で競争力が高まれば、せっかくの技術力を失われずに済む」と話した。
成果も出始めた。産業機器大手の独シーメンスと提携した実装機だ。シーメンス系列に取り込まれることになったが、ドイツ製品を積極導入している中国市場で大きく伸びた。実装機の営業利益率は約15%に達している。
ネットワークカメラなど業務用機器では、ローソンに続いて4月にファミリーマートとも提携した。新中計では事業の見直しを含めて1000億円の固定費削減を目指す。実現のカギは強い企業の黒子となり、しっかりと利益を出すこと。パナソニックの新たな成長モデルとなりそうだ。
(文=大阪支社・平岡乾、名古屋支社・長塚崇寛)
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数少ない白熱電球メーカー、100余年の生産に幕
トヨタとの協業では車載用電池に加え、住宅関連事業を統合することでも合意した。強者連合に活路を見いだすパナソニック。車載電池はその代表格だ。トヨタ、ホンダ、米テスラといった自動車メーカー各社の電気自動車(EV)などにリチウムイオン電池を供給し、世界シェア首位を競う地位にある。20年以降はテスラ以外の日欧米メーカーもこぞってEVを投入する計画で、旺盛な需要が見込まれる。
新中計では、そのような車載電池を従来の成長事業という区分ではなく、「再挑戦事業」とした。18年度までの4年間の戦略投資枠1兆円の半分以上をこれらの事業につぎ込んだにもかかわらず、利益面の貢献がないためだ。
車載電池は、ほぼ同時に日米中の3カ国で設備投資したことによる先行投資負担に加え、18年夏にはテスラと共同運営する米国工場で生産拡大に苦戦して追加費用が発生し、18年度の業績下方修正の一因となった。
その中で、強者連合はリスク軽減の狙いもある。20年度をめどにトヨタが過半出資する合弁会社に角形と呼ばれる車載電池の生産や開発の機能を移す。パナソニックは事業の主導権をトヨタに渡すことになるが、投資負担が減る上、トヨタグループが順次発売するEV向けに着実に販売増加が見込める。
「自社リソースだけでやると、継続的な成長に限界がある」と津賀社長は前中計の課題を認める。
同社は13年度から14年度にかけてヘルスケア事業や物流関連事業など、本業とは関連が薄いと判断した事業は外部資本を導入するなどして自前主義の脱却を進めた。車載、住宅事業での立て続けのトヨタとの連携は、中核事業も例外ではないことを示すものであり、10年後の経営の柱となる事業を育てるための投資余力を確保するのに必要と判断した。
パナソニックはプラズマテレビをはじめ、デジタル家電で市場環境の変化を読み違え、大規模投資をしては巨額の減損損失を計上する負のサイクルにはまった。津賀社長は就任当時の12年、こうした事態への危機感を「普通の会社ではない」と表現した。
実力以上に急拡大、生産や開発で目立つトラブル
同社は経営危機直後の13―15年度の中計ではキャッシュフローの捻出に専念し、16―18年度までの前中計では、車載分野などを自社の強みが生きる分野を成長事業と定め、集中投資した。こうした戦略がはまり、車載事業は前中計で年間2000億円規模で売り上げを伸ばすなど、経営の柱に成長した。一方、有利子負債は16年3月末から18年3月末までに約5000億円増え、1兆2394億円となった。
また、「実力以上に急拡大した」(津賀社長)歪みで、生産や開発でのトラブルが目立つ。車載電池に加え、オーディオ一体型カーナビゲーションシステムなど車載機器でも17年度以降、海外工場の品質問題や欧州拠点で開発遅延問題があり、それぞれ100億円規模の損失を出した。
利益率を指標に事業の選択と集中を進める日立製作所などに対して、パナソニックの事業ポートフォリオ改革も道半ばだ。こうした中、津賀社長以下、経営幹部がトヨタのような「強い企業と組め」と社内で発破をかけているのもそのためだ。販路や生産、販売など協業先のリソースも借りることで、経営資源の分散の弊害を抑え込めるとみている。
実際、同社は9日に中国の太陽電池メーカー、GSソーラーにマレーシア工場を売却すると発表した。時期は未定だが、GSソーラーが90%、パナソニックが10%出資する新会社を設立し、パナソニックが持つ太陽電池の開発機能を移管する。同事業は赤字が続いており、事業ポートフォリオ整理の対象となっていた。津賀社長は「私が社長になってから事業撤退を繰り返してきたが、社員につらい思いをさせてきた。協業で競争力が高まれば、せっかくの技術力を失われずに済む」と話した。
成果も出始めた。産業機器大手の独シーメンスと提携した実装機だ。シーメンス系列に取り込まれることになったが、ドイツ製品を積極導入している中国市場で大きく伸びた。実装機の営業利益率は約15%に達している。
ネットワークカメラなど業務用機器では、ローソンに続いて4月にファミリーマートとも提携した。新中計では事業の見直しを含めて1000億円の固定費削減を目指す。実現のカギは強い企業の黒子となり、しっかりと利益を出すこと。パナソニックの新たな成長モデルとなりそうだ。
(文=大阪支社・平岡乾、名古屋支社・長塚崇寛)
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日刊工業新聞2019年5月10日の記事を一部修正