METI
広がる「健康経営」に投資家が注目する理由
健康経営銘柄2019に37社を選定
従業員の健康づくりを、攻めの投資と捉え、戦略的に取り組む「健康経営」が広がりをみせている。活力や生産性の向上が組織の活性化をもたらし、ひいては収益力や企業価値の向上につながるとの認識が経営者や投資家の間に浸透しつつあるためだ。働き方改革や人材採用の観点から重視する企業も増えている。健康経営が当たり前の時代が到来しつつある。
「当社は5年連続で健康経営銘柄に選ばれました」。2019年2月下旬の発表当日、花王はこんなプレスリリースを発表した。
健康経営銘柄とは、従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に取り組んでいる企業を経済産業省と東京証券取引所が共同で選定、公表する取り組みで、2014年度に始まった。5回目となる今回は28業種37社が選ばれた。その1社である花王は、グループの中期経営計画の重点活動に従業員と家族の健康維持を掲げ、データに基づく効果検証や改善を継続している。
花王やTOTO、テルモのように連続して健康経営銘柄に選定される、常連企業がある一方で、今回は日本水産やJXTGグループ、オムロンなど16社が初の選定となった。
「隔世の感があります」。こう話すのは、日本における「健康経営」の提唱者で商標登録者でもあるNPO法人「健康経営研究会」の岡田邦夫理事長。10年前ほどはセミナーの参加者確保にさえ苦労したというが、今や状況は一変。銘柄の選定材料となる「健康経営度調査」への回答企業数は急増し、過去最多を更新し続け、すそ野は着実に広がっている。学生の間でも、健康経営に力を入れる企業は働き方改革に前向きで、安心して勤められる企業とのイメージが定着しつつあり、就職先選びの判断材料のひとつとなっている。
少子高齢化に伴い、増え続ける社会保障の抑制や労働力不足への対応。健康経営はこうした社会的要請に企業としてどう応えるかを示すものである。一方、投資家は中長期的な成長力の観点から着目している。レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長は、競争力の源泉である従業員とどう向き合おうとしているのか、「健康経営は企業側が発する重要なメッセージ」と受け止めている。
健康経営と企業業績や収益性の関連性も明らかになってきた。三菱UFJモルガンスタンレー証券の調査によると、健康経営銘柄は価格変動比率(ボラティリティ)が低く、純資産より純利益での株価対比の割安度が高いという。
近年、資本市場で注目されるESG投資とも無縁ではないようだ。ESG(環境・社会・ガバナンス)情報を投資判断に組み込み、長期的なリターン向上を目指すこの投資手法において、健康経営銘柄は「S(社会)」指標に関連する施策が多いことも明らかになり、ESGを重視する投資家にとって重要な判断要素となりつつある。米国では健康経営企業の一株当たり当期利益率(EPS)は同業他社に比べて高いことを示すデータもある。
資本市場からの注目も集める潮流を捉え、企業側もステークホルダーとの対話において、健康経営を積極発信する動きもある。丸井グループでは、自社の統合レポートに「従業員一人一人が健康を切り口に意識や行動を変えることにより、組織全体の活力を高め企業価値向上につなげていく」方針を明記。こうした経営姿勢は海外でも高く評価されている。
さまざまな観点から注目される健康経営の今後の課題は何か。「1社で完結する取り組みではなく、周囲の巻き込みが重要」。こう語るのは、世界で初めて健康経営を融資の評価基準に用いた「DBJ健康経営格付」で知られる日本政策投資銀行の田原正人サステナビリティ企画部長。取引先や地域との連携のほか、多様なステークホルダーの視点を踏まえて取り組む意義を指摘する。
健康経営銘柄とともに同日発表された「健康経営優良法人」は、まさにこうした取り組み機運を社会全体に広げる狙いがある。健康経営銘柄が東京証券取引所の上場企業を対象とするのに対し、健康経営優良法人は、非上場企業や、地域の実情に合わせた取り組みや健康保険組合など保険者と連携して健康経営に取り組む法人を対象とする。3回目となる今回は大規模法人部門として820法人、中小法人部門2503法人が認定された。
それぞれの実情に合った健康経営をいかに実践するか-。多様な主体の創意工夫、取り組みの深化が問われている。
16社が初の選定
「当社は5年連続で健康経営銘柄に選ばれました」。2019年2月下旬の発表当日、花王はこんなプレスリリースを発表した。
健康経営銘柄とは、従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に取り組んでいる企業を経済産業省と東京証券取引所が共同で選定、公表する取り組みで、2014年度に始まった。5回目となる今回は28業種37社が選ばれた。その1社である花王は、グループの中期経営計画の重点活動に従業員と家族の健康維持を掲げ、データに基づく効果検証や改善を継続している。
花王やTOTO、テルモのように連続して健康経営銘柄に選定される、常連企業がある一方で、今回は日本水産やJXTGグループ、オムロンなど16社が初の選定となった。
状況は様変わり
「隔世の感があります」。こう話すのは、日本における「健康経営」の提唱者で商標登録者でもあるNPO法人「健康経営研究会」の岡田邦夫理事長。10年前ほどはセミナーの参加者確保にさえ苦労したというが、今や状況は一変。銘柄の選定材料となる「健康経営度調査」への回答企業数は急増し、過去最多を更新し続け、すそ野は着実に広がっている。学生の間でも、健康経営に力を入れる企業は働き方改革に前向きで、安心して勤められる企業とのイメージが定着しつつあり、就職先選びの判断材料のひとつとなっている。
収益性との関係も明らかに
少子高齢化に伴い、増え続ける社会保障の抑制や労働力不足への対応。健康経営はこうした社会的要請に企業としてどう応えるかを示すものである。一方、投資家は中長期的な成長力の観点から着目している。レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長は、競争力の源泉である従業員とどう向き合おうとしているのか、「健康経営は企業側が発する重要なメッセージ」と受け止めている。
健康経営と企業業績や収益性の関連性も明らかになってきた。三菱UFJモルガンスタンレー証券の調査によると、健康経営銘柄は価格変動比率(ボラティリティ)が低く、純資産より純利益での株価対比の割安度が高いという。
近年、資本市場で注目されるESG投資とも無縁ではないようだ。ESG(環境・社会・ガバナンス)情報を投資判断に組み込み、長期的なリターン向上を目指すこの投資手法において、健康経営銘柄は「S(社会)」指標に関連する施策が多いことも明らかになり、ESGを重視する投資家にとって重要な判断要素となりつつある。米国では健康経営企業の一株当たり当期利益率(EPS)は同業他社に比べて高いことを示すデータもある。
資本市場からの注目も集める潮流を捉え、企業側もステークホルダーとの対話において、健康経営を積極発信する動きもある。丸井グループでは、自社の統合レポートに「従業員一人一人が健康を切り口に意識や行動を変えることにより、組織全体の活力を高め企業価値向上につなげていく」方針を明記。こうした経営姿勢は海外でも高く評価されている。
社会全体で取り組む
さまざまな観点から注目される健康経営の今後の課題は何か。「1社で完結する取り組みではなく、周囲の巻き込みが重要」。こう語るのは、世界で初めて健康経営を融資の評価基準に用いた「DBJ健康経営格付」で知られる日本政策投資銀行の田原正人サステナビリティ企画部長。取引先や地域との連携のほか、多様なステークホルダーの視点を踏まえて取り組む意義を指摘する。
健康経営銘柄とともに同日発表された「健康経営優良法人」は、まさにこうした取り組み機運を社会全体に広げる狙いがある。健康経営銘柄が東京証券取引所の上場企業を対象とするのに対し、健康経営優良法人は、非上場企業や、地域の実情に合わせた取り組みや健康保険組合など保険者と連携して健康経営に取り組む法人を対象とする。3回目となる今回は大規模法人部門として820法人、中小法人部門2503法人が認定された。
それぞれの実情に合った健康経営をいかに実践するか-。多様な主体の創意工夫、取り組みの深化が問われている。
METI Journal