スパコン世界最速を巡る競争、「ポスト京」の勝算

エクサ(100京)スケールの計算能力を射程に入れる

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世界最速機のサミットの心臓部のプロセッサー「IBM POWER9」
 2021年ころに世界最速を目指す次世代スーパーコンピューター(スパコン)「ポスト京」の製造が始まった。理化学研究所と富士通の共同開発により、11年に世界最速の座を射止めた「京」の後継機で、エクサ(100京)スケールの計算能力を射程に入れる。スパコンはハイテク競争の象徴。令和に至る平成30年間はコンピューター開発の頂上決戦として、日米間で火花を散らしてきた。

ベクトル時代 米クレイが先駆者


 90年代前半―。パソコンは16ビットから32ビット機へのシフトが本格化し、業務用では64ビットの縮小命令型(RISC)プロセッサーが登場するなど、コンピューター業界は活気づいていた。

 当時、スパコン商戦は多数の演算を一括処理するベクトル型の専用プロセッサーが全盛期にあり、米クレイが先駆者として名をはせていた。その後、汎用プロセッサーで構成するスカラ(並列処理)型が台頭し、スパコンの勢力図はスカラ型へとシフトした。

 ベクトル型にこだわったのはNEC。半年ごとに更新されるスパコンの性能評価ランキング「トップ500」で、NECが海洋研究開発機構に納入した「地球シミュレータ」が02年に断トツで1位となり、2年半に渡り世界1の座に君臨した。

 地球シミュレータは日本の実力を世界に知らしめたが、04年に米IBMに1位を奪取されてからは、日本勢はスパコンの性能番付の上位からは遠ざかった。スパコンは開発投資が膨大なことから“金食い虫”ともやゆされていた。

京速時代 基幹技術、位置付け明確


 日米再逆転から7年―。理研と富士通が共同開発した“京速マシン”がトップ500で、1位の座を射止めたのが11年。京の開発を巡っては、政府の事業仕分けで「2位ではだめなのか」と、やり玉に挙がった。これには日本の歴代のノーベル賞受賞者5人がそろって抗議し「2位ではどうか、とは愚問。科学や技術を全く知らない人の言葉だ」と指摘するなど、国家基幹技術としてのスパコンの位置付けが明確となった。

 スパコンの心臓部であるプロセッサーの開発は、微細化によるトランジスタの集積度の向上と、消費電力をいかにコントロールするかが課題となる。富士通の本車田強AI基盤事業本部プロセッサ開発統括部長代理は「ムーアの法則(集積度が1年半―2年ごとに2倍になる)に沿って進展する一方で、周波数は消費電力に伴う問題で05―07年ころに頭打ちとなった」と指摘する。

19年8月に運用停止する「京」(理化学研究所提供)

 これを受けて、プロセッサーの技術進化はマルチコア(複数回路)化や、一つの命令を同時に複数のデータに適用する「SIMD」方式の拡充へとシフト。さらに10年代からは画像処理半導体(GPU)などのアクセラレーターが台頭した。

トップ500に新潮流 米が中国に待った 


 こうした変革の中で頭角を表したのが中国勢。トップ500で世界1位に踊り出たのがここ数年の兆候だ。

 これに待ったを掛けたのはIBM。米エネルギー省傘下のオークリッジ国立研究所に納めたスパコン「サミット」で1位を奪回した。

 直近の2018年11月のランキングでもIBM機が1、2位だった。サミットでは「CPU(中央演算処理装置)+GPU」という異なる種類のプロセッサーを組み合わせ、用途に応じて得意な処理を分担させる「ヘテロジニアス(異質の)コンピューティング」を志向した。

 IBMは専用機としてのスパコン開発は選択しなかった。CPUを担う独自プロセッサー「パワー9」と、米エヌビディアのGPU、業界標準の「インフィニバンド」に準拠した米ベラノックス製の接続方式を組み合わせ、3社連合で米エネルギー省の要求に応えた。

 エヌビディアはGPUの高速処理に当たり、プロセッサー間をつなぐ汎用の通信規格「NVリンク」を提唱。IBMはNVリンクをいち早くパワーに取り入れるなど「それぞれが得意とするオープン技術を出し合い、エネルギー省が示す仕様を満たした」と間々田隆介日本IBMサーバー・システム事業部コグニティヴ・システム事業開発AI推進部部長は説明する。

アームの台頭 知財生かし存在感


 もう一つの潮流は、英アーム仕様のプロセッサーを搭載したスパコンの台頭だ。プロセッサーは“ポストインテル”としても有望視されている。米マーベル傘下のカビウム(カリフォルニア州)が開発したアーム仕様のプロセッサー「サンダーX2」は、米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)、米クレイ、台湾ギガバイトの3社が採用する。

 ポスト京の心臓部である新型64ビットプロセッサー「A64FX」もアーム仕様。A64FXは命令セットに加え、ハードウエアの実装もアーム標準に基づき、アーム標準の他のソフトウエアも動く。これが富士通の従来のスパコンとは大きく異なる点だ。

 富士通は京では高性能サーバーで実績を持つ「スパーク」プロセッサーをベースに独自にCPUを作り込んだが、ポスト京ではアーム仕様に切り替え、長年培ってきたプロセッサー設計の知財を結集し、理研とのタッグで首位奪還に挑む。「A64FXのマイクロアーキテクチャーは当社独自のもの。これに磨きを掛けて、アームのエコシステム(協業の生態系)の中で存在感を示したい」と本車田部長代理は語る。ポスト京は令和3年ころに世界最速を目指す。
(文=編集委員・斉藤実)
NECが海洋研究開発機構(JAMSTEC)に収めた地球シミュレータ

日刊工業新聞2019年5月4日

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