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工作機械の「平成史」、30年間で戦う土俵変わる

工作機械の「平成史」、30年間で戦う土俵変わる

89年(平元)の「第32回十大新製品賞」の贈賞式

 平成最後の年を迎えた。日本の工作機械産業は、バブル崩壊後の失われた10年、2008年のリーマン・ショック、11年の東日本大震災をはじめとした天災などの試練に直面してもなお、最先端の製品を世に送り出し、世界最高峰の産業の座を守り、かつ発展させてきた。日刊工業新聞社が制定する「十大新製品賞」の受賞製品から平成を振り返り、新しい時代を展望したい。

 89年(平元)の「第32回十大新製品賞」を受賞したのは、豊田工機(現ジェイテクト)だった。これが平成初の工作機械の受賞となった。

 受賞製品は、コンピューター数値制御(CNC)クランクピン研削盤「GV70/GV100」。「クランクピン研削盤として、世界初の本格的CNC機」(89年5月11日付『日刊工業新聞』)との触れ込みで、自動車エンジンのクランクピンを高精度、高能率に加工できる上、フレキシビリティーの高さを特徴とした。

 工作機械の命題ではあるが、平成1ケタ代に、精度の進化が一段と進む。91年(平3)の第34回では、住友重機械工業の超精密平面研削盤「KSX―815」が受賞。

 砥石頭主軸の回転精度は0・1マイクロメートル(マイクロは100万分の1)以下。同位置決め精度をフルストローク(800ミリメートル)でプラスマイナス0・45マイクロメートルと「世界最高の研削加工精度を確保」(91年12月3日付『日刊工業新聞』)した。

 92年(平4)には牧野フライス製作所がトヨタ自動車と、金型のリブ溝向けの微細切削加工システムを共同開発した。樹脂金型のリブ加工を従来の放電加工から切削加工に置き換え、加工時間を3分の1、コストを5分の1に削減。

 当時、省資源化・省エネルギー化の要求が強まり、軽量な樹脂製部品を採用する機運が高まっていた。97年(平9)には、トヨタのハイブリッド車(HV)「プリウス」の初代モデルが、大賞の「増田賞」を受賞している。

 一方、現在が第3次ブームといわれる人工知能(AI)。第1次ブームが50―60年代、第2次は80年代とされる。ファナックは、90年代以降にAI技術を活用した製品の受賞が目立つ。

 例えば、94年(平6)に「AI化 ファナックロボットS―420i」が、99年(平11)に「知能ロボット I―21iシリーズ」が受賞した。

 00年代初めに工作機械業界は、バブル崩壊のきしみが限界に達し、一部がはじけた。01年の池貝、02年の日立精機と老舗企業の破綻が相次ぎ、資本・業務提携が進んだ。これが平成に起きたほぼ唯一の業界再編期となりそうだ。

 技術面では、80年代に立型、90年代に横型が台頭したマシニングセンター(MC)が一段と進化する。03年(平15)にはオークマの「環境温度に自律的に対応する高精度横型MC『MA―400H/500H/600H』」、森精機製作所(現DMG森精機)の「重心駆動の高精度立型・横型MC『NV4000 DCG/NH4000 DCG』」がそれぞれ受賞。

 オークマの製品は、機械内部の発熱影響を抑える新技術を採用し、一般的な工場環境で高精度な加工を可能にした。熱安定精度の保持が難しい横型MCでも、室温変化8度Cで経時加工寸法変化8マイクロメートルと高い熱安定性を実現した。森精機の製品は、DCG(重心駆動)という新しい理論を採用。精度を落とさずに高速加工ができた。

 また、00年代からは、5軸MCや旋盤ベースの複合機の開発が活発になっていく。00年(平12)に森精機の「5軸制御立形マシニングセンタ『GV―503/5AX』」、04年(平16)にオークマの「インテリジェント複合加工機『MULTUS B300』」、07年(平19)にヤマザキマザックの「5軸複合加工機『INTEGREX e―RAMTEC V/8』」といった製品が受賞した。

 そして10年以降、複合機の開発の流れが加速している。10年(平22)にはアマダ(現アマダホールディングス)グループの1スピンドル・2タレットの複合加工旋盤が選ばれる。11年(平23)だけでも複合加工機が2機種、13年(平25)に3機種と毎回のように複数の受賞機種が誕生した。

 さらにレーザー、積層造形(AM)、IoT(モノのインターネット)といった新しい技術が見逃せなくなってきた。アマダは11年(平23)、板金向けの初のファイバーレーザー加工機で受賞。

 当時、二酸化炭素(CO2)レーザーが主流だったが、今や米国での同社レーザー加工機販売は、ほぼ全量をファイバー型が占めるまでに育った。

 16年(平28)には、ファナックがファイバーレーザー発振器「FANUC FIBER LASER series」で、三菱重工工作機械(滋賀県栗東市)が「微細レーザ加工機『ABLASER』」で受賞した。

 レーザーと切削の両技術を融合した日本独自のAM機では、同年にオークマの「LASER EX シリーズ」がある。これに先立つ14年(平26)に、ソディックが「OPM250L」を日本国際工作機械見本市(JIMTOF)で披露。同賞も受賞した。

 今後の製造業の基盤として欠かせなくなるであろうIoT。ファナックの工場用IoT基盤「FIELD system」は、17年(平29)に「増田賞」に輝いた。

「競争軸が変わってきている」―。日本工作機械工業会(日工会)の飯村幸生会長は、工作機械の平成史をこう表現する。従来、機械の最重要項目だった加工速度や剛性、精度といった単体の機械的な性能競争から、日本勢は操作性や工程の集約化、自動化、ターンキーなどへと「戦う土俵を変えた」(飯村会長)。新興国メーカーに対する優位性は、これらの点で鮮明だという。
                  

(文=六笠友和)

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日刊工業新聞2019年1月1日
六笠友和
六笠友和 Mukasa Tomokazu 編集局経済部 編集委員
こうした違いは、最新の「第61回十大新製品賞」でも明らかになるだろう。受賞製品は、4日に発表される。

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