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高速ラインの異物を見逃さない、人間の知覚を超えた“電子の目”の正体

NECと東大が認識技術
 NECは、東京大学大学院情報理工学系研究科の石川正俊教授室・妹尾拓講師らの研究グループと共同で、高速で動く製造ラインでの外観検査や異物検知を瞬時に行う物体認識技術を開発した。脳神経を模したニューラルネットワークと高速カメラを組み合わせた。製造ラインの動きを調整しなくても、ベルトコンベヤーで大量に流れる部材や食品、筒内の空間を落下する錠剤などの傷や異物を人間の知覚を超えた“電子の目”でリアルタイムに認識できる。

 NECの人工知能(AI)画像認識技術と、東大が主導する高速移動物体の追跡技術を融合させ、高速で動く製造ラインで課題となる全数検査への道を開いた。認証工程は2段階あり、最初に高速カメラで撮影した毎秒1000フレームの大量の画像から、検査対象である傷や刻印などを認識するのに有効な画像だけを3枚程度、瞬時に選別する。

 次段階で、スピード重視の軽量なニューラルネットワークを用い、選別した画像を基に素早く認識処理を繰り返す。その結果を付き合わせて、最も多く出現した結果を正解とする多数決方式とした。

 錠剤の外観検査を想定した実験では、数十個のサイコロ状の小さな部材を高速カメラの前で一斉に自然落下させ、刻印されている5ミリメートル程度の微細な文字の違いを調べたところ、リアルタイムに90%以上の精度で判別できることを確認した。

 NECは「高速カメラでうまく追跡できている時の情報の差分などを活用することで、画像の選別時間を大幅に削減できる」ことに着目。さらに、選ばれた有効な画像を基に一つひとつの処理を軽くし、多数決で決めることでリアルタイム性を実現した。

 多数決方式の採用もユニークで、多段階のニューラルネットワークを用いたディープラーニング(深層学習)に比べて、認識時間が圧倒的に速くなる。

 企業の製造現場では、顧客ニーズの多様化によって多品種変量生産が進むなか、品質トラブルの防止と短納期の両立が求められている。開発した技術を製造ラインに適用することで、生産効率の向上と品質の均一化などに貢献できる。

                
日刊工業新聞2019年3月28日

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