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高待遇な中国企業に必ずしも人が集中しないいくつかの理由

高待遇な中国企業に必ずしも人が集中しないいくつかの理由

ユニコーン企業として多くの人材を惹きつける滴滴出行(写真はイメージ)

 最近、当社が人材採用の支援を行っている顧客企業から「うちの幹部候補人材が、中国の民営企業に3倍の給与で引き抜かれた」という話を聞いた。しかし、この手の話は良くあることだ。中国では少し前まで、給与の高い順に欧米系→日系→韓国系→台湾系→民営という給与差があったが、現在は、その順番が逆転し、場合によっては民営系が欧米系よりも高待遇というケースもある。

 では、中国人の転職希望者はみな高待遇を目指して民営企業を目指すかというと、一概にそうとはいえない。民営企業は高い給与を提示するだけでなく、勢いもある。

 地場のマーケットをしっかり掴み、かつスピード感を持ちサービスや商品を提供している企業が多い。だが、そのような民営企業へ転職しても、半年後に再び転職を希望し当社に再登録をする人も少なくない。やはり日系企業に戻りたいという理由だ。

 日系企業回帰の原因はさまざまだが、その一つは「9・9・6(ジュウジュウリュウ)」と呼ばれる、朝9時から夜9時までの勤務時間と週6日という就業時間の長さだ。

 その他、人間関係や倫理観などさまざまな相違点が挙げられる。日系企業の文化で育った中国人はこれらの違いは大きいという事実を転職して初めて理解し、待遇が多少下がっても再度日系企業への就職を希望する。

 こうしたなか、日系企業では、民営企業を一度経験した中国人の候補者を、多少給与が高くても積極的に採用する例もある。身をもって民営と日系の違いを経験している社員の方が逆に安定性が高いという理由からだ。

 一方、中国ユニコーン企業数の増加は目を見張るものがある。ある調査によると、2017年の中国ユニコーン企業数は前年比で25%増加した。

 その大半はEC(電子商取引)やフィンテックなどの領域で活発な企業だ。魅力的な商品やサービスを次々と生み出す民営企業に、日系を含む外資企業が追随する事は厳しい。

 また、中国に進出する企業は90年代以降に生まれた若い世代の価値観には、伝統的な日系企業文化が合わなくなってきた事も意識しなければいけない。

 80年代生まれは、成功のために努力や我慢をする傾向があったが、90年代生まれの世代は生活の安定よりも理想を実現することや自分が好きなことを重視する傾向。「仕事に多くの時間を取られたくない」などの声もよく耳にする。

 日系企業の給与は欧米系の外資よりも低い傾向にあるが、働きやすさには定評がある。日系企業が中国で優秀な人材を確保し長期で活躍してもらうためには、世代による志向の違いを理解し、競合他社の民営企業と比較し自社の優位性を把握した上で人事戦略を立てることが大切だ。
(文=小梁川舞香<リクルートメント上海法人総経理>)
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