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企業がマッサージルームを導入する2つの理由

健康経営だけではない、企業が抱えるもう一つの課題
企業がマッサージルームを導入する2つの理由

マッサージルームでの施術の様子(KCJ GROUP・キッザニア東京)  

 障がい者の就労支援を中心にソーシャルビジネスをてがける株式会社ゼネラルパートナーズ(東京都中央区)は、企業の健康経営に結びつけて視覚障がい者の雇用の促進に取り組んでいる。企業内にマッサージルームを開設し、視覚障がいがあり国家資格を持つ専属のマッサージ師を紹介する。厚生労働省が所管する「障害者雇用率制度」の改正により、民間企業で雇用が義務付けられている障害者雇用率が引き上げられた。これを背景に、障がい者の雇用を拡大する企業の増加が見込まれている。その中で、健康経営という投資判断しやすいテーマを企業に訴求し、障がい者の雇用を後押しする。

優秀な人材の定着へ


社内に新設されたマッサージルーム(ドリコム提供)

 ゼネラルパートナーズは様々な業種業態の企業を対象に、これまで20社程度のマッサージルーム開設に携わった。同社法人コンサルティングチームの茅原亮輔氏は、「(健康経営も同時に推進できる取り組みとして)経営層に経営に必要な投資と判断してもらえると、障がい者の雇用も会社の重要な戦力として理解を得やすい」(茅原氏)と説明する。

 その一例が、ゲーム開発のドリコム(東京都目黒区)だ。同社総務部の水上奈穂美部長は、「(マッサージルーム導入は)離職率の低下を目指した投資。人材の流動が激しいゲーム業界で、優秀な人に長く働いてもらうためには環境整備が欠かせないと判断した」という。開設費用は300―500万円ほど。現在は、2人のマッサージ師が本社と近隣の事業所の計2カ所で勤務している。

 ドリコムでは、過去にも障がい者雇用の促進に取り組んでいたが、長期的な定着までには至らなかった。それを踏まえて、水上部長は「(マッサージルームは)ゲーム業界の特色や社風に左右されずに働ける、いい意味で独立した職場だ」と評価する。

導入で見えてきた課題


 ゼネラルパートナーズによるとIT業界の他にも、従業員の身体的負担が大きく、心身の緊張がしばしば伴う業種で導入が増えているという。導入企業の裾野が拡大したことで、導入後に生じる問題点が徐々に見えてきた。

 例えば、子ども向けの就労体験施設「キッザニア」を展開するKCJ GROUPでは、効率的な運用ルールの確立を模索している。同社は18年11月にマッサージルームを「キッザニア東京」(東京都江東区)に設置。従業員は無料で利用できる。従業員は立ち仕事や子どもの目線に合わせた姿勢での作業が多く、肩や足腰などに負担がかかりやすいため、終業後に利用する従業員が多い傾向にあるという。

 その結果、日によっては利用予約が集中して予約を取りづらい時間帯が発生している。同社広報によると、マッサージルームの予約枠は毎日15枠前後設けており、その約8割が埋まる。社内での知名度も高まっており、今後さらに人気が高まる場合は、マッサージ師の負担軽減も視野に利用回数の制限などを検討する可能性もあるという。
子どもの目線に合わせた体勢は肩や腰、足などに負担がかかりやすい(キッザニア東京)

不公平感をどう解消する?


 また、全国に支店を持つ企業特有の課題もあるという。イオン銀行では、設置場所から遠い地域で働く従業員の間で不公平感が生じるのではないか、という懸念を抱えている。

 同社では、18年12月に本社と勤務者数の多い神田支店の近隣のビルに健康管理室を開設。19年2月に、健康管理室内にマッサージルームを開設した。

 同社人事部の古田守利部長は、「利用した社員の満足度は高い。ただ、マッサージルームに限らず、リモートワークなどの取り組みで『本社はいいよね』と支店の従業員から思われてしまうのは全国型の難しいところだ」と語る。解決策として、出張などの機会で活用を促すほか、幕張や大阪府など、勤務者の多い拠点への導入も検討しているという。
マッサージルームでの施術の様子(イオン銀行)

課題解消に協力


 ゼネラルパートナーズによると、必要な備品や導線など視覚障がい者でなければ気付けない注意点も多いという。そのため、「(場所の選定や運用ルールなどで)企業が一方的に準備せず当事者ならではの意見を反映することが鍵」(茅原氏)という。同社では、マッサージ師の採用決定後に3者で話し合う機会を設けたり、従業員向けの障がい理解研修を事前に開催したりすることでマッサージ師の働きやすい環境整備に務めている。
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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
取材前は男性の利用者が多そうと想像していましたが、取材を通して女性からも好評な施策であることが分かりました。家事や育児に追われて私生活の中でリフレッシュの時間を取りづらいことが一因ですが、中にはマッサージ師との会話を楽しみにしている人も。マッサージ師にとっても利用者との会話は仕事の楽しみの一つだそうです。実は、今春に日刊工業新聞社の本社にも導入されたのですが、メディア業界はなかなかマッサージルームの普及が進まない業界の一つとのこと。“言うは易く行うは難し”を痛感しました。

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