日本の技術力、ラグビーW杯でアピールに成功するのは誰か
携帯電話や電機各社が発信
ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会の開幕まであと半年と迫った。携帯電話や電機各社は、第5世代通信(5G)や顔認証といった新サービスを国内外にアピールする場にもなるとして、準備を始めている。2020年の東京五輪・パラリンピックも見据え、日本の技術力の存在感を高めるイベントにもなりそうだ。
携帯電話大手はラグビーW杯の会場周辺を次世代通信規格である5Gのプレサービスの場として活用する。従来の4GLTEに比べて100倍の高速通信ができ、低遅延で多数の同時接続が可能な5Gは、スポーツ観戦に新たな付加価値をつける可能性を秘める。
各社はまだ具体的な5Gサービスを明らかにしていないが、例えば選手の視点でプレースキックを実感できる仮想現実(VR)サービスをスタジアム来場者に提供することが考えられる。
例えばNTTは14日、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)と共同で、NTTのデジタル技術を駆使してスタジアムから遠く離れた場所からでも臨場感を味わえる「デジタルスタジアム」サービスを始めると発表している。
5Gは高精細な4K映像や高品質の音声を遅延なく送信可能。Jリーグの村井満チェアマンは、「自分が選手となったかのような感覚でフィールドをぐるりと見渡すような体験をすれば本当の意味でのサッカーの醍醐味(だいごみ)を感じられる」とした上で、ヘッドマウントディスプレーを付ければ「ゴールキーパーの視点でペナルティーキック(PK)の早さを実感できる」と期待する。
ラグビーW杯でも同様のサービスを提供することも検討していく。
パブリックビューイング(PV)の高度化にも5Gが貢献しそうだ。NTTドコモはフットサルの試合を複数台の4Kカメラで撮影し、5GでPV会場に即時に伝送し、この映像を合成し幅20メートルのワイドスクリーンに映し出すイベントを成功させている。
まるでスタジアムにいるかのような高精細な映像と音声を味わいながら屋内施設でディナーを楽しむ―。こうしたイベントをラグビーW杯で開けば、チケットを入手できなかったファンだけでなく家族連れや障がい者も楽しめる。
ラグビーW杯の会場では、KDDIは飛行ロボット(ドローン)と5Gを組み合わせたサービスを展開する。KDDIの山田靖久理事は「(ドローンで撮影した)4K映像を5Gで即時送信して人工知能(AI)で分析するサービスが期待できる」と話す。スタジアムを巡回するドローンの空撮映像をクラウド上に伝送して、スタジアム内の警備に生かすことなどが考えられる。
ラグビーW杯の裏方では大会スタッフが運営を支え、各国の報道関係者が試合の熱気を世界に伝える。だが、関係者とはいえ、会場の出入り口では本人確認が必須。問題はその数が約1万人にも及ぶため、本人確認に要する時間と手間が膨大となる。そこがセキュリティー上の盲点とならないように厳格にチェックすると、作業負担と時間がかさむため、運営側にとってはやりくりが悩ましい。
この問題を解決するのが、NECの提供する顔認証技術だ。バーコード記載のIDカードと、事前に撮影・登録した顔画像をシステム上でひも付けし、会場の入り口に設置する顔認証装置を用いて本人確認を行う。
IDカードを読み取り機にかざすと即座に顔認証を行うため、スムーズな入場が可能。「ゲート通過時にカメラの正面に向き合って立ち止まることなく、自然に歩いたままでの状態で認証できる」(NECの武原裕樹東京オリンピック・パラリンピック推進本部マネージャ)。
NECが受注したのは、東京スタジアムと横浜国際総合競技場の主要2会場。IDカードの貸し借りやIDカード偽装、盗難によるなりすまし入場の防止といった効果も期待できる。
ラグビーW杯に続き、東京五輪・パラリンピックでも、NECの顔認証システムの採用が決まっている。対象は参加各国の選手やスタッフ、ボランティアを含め総勢30万人。43の競技場や三つの選手村、宿泊施設などのゲートに顔認証システムを設置する。NECにとり、ラグビーW杯と並び自社技術をアピールする格好の機会だ。
パナソニックは、18年9月に施設をリニューアルした東大阪市花園ラグビー場に、710型の大型発光ダイオード(LED)モニターや4Kカメラなど映像システムを納入した。
スタンドの一画に設置された縦幅約8メートル、横幅約16メートルの大型モニターは、高輝度のフルカラーLEDを採用。昼夜や天候を問わず、ピッチの上にいるレフェリー(審判)もこのモニターで判断ができるくらい鮮明な映像を映し出せる。トライシーンや判定の検証時、リプレイ映像を映すことで観客と選手、レフェリーが映像を共有して試合が盛り上がる。
また、業務用4K映像カメラ2台のほか、スタンドの天井付近に設置した4Kネットワークカメラ4台を納入。カメラ制御機器により、遠隔でネットワークカメラの向きなどを集中制御できる。
パナソニックは20年以上にわたり五輪・パラリンピック会場に、こうした映像機器システムを納めてきた実績を生かした。
同ラグビー場は、年間で試合のある40―50日以外、PV会場などとして運営している。こうしたイベントでは、大型モニターによって臨場感のある映像が提供できる。ラグビーW杯を通じて同ラグビー場の知名度向上につなげつつ、結婚式などのイベント会場として多様な用途を模索するという。
キヤノンは8K映像のライブ配信の実証実験を実施している。ラグビー試合の映像を競技場からキヤノン本社に送信、画像処理した映像を巨大スクリーン向けに補正して表示することに成功。会場に行かなくても、スタジアムで観戦するような臨場感を体験できる。
18年6月に大分市で開かれたラグビー日本代表対イタリア代表、同年10月に横浜市で実施したニュージーランド代表対オーストラリア代表で実験した。6月は衛星回線で、10月は光回線で伝送した。
キヤノンが開発した8Kカメラ・レンズで撮影したライブ映像を送り、キヤノン本社で8K映像として上映した。中継車など既存の4K設備を活用しており、8K映像の利用の拡大が期待できる。
ラグビーW杯を始め、映像配信を会場以外でもスポーツを楽しめる技術として広げていきたい考えだ。
(文=特別取材班)
5Gでデジタルスタジアム-“自分が選手”の臨場感
携帯電話大手はラグビーW杯の会場周辺を次世代通信規格である5Gのプレサービスの場として活用する。従来の4GLTEに比べて100倍の高速通信ができ、低遅延で多数の同時接続が可能な5Gは、スポーツ観戦に新たな付加価値をつける可能性を秘める。
各社はまだ具体的な5Gサービスを明らかにしていないが、例えば選手の視点でプレースキックを実感できる仮想現実(VR)サービスをスタジアム来場者に提供することが考えられる。
例えばNTTは14日、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)と共同で、NTTのデジタル技術を駆使してスタジアムから遠く離れた場所からでも臨場感を味わえる「デジタルスタジアム」サービスを始めると発表している。
5Gは高精細な4K映像や高品質の音声を遅延なく送信可能。Jリーグの村井満チェアマンは、「自分が選手となったかのような感覚でフィールドをぐるりと見渡すような体験をすれば本当の意味でのサッカーの醍醐味(だいごみ)を感じられる」とした上で、ヘッドマウントディスプレーを付ければ「ゴールキーパーの視点でペナルティーキック(PK)の早さを実感できる」と期待する。
ラグビーW杯でも同様のサービスを提供することも検討していく。
パブリックビューイング(PV)の高度化にも5Gが貢献しそうだ。NTTドコモはフットサルの試合を複数台の4Kカメラで撮影し、5GでPV会場に即時に伝送し、この映像を合成し幅20メートルのワイドスクリーンに映し出すイベントを成功させている。
まるでスタジアムにいるかのような高精細な映像と音声を味わいながら屋内施設でディナーを楽しむ―。こうしたイベントをラグビーW杯で開けば、チケットを入手できなかったファンだけでなく家族連れや障がい者も楽しめる。
ラグビーW杯の会場では、KDDIは飛行ロボット(ドローン)と5Gを組み合わせたサービスを展開する。KDDIの山田靖久理事は「(ドローンで撮影した)4K映像を5Gで即時送信して人工知能(AI)で分析するサービスが期待できる」と話す。スタジアムを巡回するドローンの空撮映像をクラウド上に伝送して、スタジアム内の警備に生かすことなどが考えられる。
顔認証-セキュリティー対策万全
ラグビーW杯の裏方では大会スタッフが運営を支え、各国の報道関係者が試合の熱気を世界に伝える。だが、関係者とはいえ、会場の出入り口では本人確認が必須。問題はその数が約1万人にも及ぶため、本人確認に要する時間と手間が膨大となる。そこがセキュリティー上の盲点とならないように厳格にチェックすると、作業負担と時間がかさむため、運営側にとってはやりくりが悩ましい。
この問題を解決するのが、NECの提供する顔認証技術だ。バーコード記載のIDカードと、事前に撮影・登録した顔画像をシステム上でひも付けし、会場の入り口に設置する顔認証装置を用いて本人確認を行う。
IDカードを読み取り機にかざすと即座に顔認証を行うため、スムーズな入場が可能。「ゲート通過時にカメラの正面に向き合って立ち止まることなく、自然に歩いたままでの状態で認証できる」(NECの武原裕樹東京オリンピック・パラリンピック推進本部マネージャ)。
NECが受注したのは、東京スタジアムと横浜国際総合競技場の主要2会場。IDカードの貸し借りやIDカード偽装、盗難によるなりすまし入場の防止といった効果も期待できる。
ラグビーW杯に続き、東京五輪・パラリンピックでも、NECの顔認証システムの採用が決まっている。対象は参加各国の選手やスタッフ、ボランティアを含め総勢30万人。43の競技場や三つの選手村、宿泊施設などのゲートに顔認証システムを設置する。NECにとり、ラグビーW杯と並び自社技術をアピールする格好の機会だ。
4K8K映像-会場にいなくても楽しめる
パナソニックは、18年9月に施設をリニューアルした東大阪市花園ラグビー場に、710型の大型発光ダイオード(LED)モニターや4Kカメラなど映像システムを納入した。
スタンドの一画に設置された縦幅約8メートル、横幅約16メートルの大型モニターは、高輝度のフルカラーLEDを採用。昼夜や天候を問わず、ピッチの上にいるレフェリー(審判)もこのモニターで判断ができるくらい鮮明な映像を映し出せる。トライシーンや判定の検証時、リプレイ映像を映すことで観客と選手、レフェリーが映像を共有して試合が盛り上がる。
また、業務用4K映像カメラ2台のほか、スタンドの天井付近に設置した4Kネットワークカメラ4台を納入。カメラ制御機器により、遠隔でネットワークカメラの向きなどを集中制御できる。
パナソニックは20年以上にわたり五輪・パラリンピック会場に、こうした映像機器システムを納めてきた実績を生かした。
同ラグビー場は、年間で試合のある40―50日以外、PV会場などとして運営している。こうしたイベントでは、大型モニターによって臨場感のある映像が提供できる。ラグビーW杯を通じて同ラグビー場の知名度向上につなげつつ、結婚式などのイベント会場として多様な用途を模索するという。
キヤノンは8K映像のライブ配信の実証実験を実施している。ラグビー試合の映像を競技場からキヤノン本社に送信、画像処理した映像を巨大スクリーン向けに補正して表示することに成功。会場に行かなくても、スタジアムで観戦するような臨場感を体験できる。
18年6月に大分市で開かれたラグビー日本代表対イタリア代表、同年10月に横浜市で実施したニュージーランド代表対オーストラリア代表で実験した。6月は衛星回線で、10月は光回線で伝送した。
キヤノンが開発した8Kカメラ・レンズで撮影したライブ映像を送り、キヤノン本社で8K映像として上映した。中継車など既存の4K設備を活用しており、8K映像の利用の拡大が期待できる。
ラグビーW杯を始め、映像配信を会場以外でもスポーツを楽しめる技術として広げていきたい考えだ。
(文=特別取材班)
日刊工業新聞2019年3月19日