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お茶の水女子大・新学長はこんな人!人を育てることがライフワークの医学博士

「新たな方向性を示すには、組織の幹部に複数の女性の存在が必要」(室伏きみ子)
 お茶の水女子大学に勤務する女性の比率は、教授で33%、教員全体で48%、理事・副学長で50%と、他の大学に比べて高い。こうした状況に関して、「女子大だから女性が多いのは当たり前と思われるのは心外。優れた人材を雇用、育成してきた結果だ」と強調する。

 女性のイメージが強い同大でも、15年前まで学長に女性はいなかった。同大が女性リーダー育成に焦点を当てたのはそのころで、「組織の幹部に女性が1人いるだけでは、新たな方向性を示すことは難しい。複数の女性の存在が必要だ」と指摘。女性の幹部登用の必要性を訴える。

 小規模ながら文理両方の学部がそろい、1カ所に保育所から大学院まである利点を生かし、「心や体の健康を保つことを柱に、研究と教育の両方に取り組んでいきたい」と力を込める。個人としても、「サイエンスカフェ」や震災遺児の支援に取り組んでいる。まさに“人を育てること”をライフワークとしている。
 
 <プロフィル>
 室伏きみ子(むろふし・きみこ)1976年東大院医学系研究科博士修了。同年鶴見大学歯学部助手。83年お茶の水女子大理学部助手。96年教授。04年理事・副学長。13年寄付研究部門教授。埼玉県出身、68歳。4月1日就任。
(日刊工業新聞2015年05月28日 科学技術・大学面)

 【関連記事=2014年09月08日付掲載『主張』】

 2000年代初めからフランスやカナダとの間で女性研究者の国際交流支援を始め、毎年少人数ながらグローバル人材育成を進めてきた。女性が機会に恵まれず上級職に就く例が少ない現状では、女性支援は逆差別とはいえない。大型プロジェクトに参加しても埋もれることなく、社会の問題解決で独自視点を発揮する女性研究者が多数、育つことを期待している。

 【各国の状況を理解】
 03年に日本学術会議会員になり、当時の黒川清会長の下でスタートしたのが「日本・カナダ女性研究者交流事業」だ。研究交流だけでなく、現地の小・中・高校でのレクチャーを組み込んだことで、派遣者が帰国後に科学技術コミュニケーション活動のリーダーとなるなどの効果も出ている。

 来日した女性研究者は国立女性教育会館にお連れして、各国の女性支援の体制について議論したり、連携策を探ったりしている。日本は男女共同参画の取り組みが遅れているため、来日研究者から教わることは多い。

 例えば日本の研究者夫婦では夫のポスト確保が優先で、妻は適切な職が見つからなかったり別居になったりすることも多い。しかしカナダでは1・5人分の給与で2人を同じ研究機関が雇用する仕組みがあるという。研究キャリアの中断もなく夫婦一緒に動ける安心感と、研究機関が優秀な人材を確保できることで双方にメリットがある。

 この仕組みを「日本でもできるのではないか」と、経済産業省独立行政法人評価委員会や産業技術総合研究所部会で紹介したこともある。各国の状況を理解し、参考になる面を積極的に採り入れるべきだ。

 フランスとは、計62大学が参加した日仏共同博士課程コンソーシアムや、お茶の水女子大学とストラスブール大学との交流協定、湯浅年子記念特別研究員留学支援基金などで深く関わってきた。派遣者は皆、日本とは異なる多様な価値観があることを実感し、元気になって帰国する。

 【日仏の共同学位取得】
 さらに、複数の博士学生が日仏2大学からの共同学位を取得し、教員が国際共同研究をスタートさせるなど次の活躍につながっている。これらの活動で私は13年にフランス教育功労勲章授与の栄誉をいただいた。

 社外取締役を務めるブリヂストンでは、男性社員が気づかなかった自転車の子ども用補助椅子(いす)の不具合を、女性社員が的確に指摘した事例を聞いた。多様性の向上はあらゆる場で重要だ。

 特別の支援なしに道を切り開いてきた上の世代の女性たちの努力は尊敬に値するが、努力で誰もが報われたわけではない。皆が力を発揮できる環境整備が大切だ。当初は女性枠での支援でも、その後の活躍で周囲も納得の能力が表に現れてくれば、「逆差別だ」との声も収まるに違いない。
日刊工業新聞2014年09月08日パーソン面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
日刊工業新聞&「ニュースイッチ」ではリケジョ企画を連載中だが、理系と文系の交差点に立つ、まさり文理両道の世界に通じる人材を育てて欲しい。

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