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「GAFA」躍進の原動力、「システム思考」は日本に根付くか

トヨタ自動車など一般社団法人を立ち上げ
 モノやビジネスの全体像を描いてから詳細設計を決める「システム思考」をテーマに、産学の新たな挑戦が始まる。トヨタ自動車、ファナック、三菱電機など約30社が学界と組み、システム思考について企業への助言や人材育成などを行う一般社団法人「システムイノベーションセンター(SIC)」を立ち上げた。システム思考はグーグルなど米IT大手の躍進を支え、また日本では普及・活用が遅れているという。強い危機感の下で発足したSICの活動が注目される。

 「日本のシステム思考は未成熟だ」―。発起人の1人、木村英紀東京大学名誉教授は、組織立ち上げの理由に国内産業界が抱える決定的な課題を挙げる。海外ではグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルの「GAFA」と呼ばれる米IT大手がサービス業、製造業などの枠を超えた巨大なビジネスモデルを構築し、急速に成長。それを可能にしたのが「システムイノベーションだ」(木村名誉教授)という。

 ビジネス全体と収益モデルを描いた上で個々のサービスや製品を生むイノベーションのあり方は、要素技術を起点に商材を開発する国内企業の伝統的な思考パターンとは対極的だ。特に技術やサプライチェーンが複雑化する昨今、全体最適型のシステム思考は欠かせない。「国内企業は変わらないといけない」。木村名誉教授は警鐘を鳴らす。

 SICの発起人には木村名誉教授のほか、ギル・プラットトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)最高経営責任者(CEO)、斉藤裕ファナック副社長(SIC代表理事・センター長)ら10人以上が名を連ねる。システム思考の遅れに対する彼らの危機感が組織化につながった。

 SICの使命の一つが、システム思考の普及・活用を促すための企業支援だ。吉村忍東京大学教授や白坂成功慶応義塾大学教授らシステム学の専門家約30人で学術協議会を構成。会員企業を対象に、システム思考に基づく経営や開発について無料で支援する。

 また、産業界でシステム思考をリードする人材も育成する。今春から会員、非会員向けに「人工知能(AI)とシステム」などがテーマの短期集中講座を開く予定。イノベーションを生むため、専門人材の交流を促す狙いもある。

 要素技術で成功を収めてきた背景もあり、これまで日本の産業界でシステム論は重んじられない傾向にあった。にわかにシステムの重要性が増す中、存在感を発揮できるか―。新たな産学組織の“本気度”が試される。

                   

(文=藤崎竜介)
日刊工業新聞2019年2月26日

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