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【慶大×ローランド・ベルガー】日本がデザイン思考を使い倒すには?

連載「デザイン思考と日本流イノベーション」(下)
【慶大×ローランド・ベルガー】日本がデザイン思考を使い倒すには?

長島氏(左)と白坂氏(右)はデザイン思考とシステム思考を用いたイノベーション量産の方法論を研究

 デザイン思考を日本企業が使いこなすコツは何か。慶応義塾大学と独コンサルタント大手のローランド・ベルガー(東京都港区)は、デザイン思考や社会の諸問題を俯瞰化して課題解決する「システム思考」を使ったイノベーション量産の方法論をまとめる研究を始めた。慶大の白坂成功教授とローランド・ベルガーの長島聡社長に思考の極意を聞いた。

デザイン思考…デザイナーがアイデアを生む時の思考プロセスを体系化し、全ての人も優れたアイデアを生み出せる思考方法。「ユーザー中心」と「やってみる」が重要なポイント。(1)理解と共感(2)問題の定義(3)アイデア発想(4)プロトタイプ&テストというプロセスを何度も繰り返す。多くのアイデアを出し、素早く試して、アイデアの拡散と収束を繰り返す。アップルやグーグルなどが新製品・新サービスを開発する時に利用している。

日本でうまくいかない理由


 ―デザイン思考は、課題解決の手法として日本企業にも広まってきました。

 長島氏 うまくいかない日本企業もある。デザイン思考は米スタンフォード大出身者らが設立したIDEOがビジネス向けに広めた。日本でうまくいかない理由は、彼らの思考方法との違いに理由があると思う。

 白坂氏 スタンフォード大では言葉による討論で考えを深めているが、日本人は抽象度の高い討論が苦手で、可視化したデータを扱うことが得意。議論の補助として、思考の流れを可視化するなどのツールを用意すれば、日本企業のイノベーションに役立つ。

 長島氏 共同研究を通じて武器として使えるツールを用意し、個人のセンスに頼らずにイノベーションを起こせるようにしたい。

 ―デザイン思考に、「自分や身近な人の困り事を掘り下げて考える」方法があります。これも個人のセンスに頼らない方法ではありませんか。

 白坂氏 良い方法だが、仕事として取り組む課題解決は、自分では体験できない時もある。例えば成功例では、冷凍食品の課題を探すテーマに対し、研究室の学生が冷凍食品を食べ続けると、意外にも「(作るのが)面倒くさい」という課題が出てきた。商品中心に考えて開発しているため、温め時間や開封方法が違う。老人ホームで調査すると実際に温めの失敗があった。人中心に考えれば温め時間は同じ方がいい。

発想を生みやすくする“武器”


 -他にデザイン思考の落とし穴はありますか。

 白坂氏 プロトタイプとテストにも、注意点がある。例えば、「将来のモビリティー」を考えるテーマに対し、ある学生の出したアイデアは、フロントガラスに過去の風景画像を映し出すというもの。会話の少ない親子の間で、車での送り迎えは貴重な時間。過去の風景画像を見ると『あれは何?』と尋ねて、話が弾むきっかけになる。プロトタイプのテスト評価は良かったが、それは『親子の会話』という課題認識が評価されたか、『フロントガラスに写真を映す』ソリューションが評価されたのかを正しく判断しなければならない。判断のためのガイドが必要ではないだろうか。
デザイン思考のプロセス

 ―共同研究では、具体的にどんなことに取り組みますか。

 長島氏 ローランド・ベルガーのプロジェクトを題材に、会話の履歴を集めて小さなイノベーションが起きた時に、「何がきっかけだったのか」を洗い出す。会議などの場で話の流れを変えるほか、発想を生みやすくする武器(ツール)やガイドを作りたい。

 -研究成果はどう活用しますか。

 長島氏 中小企業を経営する人に、抽出した武器(ツール)などの共同研究の成果を移植する。最終的に、日本型のイノベーション(和ノベーション)を量産できる状態をつくりたい。

 白坂氏 これまで学術界は、産学連携において産業界の研究開発の一部分を請け負っていたが、今回は新しい産学連携の形になる。当研究室はイノベーションを生むための“体系”づくりを担い、できたものを企業に返す。

新しいモノを生む人の共通点


 ―日本企業から世界を驚かせるような商品の登場が減りました。日本は新しい構想が苦手になったのでしょうか。

 白坂氏 苦手ではなく、訓練ができてない。組織のあり方も関係する。経営トップは、既存事業と新規事業は違う評価軸で進めなければならない。また、専門分野の異なる人たちの多様性からアイデアが出て、新しい価値が生まれる。異分野間の議論を助けるため、議論の内容を構造化・可視化するツールも有効だろう。

 長島氏 残念ながら、これまで日本企業はマイナーチェンジが多すぎた。そのため仕事が増え、新しいモノを生むためのリソースが足りなくなっている。

 ―イノベーションに向けた活動で、注目する企業はありますか。

 長島氏 パナソニックは「タテパナ」と「ヨコパナ」というキーワードで、イノベーションを量産化する仕組みを考えている。ここまで劇的に変えている会社はほかにない。

 ―新しいモノを生み出しやすい人の特徴は。

 長島氏 複数の企業を見たが、既存の仕事で成果を出している人ほど新しいモノを生み出せていた。これには理由がある。既存の仕事も、考える範囲を広げて工夫しなければ成果を出し続けられない。成果を出せる人は自分なりに考える範囲を広がるなどの工夫をしており、考える能力が高い。これは別の分野でも生かせる。また、何か始めた時、周りが「アイツが言うことなら」と納得しやすい。経営者はこういった人を既存組織からどう抜き出すか、考えなくてはならない。そして、組織に残った人で、その人が抜けた後も成果を出し続けられれば、モチベーションを高められる。
(了)

連載(上)「デザイン思考の伝道師が説く、イノベーション創出でリーダーに求められること」へ

パナソニックは組織を変革し、イノベーションを量産化する(パナソニックβ)

日刊工業新聞2018年11月15日掲載から加筆・修正
梶原洵子
梶原洵子 Kajiwara Junko 編集局第二産業部 記者
日本人は抽象度の高い議論が苦手なので、そこをツールなどで補うという考え方は納得です。IDEO創設者は著書の中で「自分が創造力を持っていると信じ続ける」や「現場に行って観察する」、「視点をずらして、問題の枠組みを捉え直す」などの心構えが重要だと説いています。これに付け加える日本人向けの心構えが1、2点あってもいいのかもしれません。

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