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歯の治療で意外と面倒なかぶせ物、3Dプリンターで時間短縮

CAD・CAMの利用も進む
歯の治療で意外と面倒なかぶせ物、3Dプリンターで時間短縮

歯科に年に1回以上かかっている人は全体の約半数

 歯磨きの習慣づけやフッ素入り製品の利用などにより日本人のむし歯は減っているが、依然として歯科にお世話になっている人は多い。日本歯科医師会が2016年に行ったアンケートによれば、歯科に年に1回以上かかっている人は全体の約半数(49%)にのぼる。

 一方、全国保険医団体連合会が10年に行ったアンケートによれば、治療をせずそのまま放置している歯があると答えた回答者は全体の36・6%を占め、その理由として52・0%の人が「時間がない」と答えている。つまり、歯科に行く必要を理解していても、時間がかかることを気にして、痛み出すまで放置する人は多い。

 確かに歯の治療には時間がかかる。これは、むし歯の傷んだ歯髄を取り除く根幹治療などの時間を要する治療の影響もあるが、歯に入れる詰め物(インレー)やかぶせ物(クラウン)などの補綴物(ほてつぶつ)を作るのに要する時間の影響も大きい。補綴物が早く出来上がれば、治療時間の短縮につながる。

 例えばクラウンの場合、歯科クリニックで、むし歯を治療した後、金属の土台をとり付けて形を整えてから、印象材という歯の型を取る材料を使い、治療中の歯と周辺の型どりを行う。外注先の歯科技工所などに送られ、この型に石こうを流し込んで模型を作り、その上でセラミックスや金属を用いたクラウンを作製する。再びクリニックに戻って、このクラウンを治療している歯の金属の土台にセメントで取り付ける。

 14年以降、CAD/CAM装置を用いて作製したハイブリッドレジンクラウンが健康保険の適用となり、その後CAD/CAM装置を用いた補綴物作製が急速に普及した。CADはコンピューター支援による設計、CAMはコンピューター支援による加工・製作のことだ。保険診療では、印象材で取得した型を3Dスキャンして、レジンブロックを切削してクラウンを作製する。

 それでも、印象材を使用するところまでは従来と同じだ。そこで口腔内を直接3Dスキャンし、印象材を用いずに補綴物を作製するシステムが開発された。それがジーシー社の歯科クリニック用CAD/CAMシステム「Planmeca FIT」だ。

 チェアサイドで高精度な3Dデジタル光学印象を行うための口腔内スキャナー、歯科医自身が補綴物を簡単に設計できるCADソフト、セラミックブロックやハイブリッドレジンブロックを高速で切削し高精度の補綴物を加工するミリングマシーンからなる。これがあれば、歯科クリニック内で補綴物を短時間で作製でき、治療時間の短縮につながるだろう。医療機器の製造現場でも、CAD/CAMや3Dプリンターの利用が進んでいるが、治療現場でのオーダメイド医療は、歯科補綴物から始まっている。
                     

(文=毛利光伸<旭リサーチセンター主幹研究員>)
日刊工業新聞2019年2月14日

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