ボクシングジムの事業承継、お金のリアル

 尼崎亀谷スポーツボクシングジム(兵庫県尼崎市)は、プロのボクサーや志願者だけでなく、一般人も気軽に練習できるのが人気。ストレス発散やダイエットを目的に楽しむ「ボクシング女子」も多い。地域に根づき、練習生は約75人に上る。

 竹中義則会長代行が亀谷長和会長からジムの経営を託されたのは2018年4月。元プロの亀谷会長からボクシングに寄せる熱い情熱も受け継ぎ、プロの養成や練習生拡大に心血を注いでいる。

 亀谷会長は1993年にジムを開業。西日本ボクシング協会に加盟し、「元東洋太平洋ウエルター級日本ランキング1位」の竹中会長代行らプロを育てた。しかし、子どもは別の職業を選んだ。そして70歳を迎えた18年、手塩にかけたジムを親族以外に譲ることを決心。まな弟子で、家族との仲も良い竹中会長代行に後継を求めた。

 竹中会長代行は亀谷会長の元を一度離れ、アマチュア専門ジムで運営責任者として働いていた。「会長や地域に恩返しして、自分がなれなかった世界チャンピオンも育てたい」と迷わず受け入れた。

 亀谷会長が経営権を500万円で譲る好意もありがたかった。プロ協会に加盟するには1000万円かかる場合もある。建屋を借り機器もそろえると、一から経営者になるには2000万円以上必要という。

 プロのジム業界の慣習に従い、竹中会長代行は10年勤めた後に名義上も代表になる予定。亀谷会長は「『ジムを1500万円で買いたい』というほかの申し出もあったが、断った」と打ち明ける。

日本公庫が融資


 竹中会長代行は500万円を工面するため知り合いの税理士に相談した。紹介されたのが日本政策金融公庫の「事業承継資金」。同公庫尼崎支店の年岡孝浩融資第一課長は「亀谷さんは後継ぎがいなかったが、客がしっかり付いていた。竹中さんには経験もビジョンもあるので、無担保融資した」と説明する。

 ジムの収支はとんとん。経営は楽でない。しかし、週1回の低額コースを設けたりプロの公式戦観戦も企画したりして、着実に生徒を増やしている。「ジムでともに練習するプロの刺激を受けながら、趣味として仲間とも楽しめる雰囲気が売り。練習生を100人に増やしたい」(竹中会長代行)と意気込む。

 竹中会長代行は18年11月から19年1月まで日曜を返上し、兵庫県立尼崎工業高校で生徒にボクシングの楽しさを伝える地域交流会も開いた。亀谷会長は奮闘する後継者を「自分の思うようにやりなさい」と優しく見守る。(大阪・田井茂)

日刊工業新聞2019年3月12日

  

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