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隈研吾とスターバックスが創り出した「脚のないテーブル」の秘密

隈研吾とスターバックスが創り出した「脚のないテーブル」の秘密

「脚のないテーブル」を導入したスターバックスの店舗(カナダ・バンクーバー)

 テーブルには脚がある。そんな常識を覆す「脚のないテーブル」を導入したスターバックスの店舗がカナダ・バンクーバーのダウンタウンの一角にある。デザインを手がけたのは世界的建築家の隈研吾氏。隈氏の斬新な発想を実現に導いた素材、それが小松マテーレの熱可塑性炭素繊維複合材「CABKOMA(カボコーマ)」だ。

 カボコーマは炭素繊維に熱可塑性のエポキシ樹脂を含浸させて作製。比重は鉄の4分の1と超軽量で、引っ張り強度は鉄の10倍を誇る。バンクーバーのスターバックス店舗で使われたのは、このカボコーマをワイヤ状にした「カボコーマ・ストランドロッド」。店舗の天井と床を結ぶように無数に張り巡らせたカボコーマ・ストランドロッドでテーブルの天板を支持する構造とすることで、「脚のないテーブル」を実現した。

 同店舗はカボコーマ・ストランドロッドを「家具」として使用した先進事例になるが、使い道はそれだけではない。同複合材の代表的な用途の一つに挙げられるのが建築物や構造物の耐震補強部材だ。鋼線のワイヤに比べて高強度で、しなやかさも備える上に、非常に軽量で熱による寸法変化がほとんどないため、耐震補強工事の施工効率とメンテナンス性を大幅に高められる。

善光寺やJR大阪駅にも


 小松マテーレの自社施設で、2015年11月に完成したファブリック・ラボラトリー「fa-bo(ファーボ)」の耐震補強に初めて使用。さびや結露が生じないのも特徴で、木造建築物との相性が良く、富岡製糸場や善光寺経蔵などの重要文化財の耐震補強にも使われている。

 耐震補強以外では、鉄道の駅で乗客の転落を防ぐ昇降式ホーム柵にカボコーマ・ストランドロッドが採用された。高強力だが軽量であり、施工性が良いことに加え熱による寸法変化がないためメンテナンスを簡素化できるメリットがある。この新型ホーム柵は、2019年3月にJR大阪駅に導入され、今後全国の主要な駅への設置が期待される。

 カボコーマはワイヤ状の「ストランドロッド」に加え、板状の「シート」、チップ状の「KBチップ(カボチップ)」など複数のバリエーションで展開している。シートは、信号や道路標識などの鋼管柱を長寿命化するための補強材としての用途に期待が高まる。

 カボチップの用途展開では、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製品を射出成形機で成形する技術をファナックと共同開発した。射出成形時の材料供給機構の安定化により、スクリュー内での滞留時間を縮小。これによりスクリューによる炭素繊維の切断を少なくし、強度に関係する繊維長を5ミリメートルと長く保つことに成功した。CFRP製のネジや、建材の接合プレートなどの用途開拓を進める構えだ。

 小松マテーレは1943年10月に「小松織物精練染工」として設立し、1963年に「小松精練」に社名を変更。設立75周年の節目を迎えた2018年10月に現社名に改めた。

 旧社名にある「精練」は繊維加工で雑物を除去するプロセスを指す用語だが、同社の事業領域は衣料だけでなく生活資材、医療・福祉、エレクトロニクス、車両内装材、環境関連事業など多岐にわたる。事業領域の拡大を踏まえつつ、さらなる多角化を図る。

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