東京外大の新学長「矛盾や対立がある中での共生を支える役割がある」

林佳世子学長インタビュー

 国際化が全大学の重要テーマになりつつある中、多言語多文化の共生社会を掲げてひと味違うのが東京外国語大学だ。世界の言語・文化・社会に強く、在日外国人増に直面する自治体や政府にも頼りにされる。企業相手と異なり有償化しにくい悩みも含め、人文社会科学系の特色ある国立大学としての意識を、4月に就任した林佳世子学長に聞いた。

 ―東京外大は“多文化共生に貢献する大学”だと明確ですね。
 「世界は今、グローバル化で一様になる傾向にある。しかし本学は世界の多様性を基礎にしており、矛盾や対立がある中での共生を支える役割がある。学生も専門言語の選択理由を問われたら、多文化共生のためだと答えるくらいに浸透させ、社会の理解を高めたい」

 ―80近い言語が学べる伝統校。学生の留学は、期間などどういった形が多いのでしょうか。
 「1年間など長期留学を経験する学生は全体の6割だ。新たに言語を学び始める1年生の短期留学は5割超、これは7―8割に引き上げたい」

 「キャッチフレーズは“1人2回の留学”。インターンシップ(就業体験)やボランティア目的のものもある。多様な選択肢から学生自らが選び、プロセスを踏む点を大事にしたい」
 
 ―エネルギーや食料など途上国の問題に、文理チームで取り組む博士人材育成がユニークです。
 「東京農工大学、電気通信大学と連携し、共同サステイナビリティ研究専攻を4月にスタートした。文系人材もビッグデータをはじめ理系のテーマに触れることが重要な時代だ。途上国の社会人が国際機関の奨学金で入学するケースも増えるだろう」

 ―各国の新聞記事の翻訳は、教育と社会貢献を兼ねた看板プロジェクトだとか。
 「中東や東・南アジアなどの新聞社の許可を得て、その言語を学ぶ学生が訳してウェブ発信している。私自身もトルコ語の新聞で関わったが、読者のニーズや間違い指摘も受ける。机上の学びと異なり学生の学習意欲は大きく高まる。校閲など費用がかかるために有償化の声もあるが、社会貢献として続けたい」

林佳世子学長

【略歴】はやし・かよこ 84年(昭59)お茶の水女子大院人文科学研究科修士修了、同年イスタンブール大学留学。88年東大院人文科学研究科博士課程退学、同年東大東洋文化研究所助手。93年東京外大講師、05年教授。13年副学長、15年理事、19年学長。山口県出身、60歳。



【記者の目/多様な価値伝える広告塔】
 国立大学改革で多分野の教育・研究の成果指標が議論される中、東京外大2人目の女性トップに就いた。「各国の大使来訪は、アフリカ専攻を持ち、学園祭でヒンディー語の語劇をする本学だからこそ」という。大学の多様な価値を伝える力がある同大だけに、学長にはある種の広告塔になってほしい。(文=編集委員・山本佳世子)

キーワード/留学の期間


Q 同じ留学でも2週間の「短期留学」から、数年など「長期留学」と幅がある。

A 近年、耳にする“全員留学”は費用や時間も抑えた短期が中心だ。一方で低学年で「短期留学」、高学年で「長期留学」と手厚いプログラムもある。東京外大は4学期制における1学期以上の期間を長期とする。

Q 大学の組織的な関わりが強い「交換留学」は。

A 大学間交流協定に基づく協定校との間で、学生を交換する長期留学だ。日本と外国大学の学生の希望に応じて相互派遣される。東京外大の対象は約70カ国・地域の165の教育機関だ。先方大学での学びで取得した単位を、所属大学の単位に認定し、休学せずに卒業できる。学費も所属大学への納入分で済む。

Q ほかには。

A 長期なら休学して協定校以外で、単位を取る「休学留学」や単位なしの「自由留学」がある。短期は夏・冬学期の数週間で、協定校が設計する「ショートビジット」プログラムに参加して2単位、といった形が多い。長・短期のインターンシップ(就業体験)も増えているよ。

日刊工業新聞2019年5月8日

山本 佳世子

山本 佳世子
05月11日
この記事のファシリテーター

国際化とグローバル化の違いを、実は私も明確に理解していなかった。国際化(internationalzation)は国家(nation)を基盤に各国が活発に交流することだ。東京外大が目指すのはこちらだし、国連のSDGsや多様化重視もこちらになる。一方でグローバル化(globalization)は地球(globe)が一つとなる、つまり国の違いをなくして一つのスタンダードのもとで活動することだ。米国の社会や文化、言語なら英語に統一されてしまう動きはこちらとなる。時に「長いものに巻かれる」グローバル化を意識することがあっても、目指すべき本質は国際化なのだと、自らに言い聞かせた。

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